- 共同体社会と人類婚姻史 - http://bbs.jinruisi.net/blog -

ミクロネシア、サタワル島の母系社会

アメリカ先住民:イロクォイ族の母系社会 [1]と同様、妻方居住の婿入り婚をとるミクロネシア、サタワル島の母系社会を紹介します。
サタワルの母系社会は、母系の出自による集団編成(母系の血筋を同じくする女性たちと婿入りしてきた夫たちとその子供および養子)で、生産手段の共有と生産物の共同分配・共同消費という体制をとる。そして、母系出自集団の財や集団の特権や地位は、母系の相続・継承法に基づいて次世代へと受け継がれてゆく。
このように妻方同居の母系社会は、女性(姉妹)が母系一族の本拠地にとどまり、一定の財を共有・管理して生産活動を営み、家事と育児を共同で行うという仕組みを基盤にしている。一方で、女性(姉妹)の兄弟が、婿にでた遠方から、姉妹や母系集団の統率者としてコントロールしており(夫は妻の兄弟には頭が上がらない)、夫婦関係ではなく兄弟姉妹関係を核として成り立っている社会ともいえる。
男性からみれば、出自母系集団と婿入り先の母系集団のあいだで板ばさみの境遇に置かれる体制ともいえ、サタワルでは、父-子相続も一部認めるなどの制度によってこの対立関係を緩和している。(筆者注:これは母系集団の解体ベクトルをもつ。)


東インド諸島東部の地図(図をクリックすると大きくなります)
サタワル島は地図の上部ほぼ中央
r.gif [2]
母系社会では、母系集団の共有財である家屋・土地・樹林について、父から息子や娘への相続を許すことはほとんどないが、サタワルでは、男性が土地などの財の一部を自分の子供に贈与・相続させる慣行をあわせもっている。
(注:多くの母系社会では、男性が自分の手で作り上げたものや独力で獲得したものは、彼の自由裁量で処分することを認めているが、集団の共有財は認めていない。)
この点でサタワルの父-子相続制は、特徴的な制度となっている。
これは、ともに生活し育て上げる父親と子供とのつながりを公認し、姉妹の子(甥・姪)との間で起こる「愛情葛藤」を和らげる方法となっている。
このことは、他方においては、母系集団間で食料資源を融通しあう手段にもなっている。つまり、集団から婚出する男性が、自分の食い扶持と、生まれてくる自分の子供のための食料資源を贈与することでもある(筆者注:婿入り時の持参財ともいえる)。
人口の減る集団が、人口の増加する集団に財を譲渡することになり、集団人口と食料資源のバランスを保つ機能を果たしているのである。
さらに、男性の権威の配分についても、父親としての立場と、母方オジとしての立場が拮抗しない仕組みが作られている。父親としての男性は、自分の責任のもとに子供に影響力を与え、養育する権限を持っている。ただし、子供が成人するまでの期間という条件がつく。子供の成人後は、母方オジが絶対的な支配権を持つのである。
このことを別の観点から見れば、男性が家庭的領域(妻との家族生活)と公的領域(自分や姉妹の母系出自集団)とに割り振られているともいえる。母系社会において相反する存在である男性は、子供の成長段階に合わせて、その権威を使い分けることができるのである。
このようにして、サタワルの母系制は構造上の矛盾を克服しているのである。
*****須藤健一著『母系社会の構造 サンゴ礁の島々の民族誌』より*****
既にサタワルの婿入り婚は個人婚(自由婚)の段階であり、女・男ともに自我・私権意識が相当芽生えていると考えてよい。
男の持参財⇒父-子相続が、遊牧部族の嫁入り女の持参財 [3]がそうであったように、集団の中に私有物を登場させてしまった。このことが、母系集団を解体・分裂させる要因として働くことになるのだろう。
 読んでもらってありがとう(^_^) by岡 

[4] [5] [6]