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ミクロネシア・ヤップ島の紹介 

以前「ミクロネシア・サタワル島の母系原理と父系原理の攻防 [1]」でサタワルの事例が紹介されました。今回は続いてヤップ島の事例を紹介したいと思います。
ヤップ島では父系性が強い社会と言えますが、一部に母系的要素も残存しています。
よろしく     


以下「ミクロネシアにおける土地所有体系と出自集団の関係 [2]」より

ヤップ社会における土地所有の単位は、タビナウと呼ばれる家屋敷集団である。タビナウという言葉は、状況によって、屋敷・家屋あるいは家屋敷を構成する人々を指し示す。タビナウは「一つの土地」を意味し、そこに住んでいる人「ギディ・エ・タビナウ=一つの土地の人」は、特定の土地と結びついている人という意味になる。ヤップ社会の基盤は土地であり、「土地に力がある」とされている。個人は屋敷地の相続を通じて、その土地に付与されている特定の特権と職能を受け継ぐ[牛島1987:124、1989a:193]。
タビナウは、夫方居住婚に基づく拡大家族で構成されている。男、その妻、既婚の息子達とその妻達、未婚の息子達と娘達、父系的な孫達がその成員である。そして、最年長の男が土地、動産の管財人であり、成員に土地を割り当てる[牛島1987:126]。
タビナウの土地に住み、土地に対する権利を持つものが「一つの土地の人」なのである。これらの土地は一つのセットとして年長の男からその兄弟、ついで息子へと受け継がれる[牛島1989a:193]。

次に、母と子の関係については以下のように述べられている。
各人はタビナウとは別に母系シブ(ガノン)に帰属する。これは母-子関係を基本としている。女性は原則としてはタビナウの土地を相続しない。タビナウへの女性の成員権は居住で決定される。つまり、彼女が生まれたタビナウに居住している間はそこの成員であり、結婚したあとは婚出先のタビナウの成員となる。
婚入してきた女性は土地を割り当てられ、その使用権を獲得することになる。このように、男性の土地が自分の生まれたタビナウにあるのに対して、女性の土地は婚出していったタビナウにある。これを「足の処に土地がある」という。さらに女性は行った先で「土地を釣る」ともいう。この表現は、婚出先のタビナウでの土地の使用権を得るだけではなく、最終的に土地を自分の子供のものにすることが女性にとって肝要であることを示している。
さて、ヤップでは人が働いて出来たものには「骨」があるという観念がある。労働に対しては労働で報いなければならないとされ、これを「骨を切る」という。タビナウの土地も先祖達が労働して開拓してきたものである。よって、母は子供に土地を獲得させるために、「土地の骨を切ら」ねばならない。具体的には、性的奉仕と土地の耕作、調理などの労働を通じた、夫とそのタビナウへの貢献である。また、子供には、父を尊敬し、従順で、老後の世話をするように教えなければならない[牛島1987:138-140、1989a:194、1989b:164]。

女性は婚出時に、わずかな土地を与えられる。これは娘と実家との結びつきの象徴程度のものである。この土地はいずれ女性の子供、それも息子の財産になる。また女性は婚出後も「母の乳房の土地」と呼ばれる自分の生まれたタビナウとつながりを持っている(なお、牛島は「母の乳房の土地」を「女性のもう一つの土地」と記述しているが、実質的な土地所有権があるわけではない)。ここは彼女の兄弟ないしは兄弟の息子が居住し、守っている。
彼女は兄弟の息子から見てマフェンと呼ばれ、マフェンは兄弟の土地を受け継いだ兄弟の子供及びその母に対し、監督者であり保護者でもある。この地位は、彼女の子供、さらに娘の子供へと女系的に継承される。子供達はマフェンを尊敬し、従順でなければならない。もしそうでなければ、マフェンは彼らをそのタビナウから追放することができる。また、儀礼的交換におけるマフェンの役割は重要である。マフェンは、儀礼的交換の際に兄弟の子供達に最も大量に物資を調達してくれ、タビナウの祖霊はマフェンの言うことなら聞いてくれると信じられている。
[牛島1989a:194-195、1987:134-136,149]。
女性とタビナウとの関係をまとめると、女性は婚出して、子供を産み、夫の土地を自分の子供のものにする。しかし、そこには夫の姉妹がマフェンとして自己や子供を監督している。他方、自己の生まれたタビナウでは、マフェンとなって他から婚入した女性とその子供を監督する。しかし、土地のことでは干渉しない[牛島1987:150-151]。

 
土地相続という観点からみれば父系的要素が強いが、女はマフェンという役割を通じて出身集団との繋がりを維持し、その地位は女系的に継承される。
マフェンは母系から父系への転換にあって、父系(夫方居住と土地相続)による女の存在不安を解消するものとして、編み出された様式と見ることは出来ないでしょうか?

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