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母系社会:サタワル島の子育て~胎教

「母系社会:サタワル島の子育て~『子どもはみんなで育てる』」 [1]に引き続き、妻方居住の婿入り婚をとるミクロネシア、サタワル島の母系社会の子育てを紹介します。
ブログ『家庭を聖域にしてはいけない』さんの記事『胎教って何??』 [2]を読んで、伝統的な母系社会にも胎教があるのだろうかと思い少し調べてみました。
サタワル島にも胎教がありました。ただし、私達のイメージする胎教とはずいぶん違っています。胎教とともにサタワル島での妊婦の生活、夫の役割などを紹介します。


●サタワル島では、胎児や一人歩きするまでの幼児は、コースと呼ばれる「霊的存在」と深く関わっていると考えられていて、コースは乳幼児期の子供を庇護すると同時に、子どもに病気などの災いをもたらす、と言う信仰があるようです。妊娠、胎教、子育てを通じて、このコースと呼ばれる「霊的存在」との関連の中で、「何をしなければならないか?」「何をしてはいけないか?」が共有されているようです。
●妊婦は「腹のヒト」「腹のふくらんだヒト」と呼ばれ、普通の人とは異なる状態にあるとみなされ、さまざまなエピン(禁忌)がともないます。
朝昼夕に水浴し、昼間は腰布の上にシャツや貫頭衣をまとい、いろいろな食物規制を守ります。また、胎児が流産するという理由から、4ヶ月めまでと7ヶ月以降は夫と性関係をもってはならないとされています。
それらの禁忌を守らないと「血の穢れ」が島中に蔓延して、島の重要な食糧始原を枯渇させるという信仰があるのですが、これは出産を控えた母親や胎児を守るための集団規範といえそうです。(『穢れ』については「『穢れ』って何?」 [3]をどうぞ)
●そのようなタブーを守るとともに、日常生活においても妊婦の胎教が大事とされます。妊婦の気分を害したり、怒らせ興奮させたりすると、胎児はコースによって死産にさせられたり、産まれても病弱になると考えられています。したがって、妊婦が心穏やかに過ごせるように配慮され、その役割は主に夫が担います。
夫は妊娠中の妻の期待を優先し、できるだけ妻のそばにいることが日課となります。妊婦の胎教にはなによりも夫の気配りと期待に応える意識が大切とされます。
ただし、この妻と夫の関係は、子どもが話し出し、一人で歩けるようになる2~3歳になると終わります。子育てで手が離せない母親を守るという「夫」という役割が終われば、漁などの島の男の日課に戻ります。
●妊婦は妊娠3、5、9ヶ月めに「妊娠の呪薬」を一週間飲み続けます。その薬はココナツの樹皮、芳香のする草の葉、シダ類の根をすりつぶして、ココナツの液汁に混ぜた絞り汁です。
3ヶ月めと5ヶ月めの薬はつわりを和らげるともに、母胎にいる子が強いか弱いかを試すものであるともいわれます。もし、ひ弱な胎児でだったら、コースの霊力をかりてその呪薬によって葬ってしまうという目的もあるようです。実際にその薬を飲んで流産をした経験を持つ女性はかなりいるようです。
一見残酷なようですが、これは厳しい自然環境の中暮らす人々の知恵なのだと思います。強くなければ生きていけないという状況認識でしょうか。胎内にいるときから「強く生まれおちる」ことを願う島の人々の期待ともいえそうです。
(参考:『母系社会の構造』須藤健一著)



サタワル島では、親達が習得できなかった知識や「見果てぬ夢」をこれから生まれてくる子どもに押し付ける事はありません。生まれてから向き合うこととなる厳しい自然環境の中で生き抜く強さを期待し、将来の集団の仲間に対するみんなの期待を感じて欲しいと願っているだけなのだと思います。
サタワル島の子育ては、子供を甘やかし、子供の世界に放任しておく時期と、大人の世界へ仲間入りするための術を身につけさせる時期を区分しています。甘やかすと言っても、両時期に一貫しているのは、島の社会で生きていくうえでの行動様式と技術・知識を身につけることが重要視されています。胎教においてもこの現実直視の姿勢に貫かれているのようです。(@さいこう)
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