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『ミトコンドリア・イブ』の単位は集団である!

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1988年、『Newsweek』誌の表紙を、黒人の‘アダムとイブ’のイラストが飾りました。
記録的な部数を売り上げたこの号は、その前年、アメリカのアラン・ウィルソンを中心とする分子生物学者が発表した論文を基に記事が書かれました。
アラン・ウィルソンのグループは、世界の出来るだけ多くの民族を含む147人のミトコンドリアDNAを解析→系統樹を作成し、現代人類の共通の遺伝的祖先がアフリカに存在したことを示唆したのです。
その後、マスコミによって『ミトコンドリア・イブ』という名前が付けられ、現代人はアフリカのたった一人の女性祖先に行き着くという誤解が生じています。
『ミトコンドリア・イブ』とは何なのか?今回は、分子生物学と人類学を繋ぎ、人類のアフリカ単一進化説の根拠となっているミトコンドリアDNAについて追求してみたいと思います。
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●そもそもミトコンドリアって何?
ミトコンドリアは細胞の中にある小器官であり、細胞内で酸素を使ってエネルギーを作り出す役割を果たしています。
進化史的には、ミトコンドリアはかつて(酸素を好む)好気性のバクテリア細胞だったものが、真核生物の中に入り込み共生を始めたと言われています。従ってミトコンドリアには、細胞内の核とは別に独自の環状DNAをもっています。そしてミトコンドリアDNAは完全母系遺伝するという性質があります。父親と母親の間に出来た子供のミトコンドリアは、母親のミトコンドリアDNAを100%受け継ぎ、父親のミトコンドリアDNAは受け継がれません。
●ミトコンドリアの母性遺伝の仕組み
そもそもどうして、ミトコンドリアは母性遺伝をするのか?この現象は、精子と卵の受精の過程に由来します。精子は、頭部に核を持ち、胴体部分(中片と呼びます)にミトコンドリアを持ちます。そして尾部が鞭毛です。これが受精時には、精子の頭部内に存在する核とミトコンドリアが卵細胞に進入します。精子由来の核は、卵由来の核と融合します。ところが、精子由来のミトコンドリは卵細胞の分解酵素によって分解されてしまいます。その結果、受精した後の卵細胞には卵由来のミトコンドリアのみが残るわけです。
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( 『Jabion』母性遺伝のミトコンドリアDNA [4]より引用)
●ミトコンドリアDNAによる母系系統樹
ミトコンドリアDNAは完全母系遺伝ですが、1000世代に1つの割合で(偶発的なコピーミス)によって突然変異を引き起こします。変異したミトコンドリアDNAは、その後に続く娘たちに引き継がれていきます。ある一つの系統において突然変異することは極めて稀ですが、母数が拡大することによって総体的な変異の確立は増加していきます。
従って、様々な人種のミトコンドリアDNAを比較し、変異率や変異箇所の重複から共通の祖先に至る人種の系統樹をつくることが可能になります。
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( 『JT生命館』宮田隆の進化の話 [6]より引用)
●系統樹からわかること
『人類の足跡 10万年史』において遺伝学者のスティーブン・オッペンハイマーは以下のように述べています。

当時マスコミにもてはやされた「イブ」とか、「ファーストレディー」という言葉は、遺伝学者からすれば厳密には正確ではない。ミトコンドリアDNAを使い、人類の受け継いだもののごくわずかな部分について母系の遺伝子系統の源をつきとめたにすぎないからだ。
そしてミトコンドリア・イブとは、マスコミでよく言われるような、ただ一人「最初の母」という個人ではなかった。母方の遺伝子を共通の祖先までだとっていっても、そのことはわたしたちの遺伝子のすべてのが一人の女性から由来していることを意味しない。それぞれの細胞核には、何万もの遺伝子があり、そのどれを標識システムとして使ってもひとつの共通祖先まで遺伝子系統をたどることができる。わたしたちの遺伝子はそれぞれの世代で混ざるため、その遺伝子系統樹はかならずしも同じ祖先までいきつくとはかぎらない。実際のところ、現生人類が受け継いでいる遺伝子は、19万年前頃生きていた2000~1万人のアフリカ人を核とする集団に由来するものだろう。

「ミトコンドリア・イブ」の単位は集団である!
これが、分子生物学から導き出されている結論です。
読んでくれてありがとう。byマツヒデ

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