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家族・婚姻に関する人類学の系譜3

『家族・婚姻に関する人類学の系譜2』 [1]で扱ったモルガン社会進化主義を論旨は、以下の3点にまとめられます。
 ①親族名称を比較研究することで、人類社会の歴史を類推できる。その結果、
 ②人類の社会は原初の時代から単線的に進化してきた(=社会進化主義)
 ③婚姻・親族については、原始乱婚→母系の集団婚→父系の単婚に転換した
元々社会進化主義は、イギリスを中心に発達した思想であり、産業革命を経たヨーロッパ人を進化の最先端に位置づけて発想されています。こうした時代背景の下、植民地支配を正当化する思想としての性格を帯び、更に人種差別観念に結び付いていきます。実際、人類学における未開部族の調査も、現地人が労働者としての資質を有しているかを目的とした側面があります。
そのような風潮の中、20Cに入ると、社会進化主義を批判する動きが出てくることになります。その代表格として、アメリカの人類学者F・ボアズ(1858~1942)と、イギリスの人類学者B・マリノフスキー(1880~1942)のニ人があげられます。
今回は、20C初頭、モルガン社会進化主義がどのように批判・否定されていったかを整理したいと思います。
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●親族名称の批判
ボアズ、マリノフスキーの二人はいずれも、自然科学の分野から人類学に転向したという共通点があります。(ボアズは物理学・地質学から、マリノフスキーは数学・物理学から人類学に転向しています。)
実証主義を重視する自然科学出身の二人からすると、モルガンが依拠した親族名称では学術的根拠足りえないと批判し、フィールドワークを重視する立場をでも共通します。
実際、モルガンは、各地の民族学者・宣教師・商人・領事・開拓者たちに質問状を送って親族名称データを収集しており、この一点が揺らげば、モルガン学説全体が瓦解する脆弱さを秘めています。
●ボアズによる進化主義批判
Franz%2520Boas.jpg [3] 社会進化主義とは、言い換えれば欧米社会中心主義とも言えます。それに対してボアズは、全ての民族の文化は相対的で優劣を付けるべきでは無いと主張し、観察者の価値観を排除して、ありのままの文化を理解せよと主張すると共に、徹底的に社会進化主義を批判していきます。
こうした主張の背景には、ボアズ自身がドイツ生まれのユダヤ人であったことが、その思想に大きく影響を与えています。当時のドイツはいくつもの連邦から成り、イギリスやフランスと対抗できる国民国家を志向するに当たり、反ユダヤ主義を標榜する時期と重なります。そのような背景にあって、アメリカに渡り、反ユダヤ主義に対抗する手段として文化相対主義を唱えざる得なかった事情があったと言えます。
●マリノフスキーによる集団婚批判
Malinowski1.jpg [4] 人類学者としてのマリノフスキーは、トロブリアント諸島の調査で、贈与文化としてのクラ交換を紹介したことで知られています。さらに同諸島の家族・婚姻形態の調査結果から、進化論的な家族論,とくに原始乱婚説や集団婚説を批判し,個別的婚姻・個別的家族なる概念を主張します。個別的婚姻とは,一人の男性と一人の女性との持続的な結びつきをさし,それにもとづいて,父・母・子からなる個別的家族が生じるとし、しかもその個別的家族は人間社会にとって,普遍的存在であると主張します。
家族・婚姻形態以外にも、マリノフスキーの主張は、ある社会の文化とは、その社会を構成する個人の欲求の総体であるという考えを示しており、思想の随所に個人主義の影響があると考えられます。
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読んでくれてありがとう。(マツヒデ)

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