ブライダル産業が好調らしい。
金融危機以降、全ての産業が縮小していく中で、ブライダル産業は影響を受けていないようです。
その理由として、人々の意識が共同体的なものへと回帰しているからではないか、という記事がありましたので、紹介したいと思います。
内田樹の研究室 「小体な共同体へ」 [1] からの引用です。
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[2]
以下引用
(中略)
途中で、お昼ご飯、おやつのブレークを入れて、車座になる。
お茶を啜りながら、がやがやしゃべっていると、何か不思議な既視感が感ぜられるのである。
合気道の諸君といると、いつも感じることだが、この共同体のかたちはずいぶん古めかしいもののような気がする。
従業員十名ほどの町工場の昼休みというか、祖母の十三回忌に集まった田舎の親戚たちというか、そういう感じ。
私が子どものころまではそういうものが共同体のデフォルトだった。
いつかそういう手触りの共同体は私たちのまわりからすっかり失われてしまった。
でも、私にはこのサイズの、この親疎の距離感が、きわめて心地よい。
小津安二郎の『秋日和』に出てくる丸の内のサラリーマンとOLたちの休日が私にとってはある種の理想である。
(中略)
街はクリスマス時期であるが、お掃除部隊のみなさんは街へ出るよりは、同門の道友たちと集って、鍋をつつきワインを飲みながら、合気道について、恋愛と結婚について、終わりなき対話を繰り広げている方が楽しそうである。
私はこの傾向はずいぶん健全なものではないかと思う。
メディアではものが売れなくなったと言うが、その一方できわめて好調な売り上げを達成している業界もある。
仄聞するところによると、結婚式産業がたいへん潤っているらしい。
ブライダル産業でバイトをしているゼミ生が二人いるが、彼女たちの報告によると、金融危機以降もこの業界はまったく売り上げは落ちていないどころか、どんどんクライアントが増えているそうである。
どうやら、若い人たちは「きちんとした結婚式を挙げる」ことに意欲的になっているらしい。
これは「リスク社会において、人々は再び血縁共同体という相互支援ネットワークをもつことの重要性を思い知るようになるであろう」という私の予言とも平仄が合っている。
私たちはまたふたたび私の父親たちの世代がそうであったような、社員旅行や週末のハイキングや麻雀を待ちわび、結婚式や法事に集まる親戚や旧友たちとのやりとりに打ち興じる小体で慎ましい共同体に回帰しつつあるような気がする。
以上引用終わり
金融破綻から、誰もが市場社会の限界を感じ取っています。カネやモノによる豊かさ実現から、人と人との繋がりへ、互いの期待やそれに応えあっていくことの充足感へと人々の意識は転換しつつあります。
市場原理をこれ以上追い求めるのではなく、血縁や同僚など人同士の繋がり、安心できる関係作りを重要視し始め、「脱市場」の潮流が大きく動き始めたのでは、と感じます。
市場が縮小する中でブライダル産業が好調というのも、結婚式という場を通して親族や仲間に喜んでもらいたい、充足してもらいたい、そんな場を作りたいと言う気持ちが高まっている表れではないかと思います。
人々が互いに安心できる関係、共に課題を共有する仲間との関係に向かっていくのは、確かに共同体への回帰の兆しではないかと思います。