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生命と物質の共進化⇒安定化に向う物質と変異に向かう生命のバランス

地球の歴史において、生物は著しい進化を遂げ、環境は激しく変動してきた。生物と環境はそれぞれ独立に変化してきたのではなく、環境が生命の誕生も含めて生命に影響を及ぼすとともに、生物も環境に大きな影響を及ぼしてきた。これが「生命と環境の共進化」という説である。
これまでは、「鉱物の世界」と「生物の世界」とは別に動いていると、誰もが暗黙のうちに考えていたが、地上に存在する大半の鉱物は生命体が生じた結果できたもので、地上に存在するおよそ 4500 の鉱物のうち、約3分の2は、大酸化イベント以降に酸素を多く含む水と前から存在していた鉱物の相互作用により、地殻の浅い部分で形成されたことが、分かってきた。
つまり、鉱物は生物を変え、逆に生物も鉱物を変えるという共依存関係にあり、地球進化とは、「岩石圏と生物圏の共進化」と呼べるダイナミックなものなものだった。

国立研究開発法人農業環境技術研究所「農業と環境 No.186 (2015年10月1日)」本の紹介 351: 地球進化46億年の物語 -「青い惑星」はいかにしてできたのか-、 ロバート・ヘイゼン 著、講談社2014年5月) [1]より転載する。

鉱物を解析することで太古の地球に関する数多くの情報が得られることからわかるように、生物学と地質学は密接に絡み合っている。それにもかかわらず、地質学は生物学とはほとんど関係ないとされ、鉱物学はなぜか長い間、壮大な地球の歴史と切り離されて教えられてきたという。しかし鉱物は生物を変え、逆に生物も鉱物を変えるという共依存関係にあり、岩石圏と生物圏は共進化を遂げてきたとする。

地球上の生命の起源において、鉱物は大きな役割を果たしたと考える。太古の時代、生命の素材となるアミノ酸、糖類、脂質といった分子は、炭素を持つ分子とエネルギー源のある環境ならどこでも、ある程度の量が生産されていた。その中で脂質以外の合成された有機分子はほとんど自己組織化されないが、それらは鉱物の表面に付着している。個体の鉱物には分子を選択、凝集、組織化するといった力があり、そのような力を持つ鉱物が、生命の発生に中心的な力を果たしたのではないかと考える。

地球が生まれてまだ間もないころ、酸化還元反応でエネルギーが生じていたが、そのペースはゆっくりしたものであった。誕生した生命体は、こうした酸化還元反応をより効率よくおこなうようになった。微生物はその後次第に反応のスピードを上げていく。地球誕生から20億年が経過しても、地表あるいはその近くで生命体が存在したために鉱物に何らかの影響が生じたという現象は見られなかったが、微生物は、生命が生まれていなかった場合よりも多くの酸化鉄、石灰岩、硫酸塩、リン酸塩を生み出し、こうして次の段階への準備が進んでいく。こうして起こったのが、大酸化イベントである。

25億年以上前の地球には、基本的に酸素(O2)はなかった。酸素発生型の光合成をおこなう細菌(シアノバクテリウム)の出現により、24億年前から22億年前の間に大きな変化が起こり、大気の酸素濃度は現在のレベルの1%以上にまで増えた。この不可逆的な変化により、岩石と鉱物も含む地球の地表近くの環境は大きく変わり、さらに劇的な変化に道を開いていった。

鉱物の世界は生物の世界とは別に動いていると、何百年にわたり誰もが暗黙のうちに考えていた。それに対して著者は、地上に存在する大半の鉱物は生命体が生じた結果できたものであり、「岩石圏と生物圏の共進化」 という説を提唱した。地上に存在するおよそ 4500 の鉱物のうち、約3分の2は、大酸化イベント以降に酸素を多く含む水と前から存在していた鉱物の相互作用により、地殻の浅い部分で形成されたからである。

大酸化イベントの後の10億年(18億5000万年~8億5000万年前)は、目覚ましい生物の進化も見られず、地球史上退屈な時代といわれている。その理由を、以下のように説明する。大気中の酸素が1%に増加しても、それが海洋に反映するまでには長い時間を要した。その一方で、陸地では酸素により風化と酸化が進み、大量の硫黄が海へと流入。海洋は酸素と鉄が乏しく硫黄(硫化水素)が多い状態で安定し(キャンフィールドの海)、その状態が10億年続いた。しかし逆に、この10億年間は、気候や生物のフィードバック、すべてが完璧な、調和のとれたバランスを保っていた、地球史上まれな安定した時代でもあった。

しかし、8億5000万年前にいくつかの変化が始まってバランスが崩れ、気候が変わる転換点を超え、7億4000万年前には、地球は空前絶後の気候不安定な時代に突入した。新原生代(原生代の末ころ)に、氷河が赤道まで広がる全球凍結(スノーボール)がおそらく3回発生。スノーボール現象の終わりには反動で灼熱(しゃくねつ)のホットハウス状態に豹変(ひょうへん)し、両者が繰り返すサイクルが始まった。極端な暑さと寒さを繰り返す中、海岸では風化が進み、リンなどの栄養素が大量に生成し、浅海では藻類が繁殖。その結果大気中の酸素濃度は上昇した。

風化によって形成される粘土鉱物は、新原生代に大幅に増加したことが考えられる。さらに沿岸部での微生物の増殖は粘土の形成を大幅に増加させ、有機物と結合して炭素の埋設が進むことで大気中の酸素量の増加をもたらした。その結果、およそ6億5000万年前には現代に近いレベルまで酸素濃度が増加。複雑な多細胞生物が生まれ、6億年前ころには動物にとって有利な生態系に変化し、カンブリア紀の進化の大爆発へと続いた。

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鉱物(物質)の大半は生命が作り出してきた。このことから、物質と生命の関係において、次のような仮説が成立する。

【仮説】物質には安定化のベクトルが働いており、生命には変異のベクトルが働いている。両者がバランスすることで地球環境が成り立っている。

実際、物質の化学反応は、不安定なものが安定化する現象である。例えば、鉄が錆びるのは、鉄が単体のままいるよりも錆(酸化鉄)になったほうが安定だからである。逆に、安定なものが不安定へ向かうことは滅多にない。非常に安定な物質はほとんど化学反応しない。

生物自体は安定性を保持しつつ、他方では変異を作り出すという極めて困難な課題を実現した存在であるが、自然界全体からみれば、物質は安定化に向かっており、生命は変異に向かっている。そして、安定化に向かう物質と変異に向かう生命がバランスすることで地球環境は成り立っている。

 

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