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母系社会シリーズ~カシ族の母系社会~

現在の日本では、女性が男性の家に嫁ぐという形が多いですね。
父方の血筋による血縁集団を基礎とするこの形態を父系制度と言います。
私たちはこれが一般的だと思っていますが、古代には日本を含めて世界中に多くの母系社会が存在していたということが分かっています。(母系社会とは、母方の血筋を継承していく婚姻形態です。)
よくよく考えてみると、母親や姉妹たちのいる集団の中で子育てが出来るのは、女性にとってとても安心できる環境ですね。集団としても安定しそうです。

そんな母系社会の事例を数回に亘って紹介していきます。

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メガラヤ州は山岳丘陵地帯であり(標高1000メートル以上)、東側にカシ族、西側にガロ族が住んでいる。
カシ族は、中国の雲南や安南(ベトナム)地方から山の尾根伝いにやってきた古代越系民族で、西のガロ族は、北のヒマラヤ南麓からやってきた人びとの末裔だとされているが、両方とも母系(母権)社会である。
森田勇造著『アジア稲作文化紀行』より。

■母親を中心とするおじさん後見人的社会 女家長の同意なくして何事も始まらない
カシ族の男によると、「女性が強いのは、男性より神秘的な力(生殖能力)を持っているし、なにより強い男を産む。男が女に権利を与え、男はその女のために生きる」のだという。 土地は個人、村、または部族の所有になっている。

・部族所有の土地は希望者が依頼し、部族長の許可を得て使う。
・使用していない村の所有地は村民なら誰でも無料で借りられる。しかし、2年間使用しないと自動的に使用権を失う。
・個人所有の土地は「おじ」の判断により家母長が同意すればどのようにでもできる。 村民たちは自給自足。

農作物の種類や作付面積は、母親の兄弟か息子が判断するが、決定は家母長がする。 男は皆入婿だが、村長や部族長は男だ。 しかし、実生活は女性が仕切り、積極的でよく働く。籾を杵でついたり、家畜の世話をしたり料理をするのは女たちである。男は椅子に座ってポケッとしている。 男の楽しみはハンティング。
この辺には象、豹、野豚、鹿などがいる。ときに象が村にやってきて農作物に被害が出ることもある。
そんなとき、男たちが集まって象を追っ払う。

親族集団の成員権や財産所有権は母親にあり、末娘が財産権を継ぐ
末娘以外の女は結婚してしばらくすると生家を出るが、親が近くに家を建て与えるので遠くへは行かない。男たちは他家の女性と結婚して生家を出る。 婚姻は男が女側に同居することだが、男には婚家の成員権や財産の監督権はなく、生家の姉妹の家族集団の成員権と財産の監督権がある。監督権は兄弟から姉妹の息子へと継承される。だから男は結婚後も生家のほうが居心地よく、絶えず訪れるので、子どもたちは父親よりも母方の「おじ」に親近感を持つ。 カシ族の母系社会は、社会的に強い女と腕力的に強い男の和合した、母親を中心とするおじさん後見人的社会でもある。

すべては男の奉仕から
カシ族の男女関係は自由恋愛であり、男が女に行うサービス(奉仕)から始まる。 独身の男は、未婚の娘や離婚した女の家を訪れ、労働力を無料で提供するより長く労働奉仕させる女が実力者で、魅惑的なのだ。そして、女がこれぞと思う男がいると身を許す。しかし結婚するとは限らない。今では一般的に一夫一婦であるが、以前は一妻多夫で、よい女は男にとっては大変な競争率であった。 女は自分の気に入った男がいると、誘惑して労働奉仕をさせ、夜も昼もよしとなると同じ屋根の下に同居することを許す。しかし、嫌いになれば追い出してしまう。男は死ぬまで女に尽くし、気に入ってもらわないことには落ちついて暮らす場所がない。男は「三界に家なし」の悲しい宿命を背負わされているのだ。 女性は若くても男女関係をもてるが、男性は女に尽くせるだけの知識・体力・精神力が身につかない限り困難である。母系社会では、男は女を得るために知徳体の修養が必要なので、より強くなければならない。 娘は結婚を決意すると、母親の兄弟であるおじさんに相談し、そして男の方のおじさんに話が行くが、最終的な決定権は娘の母親がもっている。 結婚式の当日から男は女の家に住みつくが、母親中心の家族構成の末席に入るようなもので、身勝手は許されない。女にとって夫は労働者であり、夜の相手であるだけなので、一家の内部事情に通じていない部外者なのだ。 最初の子どもができて2~3年後に夫は妻子を連れて里帰りする習慣があるが、これは、妻の家族から信用を得た証明でもある。 女と男が離別、離婚するのも容易で、数も多い。
これらの離婚の大半が、子どもが生まれなかったケースである。離婚のモーションを起こすのはほとんどが女だ。 妻が死ぬと夫は子どもを残して生家に帰り再婚する。女もしかりであるが子持ちだ。ここでは夫婦の縁は弱く、母親と子の絆が強いのである。

男たちの放浪
娘の多い家族の場合、複数の夫が住みつくが、仕事があまりないので、若い夫たちは妻の家に居づらく、出稼ぎに行ったり生家に戻ったりで留守がちだ。だいたいカシ族の男たちは結婚した後、出稼ぎを兼ねて2~3ヵ月またはそれ以上の長い旅に出ることが多い。稼ぎが悪いとどうしても出稼ぎの旅が長くなる。 土地が開墾され、田畑が多くなると、女たちは自分の所有地なのでせっせと農作業に従事し、収穫を上げる努力をするが、男には自分の管理する田畑はあっても所有地はないので、労働に自主性が乏しい。だから女のほうが積極的に働くので、男よりも労働力が大きい。 家を守る女よりは、自由に行動し、いろいろな体験をする男のほうが、はるかに行動範囲が広く、知識が豊かで洞察力もある。男はおのれを鍛えるために放浪の旅をし、空しさに耐えながら、村の女たちを守るためにいろいろなものと戦いつつ生活する。 野生動物のほとんどが母親を中心とする社会生活を営んでいる。人間も決して例外ではなく、本来は母親中心的な母系社会である
カシ族の母系社会では、男と女の愛ははかなく不確実なもので、母と子の絆こそが永遠だと信じられている。

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