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現生人類よりもネアンデルタール人は小脳が小さく、後頭葉が大きい。

●2018年に慶応大学荻原教授、名古屋大学田邊教授を中心とする研究グループが、数理工学的手法によって旧人ネアンデルタール人と新人クロマニヨン人(ホモ・サピエンス)の化石頭骨内の脳の形態を復元したと発表。
「脳の形態復元により、根案であるタール人のほうがホモ・サピエンスより小脳が小さいことを発見~絶滅の背景に脳の機能差が関係か?~」 [1]
その骨子は次の通り。
「脳全体のサイズには大きな違いはないが、ネアンデルタール人の小脳は、当時のホモ・サピエンス(クロマニヨン人)よりも小さい。
ネアンデルタール人の方が後頭葉が大きい一方で、違いが予想された前頭葉については、ネアンデルタール人もクロマニヨン人も差がなかった。
現代人の小脳の大きさと様々な認知課題成績の関係を調べた所、小脳の全脳に対する相対的な脳容量比が大きいほど、言語生成や理解、作業記憶や認知的柔軟性など、高度な認知的・社会的能力も高いという関係がある。ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの小脳の違いが、両者の命運を分けたと考えられる。」

 ●人類の言語機能進化は、小脳の発達による所が大きいことが明らかになっている。
『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』(中田力著 紀伊国屋書店) [2]に、鳥類の歌う機能と対比しながら人類の言語機能を司る脳の仕組みを論じた一節がある。

その論点は、
【1】鳥類には知性(観念機能や共認機能)はないが、言語機能(聞いて真似て発声する機能)は持っている。このことは言語機能(聞いて真似して発声する機能)は観念機能とは独立して存在し得る本能機能であることを示唆している。

【2】人類も鳥類も、運動機能を司る小脳の進化によって、言語機能を進化させた。人類の脳が相対量として最も増加させた脳は小脳であり(絶対量としては前頭葉である)、鳥の脳でその中心を占める脳もまた、小脳である。

【3】人類も鳥類も言語機能に優位半球がある(左脳優位になる)。

【4】言語(発声)機能に使われる筋肉(球筋)は、もともと呼吸や食物摂取をはじめとする基本的な生命維持に必要な筋肉である。一般の筋肉は右側の筋肉は左脳、左側の筋肉は右脳に支配されているが、この球筋は左右両脳の支配を受ける。これは、片側の脳に障害が起こっても、生命維持に不可欠な球筋が麻痺しないためである。


【5】ところが、言語機能の場合だけ、右脳の支配を抑制制御する仕組みを脳は作り上げた。これが言語機能における優位半球(左脳優位)である。

以下、その引用。
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脳科学の立場から興味深いことは、カナリヤが歌を歌うために用いる脳に優位があり、その内容が学習によることである。カナリヤは人間の言語同様に、片側の脳を優位に使って歌を歌い、父親から最初の歌を習う。

ここに、ヒトの言語が生まれてきた秘密を解く鍵が隠されている。
脳の機能画像で確認されたことの一つが、言語と音楽とは、少なくともヒトの脳にとっては、ほとんど同一の機能であること。
ここから、言語機能の発生にとって、高い知能が必須でなかったことがわかる。
オウムも九官鳥もカラスも、人間の真似をしているだけではあるが、言葉を話す。ヒトの言語が鳥の「オウム返し」の言語と違うところは、高度の知性にもとづいていることである。鳥は言語機能を獲得したものの、高い知性を獲得しなかったために、あまり知性の高くない言語しか持っていない。

ヒトも鳥も小脳の機能を顕著に進化させることで、運動機能の飛躍的進化を果たした。事実、ヒトの脳が相対量として最も増加させた脳は小脳であり(絶対量としては前頭葉である)、鳥の脳でその中心を占める脳もまた、小脳である。
言語機能は運動系の進化から、それも、小脳の進化から生まれてきたと考えられる。
音による意志伝達の方法論を既に獲得していた哺乳類であるヒトの祖先は、高度化した声を出す運動機能を用いて、音による意志伝達のための機能をも精密化することに成功する。ここに言語が生まれることとなった。
言語機能にとって小脳が重要な役割を果たすことは、自閉症の研究によって知られていた。言葉を発しない子供たちに共通の因子は、小脳の未成熟度であった。
鳥類は小脳の進化による運動機能の精密化を飛行という形で成し遂げた。中には、その能力を発声の運動機能に応用する種が生まれ、音楽機能を獲得したのである。しかし、鳥類では、高度な知能を保証する脳はなく、その結果、歌を歌う能力と、オウム返しの言語能力しか獲得できなかった。

歌を歌う鳥はその音楽機能に片側の脳を優位に使う。ヒトが言語機能に優位半球を持つこととまったく同じである。
ヒトの脳が持つ左脳と右脳との機能乖離はヒトの脳が持つ最大の特徴とされるが、歌を歌う鳥は同じような機能乖離を獲得している。人類と鳥類というかけ離れた進化の道を歩んだ種が、音楽機能と言語機能という基本的に同一の脳機能を誕生させるに至って、優位半球という極端に特殊な機能形態をも共有することになったのである。
これは、言語機能の基本構造が調音器官の精度の高い運動機能として登場する時に、優位半球を持つことが必須であったことを意味する。
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● ネアンデルタール人の方が大きい後頭葉 [3]については以下の通り。ウィキペデイア「後頭葉」 [3]

後頭葉は4つの大脳葉の中で最も小さく、頭蓋内で最も後方に位置する。後頭葉は大脳と小脳の間を仕切る硬膜である小脳テントに接している。
後頭葉は視覚や色彩の認識をつかさどる機能を持っている。網膜からの感覚刺激は視神経を通って視床の外側膝状体に入り、そこから大脳半球内部の視放線を通って後頭葉の一次視覚野に送られる。
後頭葉後部の皮質の神経細胞は、網膜上に映る視空間が再現されるように配列している。網膜が強いパターン刺激にさらされると、それと同じパターンが皮質上に応答することが、脳機能イメージングで明らかにされている。もし一方の後頭葉が傷害されると、どちらの目で見ても視界が左右の半分だけ(傷害された側と反対の側が)欠損してしまう同名半盲という症状が起きる。また後頭葉は、聴覚にも関与していることが示されている。

ということは、ネアンデルタール人は現生人類よりも視覚は発達していたが、言語機能(聞いて真似して発声する機能)は未発達であったということになる。

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