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骨が語る古代の家族と社会1 家族・親族の歴史的意義

Posted By okatti On 2009年1月3日 @ 7:56 PM In F 日本人の起源 | 673 Comments

「日本人の起源」解明 これまでの成果と残課題 [1]で整理した残課題の一つ、縄文~弥生~古墳時代の婚姻制・親族制を、田中良之著『骨が語る古代の家族-親族と社会』(2008年)から迫ってみたいと思います。
9784642056526.jpg田中良之氏はこれまで古墳時代を中心に、墳墓出土の人骨の人類学的分析と、その墓の考古学的分析を合わせて行うことによって、親族関係の分析を進められてきました。そして家族・親族やその継承が歴史的に変化し、国家形成過程において極めて重要な役割を果たしたことを明らかにされてきました。
では縄文時代の親族制は?と行きたいところですが、親族論はいくつかの概念で構成されるので、その歴史と田中氏のスタンスを最初に押えておきたいと思います。家族・婚姻に関する人類学の系譜1 [2]で概略の歴史が紹介されていますが、その後に登場した新進化主義に立脚しており、やや退屈かもしれませんが、お付合いを♪
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家族・親族の歴史的意義
19世紀歴史民族学
19世紀は「歴史の時代」と呼ばれ、民族学もまた歴史的考察を多く行った。世界の諸民族の社会形態を分類し、あたかもダーウィンが現生動物に対して行ったように、進化の段階を表わすものとして位置付け、人類社会の進化論を展開した。それらの研究はモルガンの『古代社会』(1877年)に結実し、20世紀以降も大きな影響力をもつこととなった。その概要は、家族・婚姻に関する人類学の系譜2(モルガン社会進化主義) [4]を参照。
批判と再検討
20世紀に入って、民族調査の事例が増加してくると、乱婚・集団婚の実際の民族例は結局発見されず、霊長類においても近親婚のタブーがあることが明らかになって、乱婚・集団婚は否定されるに至る(※1)。家族も男女ペアの対偶家族が民族例では一般的であり、狩猟採集民に父系社会(夫方居住婚)が多いことが明らかとなって、母系社会が先行するという学説も否定されている(※2)。さらに、主としてポリネシアでの調査によって、父系でも母系でもない双系の社会の存在が認識されるに至っている。家族・婚姻に関する人類学の系譜3 [5]を参照。
(引用者注※1) 集団規範で統制されない“乱婚”はなかったのはその通りだろうが、集団規範に基づく“集団婚”まで否定するのは調査不足であろう。一夫多妻と一妻多夫が混在しているチベット [6]ブータン [7]は集団婚の名残であろうし、日本の夜這いも同様。この問題はどこかできちんと論じる必要があると考える。
(引用者注※2) 現存する狩猟採集民の事例から、母系先行説を否定するのは不十分。人類は母系も父系もない単一集団から出発し、集団規模△から母系で集団分割→後に父系へ転換した可能性はあり得る(日本が典型)。ただ日本は双系とされており、双系から父系へ舵を取った部族と、双系から母系へ舵を取った部族に分かれた可能性は残っている。次回、縄文の親族関係で考えたい。

新進化主義の登場
このような新たな調査事例を総合して20世紀後半に出てきたのが新進化主義。代表は『未開の社会組織』(1971年)を著したアメリカのE・サービスで、モルガンを批判的に継承し発展させた。
一つは、モルガンが、氏族は全体の集団でもあり実際の居住集団でもあるように記述したのに対し、集団を二つのカテゴリーに分離した。それは居住集団ソダリティー(Sodality)である。前者は比較的永続的な人々の集合であり、氏族の中でも実質的な血縁系譜をもつ出自集団(よくリネージと呼ばれるのは父系や母系といった単系の出自集団)や移動生活をする血縁集団であるバンドなどがそれに当る。後者は氏族に代表される社会横断的なもので、地域において居住集団を社会的に結びつけるものである。
つまり、氏族ソダリティーであって、社会(部族)の全体に分布し、個々の集落に居住する出自集団をつなぐ。逆にいえば、個々の集落に居住するのは出自集団であり、それらが神話によって裏付けられた同祖の系譜意識によって、同族としてまとまったのが氏族である。
従って、氏族の中には実質的な血縁・血統の関係もあれば擬制的につながったものもあるが、同じ祖先をもつ血縁であるという強いリアリティーをもっている。当然のことながら、氏族の分節である出自集団も外婚集団として機能するため、集落は複数の出自集団で構成されるのが一般的となる。従って、個々の集落で経営を行ういくつかの単位は氏族ではなく、その分節であり実質的な血縁系譜をもつ出自集団なのである。そして、この出自集団が、時としていくつかの「世帯の集合」という現象としてあらわれることになる。
E・サービスは一般進化のプロセスを、バンド社会、部族社会、首長制社会、国家社会として区分したが、それぞれの段階毎の「集団」は以下のようなもの。
最初の段階であるバンド社会では、血縁を核にして結合した小集団(バンド)で移動を繰り返す狩猟採集民の社会であり、オーストラリアのアボリジニやアフリカのムブティ族などがそれにあたる。当ブログで紹介した狩猟採集民アンダマン諸島人の子供の家族間移籍 [8]カラハリ砂漠のサン(ブッシュマン) [9]もそう。父系・母系ともにみられる。
次の部族社会は、社会は外婚単位として機能するいくつかの親族集団で構成され、親族集団の多くは共通の祖先観念、系譜意識をもつ氏族をなす。つまり、部族社会はいくつかの氏族に分かれており、それが呪術・祭祀などを通して部族として統合されるという形態をとる。氏族の結合原理は父系・母系とともに双系がある。
部族社会が階層分化して首長制社会となる。首長という指導者・支配者が出現するのが特徴で、部族社会の親族関係を基礎にしながらも、次第に平等の原則が壊れて階層分化を遂げる。従って、社会は氏族に分かれるが、氏族内部あるいは氏族間に階層差が存在する社会、ということになろう。父系優先だが、双系・母系の社会もある。
国家社会になると、もはや親族関係は社会の基礎をなさず、氏族の機構とは異なる官僚制を基礎とした国家機構によって統治が行われる。
このように発展段階による分類は基本的にはモルガンを継承しており、否定された内容は野蛮段階に集中している。当然、家父長制家族の成立による氏族共同体の解体という過程も、氏族・出自集団からの家族の分離という形で継承されている。言い換えれば、母系から父系という変化ではなく、共同体経営から家族経営への変化として継承されているのである。
日本考古学における親族論
「ムラ」出自の誤り
日本考古学における親族関係研究の多くが、「出自表示論(ムラ出自論)」という論理構造をもつ。墓群や被葬者をある特徴によって二分し、一方がそのムラで生まれ育った在来者、他方が結婚によって他所からムラに入ってきた婚入者と仮定し、どちらか一方、例えば婚入者がほとんど女性であれば父系、逆ならば母系、男女ともであれば双系というようにして親族関係を得るという論理である。
しかしこれは、「ある特徴がムラ出自を表示する」という仮説を前提とするため、検証が必要である。そこで、歯冠計測値による分析をはじめ、主として人骨の遺伝形質を用いた検証が行われてきた。それらの多くは棄却という結論であるか、保留というものであり、検証するには至っていない。
それ以前に問題なのは、出自の母胎が「ムラ」である点である。「ムラ出自論」の根拠となったのが、複檀家制と呼ばれる近世~現代の民俗例であり、その社会像は近世以降の社会の社会にむしろ似ていて、未開社会のそれとは異なるため、とうてい先史時代まで遡るものではない。
未開社会における「出自」は、氏族や半族(社会が二つの外婚集団に分かれた場合の一方の外婚単位)などに基づくものであり、集落が出自の母胎となることはあり得ないのである。
このように親族論は、父系・母系・双系という親族関係や家族の構成原理を復元するという文化史的意義をもつだけでなく、むしろ集団論そのものといっていいものである。
では、筆者らの歯冠計測値による分析ではどのような親族・集団関係が得られたか?
次回をお楽しみに。


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[1] 「日本人の起源」解明 これまでの成果と残課題: http://bbs.jinruisi.net/blog/2008/12/000483.html

[2] 家族・婚姻に関する人類学の系譜1: http://bbs.jinruisi.net/blog/2008/06/000402.html

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[4] 家族・婚姻に関する人類学の系譜2(モルガン社会進化主義): http://bbs.jinruisi.net/blog/2008/06/000404.html

[5] 家族・婚姻に関する人類学の系譜3: http://bbs.jinruisi.net/blog/2008/08/000427.html

[6] チベット: http://www.jinruisi.net/blog/2007/01/000107.html

[7] ブータン: http://www.jinruisi.net/blog/2007/02/000109.html

[8] 狩猟採集民アンダマン諸島人の子供の家族間移籍: http://bbs.jinruisi.net/blog/2007/01/000104.html

[9] カラハリ砂漠のサン(ブッシュマン): http://bbs.jinruisi.net/blog/2007/02/000113.html

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