2012年10月04日
シリーズ【共同体の原点(集団)を追求する】12~雌雄の役割分化による集団適応
前回までの追求にて、哺乳類の集団の基本は母系であり、それは、充足回路を強化して長期にわたる授乳・育児を可能にした母子関係を母胎にしていることが分かりました。
では、オスはどのように集団と関わっているのでしょうか?
そこで、あらためて以前作成した「集団を構成する本能図解」を確認しました。
集団を構成する本能図解
【共同体社会の原点(集団)を追究する】7~集団本能の形成過程~より
サロンでの議論にて疑問点として浮上したのが、原モグラにおける庇護本能(内雌外雄)です。
雌の場合は、生殖本能(雌雄分化)⇒保育本能(抱卵・子育て)⇒親和本能(胎内保育)⇒庇護本能と、しっくりきますが、雄の庇護本能というのがどうもスッキリしませんでした。
実際、一般哺乳類の事例を見ても、明らかに雄が雌や子どもを庇護しているという事例は少ないようです。
そこで、原モグラや一般哺乳類の段階では、本能回路としての庇護本能は雄には存在せず、雄が縄張り闘争(性闘争)を行なうことで結果的に雌や子どもを守っており、そのような役割を指して庇護本能と呼んだ方がスッキリするのではないか、つまり雄の庇護本能とは性闘争本能(縄張り闘争本能)そのものである、という仮説を元に再度原モグラの段階から集団様式について検証してみました。
■まず、始原哺乳類(原モグラ)の生態から見ていきます。
実現論:哺乳類(原モグラ)時代の性闘争本能
原モグラは、土中に隠れ棲むしかなかった弱者であり、それ故にいくつかの特徴的な本能を発達させている。中でも哺乳類の哺乳類たる最大の特徴は、弱者が種を維持する為の胎内保育機能である。
しかし、卵産動物が一般に大量の卵を産み、その大部分が成体になるまでに外敵に喰われることによって淘汰適応を実現しているのに対して、胎内保育と産後保護の哺乳類には、適者だけ生き残ることによって種としてより秀れた適応を実現してゆく淘汰適応の原理が働き難くなる。
そこで、淘汰過程が成体後に引き延ばされ、成体の淘汰を激化する必要から、哺乳類は性闘争=縄張り闘争の本能を著しく強化していった。かくして哺乳類は、性闘争を極端に激化させた動物と成っていった。種を存続させる為には、闘争存在たるオスがより闘争性を強めると共に、メスたちの外側で外敵に対応した方が有利である。従って、とりわけオスの性闘争(=縄張り闘争)本能が著しく強化されることになる。
現哺乳類の祖先と考えられているモグラの場合、メスも性闘争(=縄張り闘争)をするが、オスの闘争はより過激で、その行動圏はメスの3倍に及ぶ。従って、概ね3匹のメスの縄張りを包摂する形で1匹のオスの縄張りが形成される。
こうして、哺乳類のオス・メス関係を特徴づけるオスの性闘争の激しさと内雌外雄の摂理(本能)、および群れの全てのメスが首雄(勝者)に集中する首雄集中婚の婚姻様式(本能)が形成された。このオスの性闘争の激しさと内雌外雄の摂理と首雄集中婚は、多くの哺乳類に見られる一般的様式であり、もちろんサル・人類もそれを踏襲している。
無性生物における食(養分の摂取)の諸機能から発展して危機逃避や追従や捕食攻撃etcの闘争系の本能が形成されたという説は概ね正しい。それら闘争系の諸機能(本能と呼んでも良い)は、全て生殖(原初は分裂)の為にある。生殖の為の闘争というこの関係は、生命の骨格を成す最も重要な原理の一つだと、云えるだろう。
まず雄に、淘汰適応の必要から性闘争本能が形成される。それに対して雌は出産・育児時の安全や食料の確保の必要があるので、雄のヤリ逃げを防ぐべく閂本能を形成する。つまり、安全と食料を保障してくれる雄に対してのみ閂を解除するという本能である。こうなると雄は、雌と交わる為にはまず縄張り(種によっては巣までも)を確保しなければならなくなる。(実は、ヤリ逃げを防ぐには、もう一つ、雄に生殖期間中の庇護本能もセットする必要があります。)つまり、性闘争本能の次に縄張り本能が形成され、かつ両者は連動しています。
◆原モグラの本能構造、集団形態
本能図解からも分かるように、原モグラは追従本能を封鎖し、性闘争本能を強化しています。
集団原本能とも呼べる追従本能を封鎖してまで性闘争本能を強化したということは、これまで群れることで適応してきた集団本能を捨ててでも単体で適応する必要があったということであり、これは生殖(種の保存)によって集団形態が規定されることを示しています。
そして、雌が強者を選択することの引き替えに、雄に縄張り確保=庇護の役割をセットする必要があったわけですね。
図解にすると、こんな感じでしょうか。
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オス:性闘争本能を強化⇒縄張り闘争本能を強化 ・・闘争役割
成体後の淘汰適応⇒ ↑閂を開く ↓庇護
メス:強者選択の本能 ⇒生殖本能を強化(親和)・・生殖役割
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■では次に、原モグラから分かれ陸上適応した草食動物や肉食動物の集団形態を見てみます。
◆草食動物から事例を紹介します。
◇通常は母子集団、オスは生殖時のみ合流
・ゾウ
繁殖期以外は、メスと子どもの母系集団、その他オスは単独行動。
繁殖期には、オスが母系集団に入り生殖するが、留まることなく集団を離れ単独行動する。
◇通常は母子集団、繁殖期のみオスが加わる
・シカ
繁殖期以外は、メスと子どもの母系集団、その他のオス集団とに分かれる。
繁殖期には、オス同士で性闘争を行ない、勝ったオスが母系集団に加わる。
・インパラ
繁殖期以外は、メスと子どもの100頭程度の母系集団、その他のオス集団とに分かれる。
繁殖期には、オス同士で性闘争を行ない1頭のオスが15~25頭の雌を従え、出産後母子はメスの集団に戻る。
外敵には群れを形成して身を守る(見張り番役などが存在する)。50頭前後の集団で移動する。
◇常にオスの縄張り内に母子集団が生活
・グレビーシマウマ(乾燥地、外圧高い)
オスの広大な縄張りの中でメスと子どもの集団を基本に、オスだけの集団、メスだけの集団など流動的。
繁殖期は、オスが縄張りを守る性闘争を行ない、縄張り内のメスを獲得する。
◇常に一頭の雄が母子集団と生活
・サバンナシマウマ
一頭のオスと数頭のメス+子どもの集団、その他オスだけの集団。
集団は固定的な縄張りは持たず、集団ごとに行動している。
オスが集団を統率し、外敵から集団を守る。他集団のオスが集まり、集団を守るケースもある。
・野生の馬
一頭のオスと複数のメス+仔馬の集団、その他オスの集団。
オス集団内では序列が形成され、序列頂点が生殖権を持つためオス同士で性闘争を行なう。
◆次に肉食動物の場合を見てみると、
◇闘争集団
・ハイエナ
オスを含む数十頭の母系の集団を形成。厳格な序列がある。
集団のリーダーはメス、メスリーダーの長女が群れのリーダーを継ぐ。
オスは群れの中で最下位のメスよりも、さらに順位が低い。
10~15頭程度の集団で狩りをする。
他集団のハイエナが縄張り内に入ることを絶対に許さないほど、集団性が高い。
・ライオン
1頭もしくは2~3頭のオスを中心とした集団。グループから追い出されたオスは、同じ群れのオスと共同生活。
ボス交代時には、それまでのボスの子を殺してしまう。
ハイエナの攻撃に対し、メスでは追い払えずオスが登場して決着させる。
・オオカミ
家族で構成される集団。オスメス共に厳格に順位が決まっている。
順位が高いオオカミしか繁殖できないので、繁殖期の前には激しい性闘争を行なう。
群れ全体で子育てを行なう。集団で狩りを行なう。
◆以上より草食動物、肉食動物の特徴をまとめると、
適応戦略としては、
・個体適応した原モグラ(性闘争本能>集団追従本能)に対し、集団適応の戦略をとっている。
つまり、性闘争本能の発現は繁殖時中心に留め、集団追従本能が主体。(集団追従本能>性闘争本能)
・但し、集団形態が外圧状況により異なり、草食動物は弱者ゆえに大集団による行動、肉食動物は捕食者ゆえに厳格な序列闘争集団を形成している。
外圧状況により集団形態は異なるが、段階的に進化させていると思われます。
1.メスと子の母子集団が基本となり、繁殖期のみオスが集団に加わる。
繁殖期のオスの性闘争(縄張り闘争)により、生殖期間の母子集団が守られる。(縄張り闘争による庇護関係)
一方、平時においては性闘争発現を抑え、追従本能により母子集団の外に雄同士の集団などを形成し、
雄たちの広大な縄張りの内に守られて母子集団が生活する。集団追従本能による庇護関係
2.繁殖期間だけでなく、平時においても首雄が母子集団と共に生活するようになる。
繁殖期のオスの性闘争に加え、首雄の持つ広大な縄張り内に守られて母子集団が生活する。
集団以外のオスも加わり外敵に対応する種、雄集団内の序列により戦闘力を高めた種などもある。
より外圧が高い種に見られ、集団性を強め雄が常に同居している。集団化による庇護関係。
3.集団内のオス、メスの序列が明確な戦闘集団を形成。(主に、肉食動物)
生殖期間も集団で母子を守る。
狩りの時の役割分担など、さらに集団性を高めている。集団化による庇護関係。
■雌雄の役割分担による集団適応
原モグラの段階では、より強い種を残す淘汰適応の必要から集団追従本能を封鎖してまで雄の性闘争本能を著しく強化させ、雄の縄張り闘争による母子集団庇護という集団適応戦略を採りました。その後、陸上適応した一般哺乳類は、外敵闘争への適応から、繁殖期の雄の縄張り闘争による庇護関係はそのままに、平時においては縄張り闘争を封鎖(制御)し集団追従本能を発現させ、より集団性を高める方向へと集団様式を進化させ、集団による庇護関係を実現しています。
このように、哺乳類における(集団防衛本能とでも云うべき)庇護本能の原点は、あくまでも生殖(を包摂した集団)を守るという集団原理に貫かれていることが分かります。それは、雄が闘争役割を担い、雌が生殖役割を担うという内雌外雄の役割分化を進めたことで実現したわけですね。
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(繁殖期) (平時)
オス:縄張闘争本能強化⇒縄張闘争本能封鎖、集団追従本能 ・・闘争役割
外敵闘争⇒ ↓庇護 ↓庇護
メス:生殖本能強化(親和)⇒より生殖役割を強める ・・生殖役割
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さて、原モグラから分かれて一般哺乳類が登場していますが、一方で同時期に樹上適応した種、原猿も登場しています。後のヒトにつながる系統です。この原猿の段階で、ヒトの心の原点である共感機能を獲得していますが、なぜ、どのように原猿が新しい機能を獲得したのでしょうか、続いて原猿の追求に移ります。
- posted by nishipa at : 2012年10月04日 | コメント (0件)| トラックバック (0)
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