2016年05月04日
人類はチンパンジーと分岐したとする定説の根拠2~1980年代以降、分子系統学でチンパンジー起源説に
●1980年代以降、分子系系統学による霊長類分岐が全盛となる。
1981年、ヨーロッパ人の一個体でヒトのミトコンドリアDNA全塩基配列が報告される。
1987年、5地域147人のミトコンドリアDNAを調べて、ミトコンドリア・イブ仮説。
1995年、国立遺伝学研究所の宝来聡らが、類人猿4種(チンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータン)のミトコンドリアDNAの全塩基配列を解読。ヒトを合わせた5種のミトコンドリアDNAの塩基配列を比較して、チンパンジーがヒトと最も近縁であると結論づけた。
★宝来聡らの実験方法は次の通り。
5本のミトコンドリアDNAについて、一つの遺伝子を指定する配列の始まりと終わりを揃える。ミトコンドリアDNAの37種類の遺伝子のうち、タンパク質を指定する13種類の遺伝子では5本の配列は整列できたが、残りのtRNA遺伝子やrRNA遺伝子には、塩基に欠失や挿入により配列の長さが異なるので、調整した(どう調整したかは不明)。その上で、5本の配列間の塩基置換数(変異数)をコンピュータでカウント。
非同義変異数:RNA遺伝子変異数比が5種ともほぼ同じなので、分子変異速度は一定であるとして、非同義変異数とRNA遺伝子変異数を元に遺伝距離(相対距離)を計算している。オランウータンが分岐した絶対年代を1300万年前として、残り4種の分岐年代を推定。ゴリラ656±26万年前、ヒトとチンパンジーの分岐年代を487±23万年前とする系統樹を作成した。
※タンパク質を指定するDNAの塩基配列において、アミノ酸を変えない塩基置換(変異)を同義置換、アミノ酸を変化させる置換(変異)を非同義置換という。ヒト・類人猿5種では、圧倒的に同義置換が多いが、同義置換数ではオランウータンと他の4種との間で大差がない(あまり変異していない)。オランウータンの同義置換数を補正しても使えないので、分子変異速度一定に都合のよい非同義変異数RNA遺伝子変異数を使って、遺伝距離を推定している。
2001年、ヒトゲノムの配列発表。2005年、チンパンジーのゲノム配列発表。
(チンパンジー以外の類人猿の全ゲノムの解読は未了2009年段階)
2006年、ヒト・チンパンジー・ゴリラの252の遺伝子座(染色体やゲノムにおける遺伝子の位置)の比較では、ヒトとチンパンジーが近縁であることを示すのが110個(44%)、ヒトとゴリラが近縁であることを示すのが45個(18%)、チンパンジーとゴリラが近縁であることを示すのが38個(15%)、系統関係がはっきりしないのが59個(23%)で、ヒトとチンパンジー近縁を示すのは半分もない。ところが、このような事は、種分化が短期間に連続して生じ、かつ集団の個体数が大きい場合には一定の確率で生じることが理論的に示されているらしい。
※ヒトとチンパンジーのゲノム配列を比較すると1.23%の違いとされているが、この数値は相同なゲノム領域を比較した時の数値であって、一方の種には見つかる領域が他方にはないというように、構造の違いも指摘されている。
※ヒトはチンパンジーと分岐したというのが定説化したものの、その化石は発見されていない。
チンパンジーやゴリラ・ヒトの共通祖先の有力候補とされるのが、ヨーロッパで多数発見されているドリオピテクス(1200~900万年前)であるが、異論もあって未確定。実際、ドリオピテクスの化石にはヒトとオランウータンの特徴も入り混じっているらしい。また、現生人類とオランウータンの間で共通する形態的・生理的特徴が多いので、ヒトはチンパンジーやゴリラよりもオランウータンに近い主張する学者が未だに存在する。
また、分子系統学が前提とするのが分子時計の仮定「分子の変異速度が一定」であるが、種によって分子変異速度は異なっておりること、実際、分子時計による分岐年代と古生物学的な推定年代とが大幅に食い違っていることがいくつも報告されている。
「分子時計による分岐年代決定法の矛盾点」
「生物は外圧適応態であり、急激に外圧が変化すれば変異スピードは著しく早くなる。実際、カンブリア大爆発や哺乳類の適応放散をはじめとして、急速に進化する事例は生物史には無数にある。また、紫外線による破損やコピーミスをはじめとしてDNAの突然変異は日常的に起こっているが、それは修復酵素によって修復されている。その修復度合いも種によって異なっており、分子の変異速度が一定になるはずがないのである。」
【参考】
『新しい霊長類学』京都大学霊長類研究所 講談社ブルーバックス
『ヒトはどのようにしてつくられたか』山極寿一 岩波書店
『シリーズ進化学5 ヒトの進化』斎藤成也 岩波書店
『DNA人類進化学』宝来聡 岩波科学ライブラリー
『DNAに刻まれたヒトの歴史』長谷川正美 岩波書店
『アナザー人類興亡史』金子隆一 技術評論社
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2016年05月04日
人類がチンパンジーと分岐したとする定説の根拠1~1960年以前は人類アジア起源説だった
人類は、500万年前、チンパンジーとの共通祖先から分岐したというのが定説になっているが、その定説はどのような根拠で成立したのか?
1960年以前は化石を元にしたアジア起源説だったのが、次第に、分子時計を前提とした分子系統学によってアフリカ起源説に塗り替わっていったらしい。
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●1932年、インドのシワリク高原でラマピテクスの上顎・下顎と歯の化石(1400~800万年前)。歯列や犬歯・臼歯の形や質が類人猿よりも人類に似ていたので、60年代にはラマピテクスが人類の直系祖先とされるようになった。人類はラマピテクス以前に分岐したとされ、当時の人類学の教科書では、類人猿とヒトの分岐は4000~3000万年前と書かれていた。
●1960年代に分子系統学による種間距離の測定が始まる。
グッドマンは、抗原抗体反応の大きさを使って霊長類種間の免疫学的距離を推定した。
ヒトの血清タンパク質をウサギに注射すると、ウサギはヒト血清タンパク質に対する抗体をつくる。その抗体を含むウサギの血清(抗ヒトタンパク質血清)をヒトやサルの血清と混ぜる。ヒトの血清とは強く抗原抗体反応を起こし沈殿物が多く出る。チンパンジーやゴリラの血清との反応よりも、オランウータンの血清との反応は明らかに弱かった。反応が強いほど、ヒトの血清タンパク質とアミノ酸配列が似ていると考えて、グッドマンはオランウータンよりもチンパンジー・ゴリラの方がヒトに近いと結論づけた。
1967年、サリッチとウィルソンは免疫抗体法で推定したヒトや類人猿の免疫学的距離に分子時計の考え方を導入して、分岐年代を推定した。
ヒト・チンパンジー・オナガザルの血清アルブミン抗体をつくり、ヒトや類人猿、オナガザルの血清と反応させ、ヒト・チンパンジー・ゴリラ・ウランウータン・テナガザルの免疫学的距離を推定、ヒトはオランウータンよりもチンパンジー・ゴリラに近縁であると結論づけた。
さらに、種間の免疫学的距離の常用対数が2種の分岐年代に比例すると仮定して相対的な分岐年代を推定。オナガザルと類人猿が分岐した絶対年代を化石記録から3000万年前と固定。そこから計算してチンパンジー・ゴリラとヒトが分岐したのを500万年前と推定した。
●分子生物学者と化石学者(1400万年前のラマピテクス説)との間で論争が始まるが、次第に分子系統学派が優勢になってゆく。
例えば、1970年代には、雑種DNA形成法による遺伝的距離の測定が始まる。
比較する動物の二本鎖DNAをほぐして一本鎖にし、混ぜ合わすと二種のDNAが組み合わさった雑種DNAができる。二種の動物のDNAでは塩基配列が少しずつ違うので、雑種DNAでは、元のDNAのような結合対は組めなくなり、熱的に不安定になる。熱安定性の低下の度合いを図ることで、DNA塩基が異なっている割合を推定する。これが雑種DNA形成法。
1977年、サリッチとクローニンは、免疫学的距離と雑種DNA形成法による遺伝的距離を測り、オランウータンが分かれたのが1100~900万年前、ヒト・チンパンジー・ゴリラが分かれたのが500~400万年と結論づけた。
1978年、パキスタンのポトワール高原でシヴァピテクスと呼ばれる類人猿の顔面と頭蓋片の化石が発見された。化石形状からシヴァピテクスがオランウータンの祖先とされると同時に、ラマピテクスもシヴァピテクスのメスであり、オランウータンの祖先と看做されるようになる。1980年代以降、人類のアジア起源説は廃れ、500万年前アフリカ起源説が学界の定説となった。
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【参考】
『新しい霊長類学』京都大学霊長類研究所 講談社ブルーバックス
『ヒトはどのようにしてつくられたか』山極寿一 岩波書店
『シリーズ進化学5 ヒトの進化』斎藤成也 岩波書店
『DNA人類進化学』宝来聡 岩波科学ライブラリー
『DNAに刻まれたヒトの歴史』長谷川正美 岩波書店
『アナザー人類興亡史』金子隆一 技術評論社
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