2016年10月20日
早期英語教育の罪~乳幼児の適応欠乏に混濁を生みだす
今回は、早期英語教育について考えてみたい。
◆以前の投稿で、乳児期の特異な能力について紹介した。
生後6ヶ月までの乳児には、大人にはない認知能力がある
サイエンス誌によると、最近乳児に関して以下のようなことが明らかになった。
● 生後数日で、外国語の中から母国語を聞き分けることができる
● 生後4、5ヶ月で読唇術が使え、ビデオに映った顔を音声なしで見ながら、「イー」や「アー」の音を当てることができる
● 乳児はすべての言語の子音と母音を聞き分け、大人が聞き逃してしまうような外国語の音の 違いを聞き分けることができる
● 生後6ヶ月の乳児は、大人なら同じにしか見えない2匹のサルの顔を見分け、またサルの顔写真を見ながらその鳴き声を当てることができる
● 乳児はリズムの達人であり、自分の国とほかの国の音楽の拍子の違いを聞き分けることができる
これらの能力はすべて、生後6ヶ月頃には低下する。
つまり現在の環境下ではあまり影響しないような情報は無視することを学ぶようになるのだ。
◆左脳と右脳の役割分担
乳児の特異な能力を理解するために、脳進化の視点から見てみましょう。
脳の進化から人類進化を解明する
ヒトの脳は未完成の状態で生まれ、本能にはない新たな外界刺激を受けながら形成・成長することから、右脳と左脳の明確な機能分化が生じるのですが、本能との連係部分を残す必要はあります。右脳左脳共に未完成で真っさらな状態から始まるヒトの右脳は古い脳との繋がりを残し、左脳がヒトに特有の新たな機能を担うことに分化しました。
誕生後のヒトの未完成な左脳は、母親の声や表情、スキンシップを最初の刺激として受け、その刺激に反応・適応する脳を形成していきます。その結果、母親からの刺激の意味を理解する脳が形成されることになり、左脳はやがては母親の言葉や表情、スキンシップなどの意味を理解する様になります。さらに、様々な刺激の関連性や複雑な条件での刺激に対して最も適応的な反応・判断を選択することになるのです。
言語を分担する左脳はまっさらな状態で生まれ、新しく出会う母親とのコミュニケーションで完成していくんですね!
さらに驚くべきことに、母親の言葉を聞き取る機能は、胎内から始まっているらしい。
◆乳児は胎内から母親を通して言語を学んでいる
早期英語教育のメリットとデメリット vol.7
子どもが言葉を話し始めるのは、生まれてから1年ぐらいかかるといわれていますが、なんと人間はお母さんのお腹の中にいるときから、母語を聞き分け、親しんでいるというのです。例えば、生後2日目の赤ちゃんにおしゃぶりを吸う速度で母語と母語以外の会話のうち好きな方を選べるようにした実験*では、赤ちゃんは母語での会話を選ぶんだそうです。生まれてからたった2日で、もう母語と母語じゃない言葉を聞き分けるってすごいですよね。
以上のように、
人間の人間たるゆえんは観念機能。
ヒトは共認機能を命綱に、常にどうする?と自然と一体化することで、ついに観念機能を獲得した。
赤ん坊が、はやく一人前の人間になるために、観念機能の習得がまずは一番の仕事。
そのための準備は胎内から始まっていたんですね!
◆さて、そんな時に、英語教育は早いほうがいいからと英語を聞かせようとすると、どうなるでしょう?
赤ちゃんは人と人との関わりの中で言語感覚を学んでいく 〜 第二言語を獲得するメカニズム
英語が母語のアメリカの赤ちゃん(生後9ヵ月)たちに4週間、計5時間にわたって中国語での語りかけをしたら、台湾の中国語ネイティブの赤ちゃんたちとほぼ同じレベルで中国語が聞き分けられるようになった、という研究結果をご紹介しました。
ただし、それを可能にするには「ある条件」が必要だったんです。
この学習の過程で、人間の果たす役割は何かという疑問を持ちました。それで別なグループの赤ちゃんに、同様の12回のセッションをテレビを通して行い、また別なグループには、クマのぬいぐるみの映像を見せながら音声だけのセッションを行いました。それで赤ちゃんの脳に何が起きたのでしょう? これが音声だけの場合の結果で、学習効果は全く現れませんでした。そしてビデオの場合も、学習効果は全く見られません。赤ちゃんが統計処理をするためには、本物の人間の存在が必要なのです。赤ちゃんがいつ統計処理をするかは、社会的な脳が制御しているのです。
つまり、赤ちゃんが他言語の音を聞き分ける能力を身につけるには、人間が目の前で語りかけすることが必須だということです。音声やビデオ教材を掛け流ししたりするだけでは、効果がないっていうことなんですね。。。
赤ちゃんは母語を覚えるために外国語を犠牲にしていた!
ニュートラル状態の赤ちゃんは、まだ母語が定まっていないので、さまざまな音をきき分けることができます。驚きなのは、日本人が超苦手な「R」と「L」の発音も、じつは生後8ヵ月ぐらいまではふつうに識別できてるらしいということ*。まじですかー!
ところが、生後10ヵ月〜12ヵ月(1歳)ぐらいになってくると、聞き分けられていたはずの「R」と「L」が聞き分けられなくなってしまいます。なぜかというと、日本語の「ラリルレロ」は「R」でも「L」でもない特殊な音なので、日本語の「ラ」という音が聴こえたときに「え? RとLどっち?」みたいになったら赤ちゃん的には大混乱。効率的に母語(日本語)を身につけるためには、RとLを聞き分ける能力はむしろ邪魔なわけです。というわけで、母語に必要じゃない音は、赤ちゃんの中でどんどん切り捨てられていくんですね。
そして、ここが一番大事なんですが、子どもは母語を効率よく覚えるために、耳慣れない外国語に対する処理能力をどんどん切り捨ていく、ってこと。つまり、英語どっぷりの環境になれば、どんどん日本語を忘れていくということが、すでに証明されちゃってるんですね。
◆早期英語教育は健全な言語機能、思考回路を形成するのか?
このように見てくると、早期英語教育というのは単に親の都合の押し付けであり、子どもにとってはいい迷惑であると思われる。
・生命が生まれ、最初に出会う外界の刺激が母親の存在。
全的に守ってくれる母親の存在を胎内の段階から看取し、全的に一体化しようとする。
左脳の言語機能形成はすっでにこの段階から始まっている。
生まれ落ちてすぐに母語を聞き分けられるのも、早くから準備をしているということ。
・そして、乳児の間の脳は言語に対する適応性に優れているから、早くから他国語を聞かせると習得してしまう、
それほどの高い柔軟性、適応力を持っているということ。
・だからこそ、生半可に他国語を覚えさせようとすることは危険極まりない。
赤ん坊は母国語であれ他国語であれ母親から発せられる言語に必死に一体化を試みようとするが、
一体どっちが母国語=母親の言葉なのか、強い混濁を覚えるに違いない。
それは単なる観念機能上の混濁ではなく、もっと深い適応回路上に発生する混濁であろう。
・さらに、一旦母国語に慣れ親しんだ後、6ヶ月もすれば他国語の習得能力は落ち、
それでも習得しようとすれば今度は母国語を切り捨ててしまうのだから、もはや意味はない。
・ネットで検索すると早期英語教育のメリット・デメリットという記事を多く目にするが、
どっちが得か、損か、といった親の都合で語ってはいけない、
真っ当に言語機能、思考回路を身につけるにはどうすればいいのか、と考えれば明らかであろう。
母親による読み聞かせが、一番の安心感であり、充足となる。
充足感を母体に、一体化欠乏の塊が言語機能、思考回路を真っ当に成長させていく。
- posted by TOKIO at : 2016年10月20日 | コメント (0件)| トラックバック (0)