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2008年06月17日

哺乳類の群れ社会の原型は、メス(母親)とその娘を核にした母系的な結びつき

  『霊長類学の家族の起源』シリーズ
  『初期人類をとりまく外圧状況下で、父系的な家族は成立しないのでは?』

初期人類は「母系か?父系か?」が話題になっていますが、初期人類の集団を追求するために、まず哺乳類の群れ社会はどのようなもので、それがどのような過程を経て形成されたのか?に迫ってみます。

さすがに歴史を戻して確かめることは出来ないので、現在生息する哺乳類のなるべく小さなグループや群れに焦点をあてて、その構成と個体間の関係に注目して、群れ社会の成立過程を追跡してみます。

哺乳類の群れ社会をみると、一部を除き哺乳類の群れ社会の原型は、メス(母親)とその娘を核にした母系的な結びつきであるといえるようです。人の社会の原型が一夫一妻にあると考えがちですが、哺乳類全体の検証からは、一夫一妻を原型とした社会進化はかなり特殊な事例であることを示しています。

以下、『哺乳類の生物学4~社会』(三浦慎吾著、東京大学出版会 1998)より抜粋引用して、紹介します。

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●げっ歯類の群れ社会

ジリス類、プレーリードック類が典型的な群れ社会をもつ。いずれも昼行性で、ユーラシアと北米のステップやプレーリー、山岳草原などの開放的な環境に巣穴を掘って生活している。その社会的結合の程度にはさまざまな違いが見られる。

ウッドチャックやフランクリンジリスは、オスもメスも単独性でそれぞれが縄張りを持っている。生まれた子どもは巣穴の外で餌をとれるようになると、分散し別になわばりを確立する。この社会は、厳格な単独生活者のそれである。

群れ社会の萌芽はベルディングジリス、リチャードソンジリス、オジロプレイリードッグなどにみられる。メスは自分の生まれた巣穴に定着するが、オスは成長とともに分散する。このためひとつの巣穴には母親、祖母、姉妹といったメスたちがともに生活する。こうした血縁同士の集団は「クラン」とよばれる。クランのサイズは最大で15頭である。彼女らの結びつきは強く、結束して巣穴とその周辺をなわばりとして、ほかのクランから防衛する。天敵が近づくと警戒音を発し、協同で警戒する。オスは単独で別のなわばりをもち、メスが発情したときにだけメスのなわばりに入るのが許される。

キバラマーモットは、基本的に前者と同じだが、そこに別の群れから移動してきたオスが一頭加わり、協同してなわばりを防衛する。しかし、オスの定着期間は2~3年で、別のオスに入れ替わる。オリンピックマーモットやオグロプレイリードッグでは、さらに2~3頭のオスが加わり、血縁関係にあるメスといっしょになわばりを防衛する。これらのオスも別の群れから移動してくる。プレーリードッグの群れ(コーテリー)のメンバーの結びつきは強く、協同して巣穴を掘ったり、防衛や警戒行動を行う。メスは共同授乳して、ほかのメスの子どもも分け隔てなく育てる。

ジリスやマーモット類の社会を概観すると、その安定性や持続性、共通性からみて、単独性社会から群れ社会への移行がメスの血縁的な関係を基礎に出発していることがわかる。オスが加入する群れもあるが、基本的にはオスは一時的な訪問者であり、定着期間は短い。オスは群れの形成者とはなりえていない。

●有蹄類の群れ社会

森林性の小型有蹄類は単独性社会をもつ。かれらのなかには、ディクディクやダイカー類、ニホンカモシカのように、オスとメスがほぼ同じなわばりをもち、繁殖期にペアを形成するものがいる。しかし、オスとメスの結びつきは繁殖期だけにかぎられ、このペアは群れ社会の基礎とはならない。

偶蹄類のなかで、群れ社会への移行段階として注目できるのはノロジカである。ノロジカはユーラシアの低木地帯に広くみられる体重15~30Kgの中型のシカである。オスは実際になわばりをもつことが行動の観察から明らかにされている。いっぽう、メスのホームレンジ(生活領域、行動圏)は大幅に重なり合い、同所的に複数の個体が共存していることがわかる。オスのなわばりはメスのホームレンジを囲うように形成されている。このことはかれらが一夫多妻型の配偶システムを持つことを示唆しているが、単独性社会と同様に、オスとメスの結びつきは恒常的なものではない。

さて、注目すべきはホームレンジを重ねあう複数のメスの存在である。よく注意すると、彼女らは地域ごとにまとまってクラスターをつくっていることがわかる。そして、クラスターどうしはたがいに分離する傾向がある。ひとつひとつのクラスターはオトナメスとその娘たちによって構成され、彼女らは日常的に群れをつくることが観察されている。クラスターをつくるオトナメス相互の排除的な関係は維持されつつも、血縁関係にあるメスたちは同所的に共存し、血縁群をつくる。その輪郭は群れ社会への移行段階にあるジリス類とまったく同じで、有蹄類の群れ社会の萌芽もここにみてとれる。

大型の有蹄類のほとんどは群れ社会をもつ。群れの構成やサイズはさまざまであるが、大きく分けると2つのタイプがある。ひとつは、メスとオスは別々の群れをつくり、繁殖期に合流するもの。もうひとつは、年間を通じて複数のメスと少数(1頭のことが多い)のオスからなるハレム型の混群をつくるものである。前者にはシカ類やアンテロープ類が属し、後者にはウマ類やビクーニャなどがあてはまる。いずれのタイプにしても、メスは安定した統合性の高い群れをつくる。これに対し、オスは独自の群れをつくるか、単独で行動するか、メスの群れに加わるかのいずれかであるが、どの場合でも離合集散は激しく、帰属は安定しない。こうしてみると有蹄類の群れ社会はメスの群れを基盤に成立していることがわかる。そして、その骨格は結局、母系的な血縁群(クラン)にあると考えられる。

●食肉類の群れ社会

食肉類の多くは単独性社会をもち、群れ社会をもつものはわずか10~15%である。群れはいずれも複数のメスと少数のオスによって構成される。そして、そのほとんどでは、メスには血縁的なつながりがあり、オスは一時的な滞在者に過ぎないことで共通している。

その代表がライオンのプライドである。プライドは複数の血縁的なメスと子ども、少数のオスたち(「連合」とよばれる)によって構成されるが、オスの連合はメスの群れの所有をめぐって別の連合と激しく闘う。この結果、オスは2~3年で別のオスたちと入れ替わる。食肉類の群れ社会もまた、メスの血縁を基盤に成立しているといえよう。

ただし、これには例外がある。イヌ科である。キツネ、オオカミ、ジャッカルなどでは特定のオスとメスが安定したペアをつくり、毎年繰り返して繁殖を行う、ペアの結びつきは強く、協同でハンティングを行う。そこで生まれた子どもは分散せずに、比較的長い時間群れに居残る。かれらは明らかに一夫一妻を基礎とした群れ社会をつくる。ただし、哺乳類全体でいえば、きわめてまれな社会である。

●メスとオスの生活原理と群れ社会

これまでに、げっ歯類、有蹄類、食肉類の群れ社会を駆け足でスケッチしてきたが、これらをもとめると、哺乳類の群れ社会の原型は、メス(母親)とその娘を核にした母系的な結びつきであるといえるだろう。このことは、霊長類やクジラ類など、その他の動物群でも基本的に共通している。

ただ、イヌ科(や一部の霊長類)に見られるように、オスとメスのペアを基礎に子どもが結びつく場合もあるが、これは全体からみればほとんど例外に近い。ペア型は子どもの分散をを前提に成立する社会であり、それ自体がひとつの完結系であるので、集団化の諸端にはなりにくい。哺乳類の群れ社会の主流は、メスの血縁的な結びつきから出発し、餌の量や分布、天敵の圧力といったさまざまな生態的条件と結びついて複数のメス群が合流し、その上に高い繁殖成功度を求めてオスが加わり、多様で複雑な群れ社会が構築されていったと考えられる。

ところで、私たちは、ヒトの社会の原型が一夫一妻にあると考えがちである。しかし、はたしてそうだろうか。哺乳類全体の検証は、一夫一妻を原型とした社会進化がかなり特殊な事例であることを示している。私は、ヒトの社会の進化も哺乳類の一般的な筋道、つまりメスの集団化を軸に展開されたにちがいないと考えている。

ヒト社会の原型については、人類学や民族学の立場からさまざまな見解が提出されているが、血縁どうしのメスの結合による母系社会がまず成立し、その中に父系社会が胚始したとする「進化主義」の親族理論が有力である(江守)。また、霊長類学の立場からは、伊谷、河合や山極がメスの集団化の重要性を指摘している。なかでも河合は、草原性ヒヒ類をモデルとして、複数オスが入り込む母系的な集団を核とした重層的な地域社会の成立を人類社会の原型としてとらえている。

 ※上の文中で紹介されている著者と書籍
    ・江守:江守五夫「母権と父権」
    ・伊谷:伊谷純一郎「霊長類の社会構造」「霊長類社会の進化」
    ・河合:河合雅雄「人間の由来」
    ・山極:山極寿一「家族の起源」


紹介した中にはありませんが、哺乳類で例外的に父系(息子残留、娘移籍)を採っているのが、リカオンやチンパンジー等です。いずれも大型集団を形成できるところまで進化した種で、リカオンはライオンなどの外敵闘争圧力、チンパンジーは同種他集団との縄張り闘争圧力に晒されています。それらの高い外圧に適応するため、群れの戦闘力を高めることが出来る息子残留という様式を採ったのだと考えられます。

一方、初期人類が極度の自然外圧や外敵圧力という【逆境】に晒された弱者だとすれば、大多数の哺乳類のように母系的な集団であったように思います。みなさんはどう思われますか?

ここをスッキリさせるには、『初期人類の生息環境は、豊か?or劣悪?』を追求することが必要なようです。(さいこう)

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comments

>リカオンはライオンなどの外敵闘争圧力、チンパンジーは同種他集団との縄張り闘争圧力に晒されています。それらの高い外圧に適応するため、群れの戦闘力を高めることが出来る息子残留という様式を採ったのだと考えられます。

>一方、初期人類が極度の自然外圧や外敵圧力という【逆境】に晒された弱者だとすれば、大多数の哺乳類のように母系的な集団であったように思います。

論理の飛躍というより、矛盾を感じます。
素直に読むと、それだけ、外圧が高かったのなら、人類も《父系》で適応するしかないと思ってしまいます。

●リカオンはライオンなどの外敵闘争圧力に晒されている⇒○本能で適応

●チンパンジーは同種他集団との縄張り闘争圧力に晒されている⇒●本能では適応できない⇒どうする?

●人類は、それすらかなわない過酷な存在

これらの視点を踏まえる必要があるのではないでしょうか?

  • 2008年06月19日 04:13

ご指摘ありがとうございます。

>論理の飛躍というより、矛盾を感じます。
>素直に読むと、それだけ、外圧が高かったのなら、人類も《父系》で適応するしかないと思ってしまいます。

確かに、父系的なリカオン、チンパンジーの集団の事例から、初期人類の母系的集団への展開には無理があるようです。

ご意見を参考に、「逆境⇒どうする?」から考えてみたいと思います。

  • さいこう
  • 2008年06月19日 17:27

人間以外のほとんどは母系寄りとは思います。
ただ、カマキリの様に母親の、敷いては子供の栄養となり
家族を支える父親の… なんか書いてて泣けてきました。

さて、唐突ですが、ご迷惑と知りつつ少し宣伝させてください。

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