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2012年05月14日

【世界の神話から見える男女の性】-4~メソポタミアの神話~

 各地の「神話」から民族固有の集団特性、男女関係の特性を見るシリーズ、今回はメソポタミアの神話を取り上げてみます。

【メソポタミア周辺地図】ウィキペディアより
メソポタミアといえば、四大文明の中でも最古の歴史があり、農耕の起源もここから始まったと言われています。又、世界初の暦(太陰暦)、60進法など、現代でも使われているものがあったり、聖書の大洪水、バベルの塔の逸話の元になったのではないかとされています。
そんな彼らの神話は、どのようなものだったのでしょうか?

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■メソポタミア王朝興亡史
まずはメソポタミア王朝の変遷を簡単に紹介しておきます。

◎シュメール文明時代
・紀元前9000年頃:シュメール人が移住して来て、農耕が始まる。
シュメール人の民族系統は不明。
・起元前6500年頃:いくつかの集落が発生する。
・紀元前3100年頃:南部でシュメール人の都市国家が発達しはじめる。
・紀元前2700年頃:ウル、ウルク、ラガシュなどの多数の都市国家を形成。
・紀元前2350年頃:アッカド王サルゴンが最初の統一中央集権国家を作る。
・紀元前2100年頃:ウル・ナンムがウル第三王朝を建国、メソポタミアを支配。
◎バビロニア
・紀元前1900年頃:セム人系のアムル人が巨大都市バビロンを都とする。
古バビロニア王国(バビロン第1王朝)
・紀元前1700年頃:古バビロニア王国、第6代のハンムラビ王がメソポタミアを征服。

◎ヒッタイト
・紀元前1600年頃:ヒッタイト帝国により古バビロニア帝国が滅ばされる。
・紀元前14世紀中頃:アッシリア帝国が独立。
・紀元前1200年頃:ヒッタイト帝国は滅亡。滅亡の決定的な原因は明かされていない。
◎アッシリア
・紀元前13世紀:アッシリア帝国がバビロンを占領。
・紀元前11世紀:ヒッタイトの衰退に伴いアッシリア帝国が勢力を広げる。
・紀元前750年頃:メソポタミア全域とシリア、パレスチナを支配。
・紀元前722年:イスラエル王国(分裂後の北王国)を滅ぼす。
・紀元前671年:エジプトを支配。オリエント地域全体を支配する大帝国へ。
・紀元前612年:新バビロニアとメディアにより、首都ニネヴェが陥落。
・紀元前609年:アッシリア帝国の滅亡。
◎4帝国時代(メディア、新バビロニア、リディア、エジプト第26王朝)
・紀元前593年:ユダヤ人のユダ王国(南王国)の侵略に対し新バビロニアが反撃。
王族は捕えられてバビロンに送られる。
・紀元前586年:ユダ王国が再び反乱を起こしたがバビロニアに鎮圧される。
捕囚の身となって強制移住させられた。「バビロン捕囚」

【シュメール人像】何か宇宙人のような顔立ちですね。
画像はリンクよりお借りしました。

※ナイル川周辺以外が砂漠に囲まれていたエジプトと違い、肥沃な土地に恵まれたメソポタミアは周囲を異民族に囲まれ、侵略を受けてきました。特アッシリアは、馬や戦車、鉄器を使用し、軍隊の維持を現地での掠奪で賄っていたため、残虐行為によって恐れらていました。メソポタミアの王朝はこうした異民族が建国した王朝の歴史でもあります。

【アッシリアの勢力範囲と戦車(馬車)に乗ったアッシリア人】
■メソポタミアの神話と神々
異なる民族が入り乱れたメソポタミアでは多くの神話と神々が登場し、彼らの活躍を描いた「叙事詩」も残されています。
メソポタミア宗教史(リンク)より
◎土着信仰
・メソポタミアで創造された神々は、各都市の支配者である王とともに統治にあたる格の高いものから、家にある道具の何々に宿る格の低いものまで、数え切れないほどあった。その中でも国家を守護する神は、普段は神殿の奥にいて、支配者であると同時に祭司の長でもある王を従えて、妻や家族とともに住んでいると考えられていた。
◎シュメール人による神々
・すべてのものに宿る神々は、それぞれの格を数字で表していた。最高は60で、格が下がるごとに数が減っていくのである。この世に共通するものに関する神はそれだけ格が上で、各都市の神とは主従の関係をなしていたと思われる。
●天空の神アン
ウルクの白色神殿で崇拝される、事実上の最高神である。数値は最高の「60」
●大気の神エンリル
ニップールの市神で、格は2番目に相当する「50」。「風の支配者」。
●水の神エンキ
エリドゥのアブズ神殿にまつられている神。格は3番目の「40」。
淡水からなる「深淵」と死の世界、または現実世界を直接治めている。
●月神ナンナ
アブラハムの故郷として知られるウルと、ガエシュで崇拝されていた月の神。
●太陽神ウトゥ
ラルサとシッパルの市神。
太陽神であり、同時に暗闇、無知、恐怖と対極に置かれる存在。
●金星の神イナンナ
セム語では「イシュタル」と呼ばれる女神。ウルクに神殿がある。
意味は「朝の星」で、ギリシア神話のアフロディーテと同一視される。
美の女神、出産の神、収穫の神、愛の神であると同時に、戦いの女神でもあった。
◎ギルガメシュ叙事詩
・実在していた可能性のある古代メソポタミアの伝説的な王ギルガメシュをめぐる物語。紀元前2600年ごろ、ウルク王ルガルバンダと女神リマト・ニンスンの間に生まれ、3分の2が神で3分の1が人間とされている。聖書の大洪水と対比させる記述が見つかったことで有名。「もののけ姫」のヒントになった逸話もある。
・ギルガメシュは暴君であったため、神はその競争相手として粘土から野人のエンキドを造った。ギルガメシュがエンキドに娼婦(シャムハト、女神イシュタルに仕える女神官兼神聖娼婦という版もある)を遣わせると、エンキドはこの女と6夜7日を一緒に過ごし、力が弱くなったかわりに思慮を身につける。その後、ギルガメシュとエンキドは力比べをするが決着がつかず、やがて二人は友人となり、さまざまな冒険を繰り広げることとなる。
◎アッカド時代以降の神話
・アッカド人がメソポタミアを制覇し、統治を開始するに及んで、シュメール人の伝統はしだいに同化・吸収されていった。シュメール時代の王たちは、自らを神に「認められた者」として公言し、また神の寵愛を維持するために儀式には自分から参加していた。それがアッカド時代になると変化し、王はすなわち神であると考えられるようになった。
●国家神アッシュール
元はアッシリアのルーツである都市アッシュールの市神だった。その当時はシュメール人のものと同じく、都市を守護する神として、歴代国王の帰依を受け、神殿に祀られて崇拝されていたと考えられる。またさらに同じく、王家の始祖とされ、また王の名ともされていた。アッシリアが国家として強大になるにつれ、最高神の位にまで上りつめた。
●英雄神マルドゥーク
バビロンの市神だったマルドゥークは、古バビロニアの覇権とともに各地へと信仰を広げていった。彼もまた天地創造の神話をもつ最高神のひとりであるが、若き兵士の姿をした神は人間の問題を理解し、ともに悩み、考えてくれる存在として位置づけられていた。もともとは戦士の神、軍神である。彼はシュメールの神が有していた役割をほとんどひとりで負うことになり、多神教であったメソポタミアの宗教を、しだいに一神教へと塗り替えていった。
◎エヌマ・エリシュ叙事詩
・バビロニア人による、マルドゥークの創世神話。
・かつて宇宙が生まれる前は、この世は混沌とした液体で満たされており、天と地との区別すらもはっきりとしていなかった。東西南北といった方向すら特定できない。果てしなく続く「根源の海」が広がっているだけだった。ここに、醜悪な姿をした怪獣ティアマトが住んでいた。これが最初の女性であるとされている。
ティアマトが産んだ子供たちの中に、神聖な光を宿す存在があった。それがマルドゥークである。彼は成長するにしたがい、混沌としたこの世を正し、秩序を作りあげるために、母であるティアマトに戦いを挑む決心をする。しかし、従う者はなかった。彼は独力で、強大な力を有する母に立ち向かっていった。
そして困難な闘いのすえに、彼はついに勝利をおさめ、マルドゥークは神として認められ、天界での至上権を保証した「天命の書」を手にする。その力を得たマルドゥークは混沌の液体からティアマトの死骸を取り出し、海を宇宙に変えた。
ティアマトに味方した神々は、マルドゥク側の神々のために働くことを強いられた。後にマルドゥクがキングーを滅ぼし、その血から人間を創造したことで、これらの神々は労働から解放された。
■女神「イシュタル」の存在


【イシュタル像】
・イシュタルは、古代メソポタミアにおいて広く尊崇された存在で、出産や豊穣に繋がる、性愛の女神とされている。一方で、勃起不全など性愛に不具合をもたらす女神としても恐れられていた。
・ギルガメシュ叙事詩ではギルガメシュを誘惑しようとするものの、イシュタルの愛人に選ばれた男達が不遇の死を遂げていることを知っていたギルガメシュに侮辱され、拒まれたことを恨み、父であるアヌを使って彼に死の呪いをかけた。この呪いはエンキドゥが身を挺して防いだが、ギルガメシュはこれ以降、生者の身にいずれ訪れる死に怯えることとなる。
・性同一性障害とも関係付けられ、その祭司には実際に性同一性障害者が連なっていた可能性も指摘されている。また、娼婦の守護者でもあり、その神殿では神聖娼婦が勤めを果たしていた。

※神殿娼婦(http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=263982)古代メソポタミアの巫女は、寄進を受けた者に神の活力を授けるために性交渉を行う風習があった。古代メソポタミアのイシュタルや古代ギリシアのアフロディーテ、北欧神話のフレイヤなど、多くの神話では愛と美を司る女神は性に奔放な姿で描かれているのも、こうした神殿娼婦の影響によるものと考えられている。
・イシュタルは戦の女神でもあった。戦争に際しては、別の戦神ニヌルタと共に勝利が祈願され、勝利した後にはイシュタルのために盛大な祭儀が執り行われた。その図像は武者姿をしている。

■メソポタミアの婚姻制度
※古バビロニア王国、第6代のハンムラビ王が制定した「ハムラビ法典」には、結婚についての取り決めがあります。
・婦人との自由契約を以ってしなければ、これを娶っても正妻とすることはできない。(128条)
・もし、妻が夫を嫌悪していっしょにいられないといったとき、妻の事情を調べ、妻に過誤がなく、夫が外出がちで、妻を蔑ろにしたときは、妻は持参金を持って実家に帰ることができる。(142条)
・もし妻が、身持ちがよくなく、外出がちで、家を乱雑にして、夫を蔑ろにするときは妻を水に投げ入れらえる(143条)
※妻の持参金があること、妻の側からも離縁が出来ることがわかります。一方で、正妻のほかに妾を持つことが認められており、上位の社会では一夫多妻制が行われていたものと思われます。
■まとめ 
※メソポタミアの神々の多くは、都市の守護神として神殿が作られ祀られています。この信仰は、肥沃で豊かな土地ゆえに異民族の侵入が繰り返され、さらに略奪闘争が始まったことにより「他民族を殺す」というそれまでの人類には無かった行為を正当化するために、それまでの自然神信仰が次第に人格を持ち、自部族を正当化する「守護神」へと変化していったものと考えられます。又、守護神のための神殿は、王や神官が「神の名」においてその国を統治する神殿政治の場としての機能も有していました。
※それぞれの神を数字による格付けを行ったのは、その当時から都市間に序列が存在し、次第に都市同士が統合され、国家が形成されていく過程にあったことを意味します。神々が複数の役割を担い、戦い神とされることが多いのも都市間の覇権争いのなかで民衆の期待があったことが反映されているのでしょう。
※略奪闘争が一段落し都市国家が形成されると、武力統合した「王」が自らの支配を正当化するための神話(叙事詩)が作られるようになります。叙事詩には王の英雄譚と共に、神に国を統べることを認められるという王権の正当性が謳われています。
※メソポタミアで作られた叙事詩(ギルガメッシュ、エヌマ・エリシュ)では、女性はあまり肯定的には書かれていません。(ex.ギルガメッシュでは、女神イシュタルは男を不幸にする嫉妬深い存在として。エヌマ・エリシュでは、醜悪な姿をした怪獣ティアマトとして。)彼女たちは、異民族が侵入してくる以前の土着信仰の対象であった自然神(地母神)だったのではないでしょうか。母系で自然神を信仰しながら農耕を営んでいた部族に、周辺の父系で守護神信仰をもつ騎馬民族が侵入し支配者となる過程で、神々が習合されていった。その中でも、被支配者の元々の信仰対象であった自然神(地母神)の存在は消すことが出来無かったため、支配者によって歪められた性格が付与され、残っていったのではないかと思われます。
※しかしながら、女神「イシュタル」について、これだけ多くの性格・役割をを担い、多くの神話に登場してくるのは、数多くの異民族の侵入に晒されながらも土着民族の自然神信仰を覆すのが難しかったという逆説にもなっているのではないでしょうか。

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