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2015年03月12日

日本人の家族観(2) ~家制度の歴史~

21世紀も10年以上経ったいま現在、家制度の痕跡らしきものは、結婚式場のホールに掲げられている「○○家・××家披露宴会場」といった案内板や、墓石に刻まれている「○○家先祖代々の墓」といった墓碑銘を除くと、社会の表舞台からほとんど消え失せてしまった。
かつて家制度をめぐって華々しい議論を繰り広げていた社会学・民俗学をはじめとする諸学問の研究成果を踏まえ、日本の家の特色をあげるとすれば、それは「世代を超えた永続」ということに尽きる。

つまり、家とは家産と呼ばれる固有の財産と、家名と呼ばれる固有の名前、そして、家産を用いて営まれる家業―の三点セットを、父から嫡男へと父系の線で先祖代々継承することによって、世代を超えての永続を目指す社会組織なのである。

いわゆる「アラフォー」世代よりも若い方々には、実感として理解しにくいことかもしれないけれども、つい数十年前までは日本の各地でごく当たり前に見うけられた家こそはまさに、日本人の意識や行動、価値観などを長年にわたり律してきたものにほかならない。

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■家の成立期
ところで、ここで問題にしたいのは、家産・家名・家業の三点セットに象徴される永続的な家が、一体、いつ頃成立したのかということである。周知のように、この問題をめぐっては、一部の保守的な政治家や評論家、メディアなどによって、家制度が日本の誇るべき「伝統」的美風であり、その起源ははるかいにしえの昔=古代にまで遡れるといった議論が、まことしやかになされている。

上記の立場は、近年、家制度的な社会秩序が崩れ去り、家を大切にする気風もないがしろにされるようになった結果、家族をめぐるさまざまな社会問題がいっぺんに表面化したとみなす議論、あるいは、老親の介護や生活困窮者の扶助は、できる限り家族・親族による自助努力で行うべきとの議論などとワンセットになって語られるのが常であり、国民、特に年配の方々からは一定の支持をうけているようにも思われるが、はたしてそれは、確固たる学問的裏付けを持つ見解なのであろうか。

近年の中国史や朝鮮史の研究によると、日本史でいえば戦国時代から江戸時代前半あたりにかけて、東アジアの諸地域では、今日「日本の伝統」、「中国の伝統」、「韓国の伝統」とみなされているような、独特の生活文化や社会制度・慣習などが一斉に開花したとのことである。もしそれが事実だとすれば、私たちが「これこそ日本の伝統だ」と思い込んでいるものの多くは、高々400年~500年程度の「伝統」にすぎないことになるわけで、その代表格としてあげられる家制度の歴史的な起源にしても、戦国時代より前にまで遡らせるのは困難になってくる。

農民の場合、苗字や通名(つうみょう)など家名にあたる名が用いられ始めるのは14世紀後半以降、それが一般化するのは16世紀であり、また、遺産相続の形態が分割相続から単独相続に変わったことによって、嫡男が相続した遺産が事実上の家産となるのは16世紀のことである。
したがって、農民のレベルで家産・家名・家業を先祖代々継承する家が最終的に形成された時期は、武田信玄や上杉謙信ら有力戦国大名がしのぎを削った16世紀中頃以降に求められる。

■単独相続の一般化と家産
以上の結論について、もう少し詳しく見てみよう。まずは家産だが、一般に遺産相続の問題を考える上で大切な論点として、分割相続か単独相続かという問題があげられる。言うまでもなく、戦後民法のもとでは原則的に分割相続であり、父親が遺した財産の相続権は、妻と子どもたちみなに存在する。

これに対し家制度のもとでは単独相続が原則であって、家長である嫡男は父親の財産の大半を相続し、この財産を家産として運用することにより、家業を経営する。つまり、単独相続の起源と家産の起源とは、ほぼイコールだといえる。

鎌倉時代までは今日と同様に分割相続が一般的であった。当時は女性も財産相続の権利をもっており、父親の財産も母親の財産もともに、娘をも含む子息全員に分割相続された。分割相続だと親の財産(その中心は土地)は子どもの人数に応じてばらばらに配分されてしまうので、当然のことながら先祖代々受け継がれる家産など想定することもできない。

武士の場合、13世紀後半になると分割相続による所領の細分化が進行し、嫡男ひとりが親の土地財産の大部分を相続する単独相続が、しだいに増加のきざしをみせることとなる。農民の場合、その時期は武士よりもやや遅れたと思われるが、どんなに遅くとも16世紀には単独相続にもとづく家産が成立した。

【参考】 坂田聡・中央大学教授「日本の家制度」(リンク

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