2017年08月16日
性と死の起源 生物にはなぜ、寿命があるのだろうか?
私たちは、年をとると必ず死を向かえる。ゾウもネズミも、時がたてばその命がつきる。その一方、不死と考えられる生物もいる。寿命は一部の生物が進化によって獲得したものなのだ。では、死ぬことはどんなメリットがあるというのだろうか?
実は、寿命をもつ生物には、「性別をもつ」というもう1つの共通点がある。生物史において、「性」が出現したとき、「死」も生物に備わったのだ。
◆「死」の起源は「性」の起源でもある
私たちヒトは、60兆個ほどの細胞でできた多細胞生物だ。細胞一つ一つのDNAに、自死するための手順を指示する「死の遺伝子群」が存在する。細胞はこの死の遺伝子を読み、死を実行する。このような死のしくみは、生物の進化上、いつからあるものだろうか?
◆1倍体生物には、「死」がない
大腸菌は、遺伝子のセットを1つもつ生物である。このような生物を「一倍体生物」という。大腸菌は、分裂によってふえる。まず、分裂前に遺伝子のセットをもう1つコピーしておく。そして、分裂するときに1セットずつ分配する。分裂してできた固体がもつ遺伝子セットは、元の固体とまたく同じである。
大腸菌は栄養がある限り、分裂して、数をふやすことができる。分裂の限界はない。死の遺伝子を持たないため、自ら死ぬことはない。いわば、不死である。
最初の生命が誕生してからおよそ20億年の間、生物は「事故死」することはあっても、「自ら死ぬ」とこはなかったのだ。
ところが生命誕生から約20年後、自死のしくみもった生物があらわれた。それは、1倍体とはことなり、遺伝子のセットを二つもつ「2倍体生物」である。私たちヒトは、この2倍体生物の一員だ。
◆多様な遺伝子セットつくりだせる
自死することはない1倍体生物と、自死する2倍体生物。どうしてそのような違いが生まれたのだろうか? 2倍体生物のほとんどは、分裂だけで個体を増やすことはない。雄と雌が協力して、固体を増やすのだ。
雄と雌それぞれは、自分のもつ2セットの遺伝子をまぜこぜにして、そこから1セット分の遺伝子を生殖細胞(精子や卵子)におさめる。両親の生殖細胞が出会うと、2セット分の遺伝子をもつ個体(子)が生まれる。こうして生まれた子の遺伝子セットは、他の誰とも違う組成をもつことになる。
その結果、2倍体生物の場合は、遺伝子セットのバリエーションが豊富になる。これは、温度や病気に対する抵抗力などが少しずつことなる固体が生まれることを意味する。そうなることによって、例えば環境が一変した場合に、固体が全滅してしまう可能性を低くすることができる。
2倍体生物の生殖のしくみを「有性生殖」という。2倍体生物は、「性」をもつという点で、大腸菌のような1倍体生物とは異なっている。大腸菌のような繁殖のしくみ「無性生殖」と呼ばれる。
◆「死」が生まれたから、「性」が成立した
2倍体生物は、性のしくみを持つ。そして同時に死のしくみをもつ。性と死には、関連があるのだろうか?
有性生殖では、遺伝子をまぜこぜにするので、多様な遺伝子セットをもった個体が生まれる。このことは、さまざまな環境に適応できる固体が生まれるという点ではプラスである。しかし、遺伝子の異常な組み合わせ出現してしまうというマイナスの可能性もはらんでいる。
異常な遺伝子をもつ個体は、成長できずに死んでしまうかもしれない。しかし、2倍体生物の場合は遺伝子セットを2つもつため、片方の遺伝子セットに異常があったとしても、もう片方が正常であれば、成長できることがある。そうすると、異常のある遺伝子は、そのまま生殖細胞に含まれて、子孫に引き継がれる可能性も出てくる。
異常のある遺伝子が消えずに子孫に蓄積していってしまうと、いつか、正常な固体を作り出すことが出来なくなる可能性で出てくる。そこで登場するのが、「死」だ。有性生殖でおかしな遺伝子の組み合わせが出来てしまったときに、それを消去するしくみ(死のプログラム)をもった生物が、いつかの時点で現れた。そうした生物が、今まで生き残り、地球上で繁栄できていると考えることもできる。
【参考】:Newton別冊『ゲノム進化論』
- posted by KIDA-G at : 2017年08月16日 | コメント (0件)| トラックバック (0)
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