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2019年11月1日

2019年11月01日

カルシウムが担った生命進化の役割

私たちの体の中で、カルシウムの役割はとても複雑で多岐にわたっている。
例えば骨や歯を構成する主成分であるが、もっと機能的な役割をもっている。種々のホルモンの分泌やホルモンの作用発現、筋肉の収縮や弛緩、血液の線溶・凝固、消化管での消化・吸収、創傷の治癒、薬物作用の発現、無数に近い多くの酵素の作用発現、種々の受容体の作動、大多数の分子構造の形成・触媒・安定化、さらには植物の光化学機序の発現など生物が生きていくうえで必須の役割を担い、しかもカルシウムに代替できるミネラルはない。

★どうしてこんなに多くの役割を一つのミネラルに託しているのだろうか?

以下、『カルシウムの不思議』(リンク)より
人間が住む地球の表層には多くの元素があるが、豊富な順番では、1番目は酸素、次いでケイ素、3番目が水素、そして、アルミニウム、ナトリウムとなり、6番目がカルシウム、さらに鉄、マグネシウム、カリウム、チタンの順番となる。地球表面にはカルシウムが豊富にあることがわかる。
地球の表面を流れ、種々の物質を溶かしこんだ海水ではどうか。一番多いのは水素、2番目が酸素、3番目がナトリウム、4番目は塩素、そしてマグネシウム、イオウ、カリウム、8番目にカルシウム、さらに炭素、窒素となり、海水でもカルシウムは豊富に存在する。この海水の組成と地球上の生物の誕生とに壮大な物語がある。

地球上の動物には特別な特徴があることが知られている。地球上の動物は数えきれないくらいの種類がいるが、その生活環境が極端に異なっていても、一定の類似した水分含有量をもち、その体液のミネラル組成も濃度もほぼ共通している。この体液のミネラル濃度は約1%食塩水に相当する。まるで地球上の起源が同一で、環境による自然淘汰による選別・進化を受けてきただけでなはないかとさえ思える。

例えば、陸上に住む動物たち・・・水の豊富な熱帯雨林、比較的乾燥しているサバンナ、水分がほとんどない乾燥した砂漠に住む動物すべてにあてはまる。もちろん、ヒトの体液も生理食塩水の0.9%に相当し、例外ではない。3.7%の塩分濃度の現在の海水中に住む魚類、軟体動物なども、塩分を含まない淡水に住む魚類もほぼ同じミネラル組成の体液をもっている。

先カンブリア期は約40億年前の海水中に単細胞が発生した時代であるが、人体の体液ミネラル濃度の305mEq/リットルより2.5倍も高濃度である。オルドビス期は約5億年前で脊椎動物の出現した時代であり、人体の体液の3.2倍の高濃度で先カンブリア期の海よりさらに濃縮されている。現在の海水はさらに濃くて体液の約3.7倍になっている。
海水は蒸発して雨となって陸に降り、陸地を川の水となって流れ、多くのミネラルを溶解した水が海水に注ぎ、長い歴史の結果として海水のミネラル濃度が増加してきたのであろう。しかし、古代の海水のミネラル濃度は体液より高濃度である。淡水が流れ込む河口が酸素が豊富で、栄養や温度などの条件が良く、生物が発生しやすかったと考えられる。そして、海水が希釈された低い濃度の海水中で繁殖し、この環境と同じ濃度の体液ミネラル組成ができあがったと推測されている。

古代の海で生命体が誕生し、長い道のりを進化し続けてきた。単細胞生物から多細胞生物へ、古代の軟体生物から海生動物へ、無脊椎魚類から脊椎魚類へ、そして陸生動物の出現となる。この海中生活環境から陸上生活環境への順応にはいくつかの大きな進化が必要であった。その一つは水中に溶けた酸素を摂取していた鰓から、空気より酸素を得る肺が必要となり、水中では浮力により軽かった体重が空気中では重い体重となるため、これを支える堅牢な骨格とより強力な筋力が必要となった。幸い、酸素は空気中に豊富に存在していたので生物は海の生活と大きくは変化しないですんだが、骨格と筋力は多種多様に進化し、多くの動物へと枝分かれして発達した。

環境変化により食物の摂取も激変する。海水中には多くのプランクトンのような食用微生物がいるが、陸生動物は呼吸するだけでは栄養が手に入らない。特に海水は3~4%のミネラル水なのでミネラル摂取は魚類にとってはごく容易であり、むしろ摂取過多となる危険があった。ナトリウムやカルシウムなどの生体に重要なミネラルでも吸収を少なく、排泄をできるだけ多くできるように機能し、摂取過多による高ナトリウム血症や高カルシウム血症を防御しやすいシステムが基本であった。ところが、空気中にいる陸生動物では海水中のようにミネラルを無条件に摂取できるわけではなく、貴重な栄養素になった。陸生動物の器官も摂取することより防御が優先されて機能するのでカルシウムは腸管での吸収率が30%程度と悪く、腎臓での排泄能力が強力であるのは海生生物の系統発生的ななごりのようにみえる。

海生生物から陸生動物になる大きな内分泌学的な進化もある。魚類は血液中にカルシトニンとう血液中のカルシウムを骨に蓄えるホルモンをもっているが、陸生動物の両生類以上の脊椎動物では、魚類にはない、骨を壊してカルシウムを引き出す副甲状腺ホルモンをもつようになる。カルシウムが豊富に摂取できるときにカルシトニンによりカルシウムを骨にたっぷり蓄え、不足するときには副甲状腺ホルモンにより骨からカルシウムを必要なだけ引き出すことができるようになったわけである。このカルシウムを出し入れする2つのホルモンを、その働きの通りに『カルシウム調節ホルモン』という。

空気中での重くなった体重を支える筋肉は骨の端と他の骨の端に接着し、より強力、強靱になっていく。このことは陸生動物では骨により強い圧力がかかり、骨もより堅牢になっていくとともに、大量のカルシウムの蓄積ができることになったのだ。

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