2019年11月21日
人類とオランウータンの類似点
チンパンジー起源説に対して、現生人類に最も近いのはオランウータンだとする主張がいくつも提起されている。
●オランウータンと人類は身体的に酷似している。
以下、「Journal of Biogeography」に掲載された論文の骨子(米バッファロー科学博物館ジョン・グレハン氏とピッツバーグ大学ジェフリー・シュワルツ氏)「National Geographic」2009.6.23
人間をチンパンジーと結び付ける遺伝的な証拠によって、この事実は軽視されてきたが、遺伝的な証拠そのものに欠陥がある。
2005年、チンパンジーのゲノム解読によって人間とチンパンジーは遺伝学的に96%同一であることが証明されたというが、DNA鑑定は人間とチンパンジーのゲノムのごく一部しか調べておらず、しかも、多くの動物が共有する古いDNAの形質が人間とチンパンジーの類似点として挙げられている。
それに対して、身体的な特徴に注目すると、オランウータンの方が類似点が多い。人間とオランウータンは固有の身体的な特徴を少なくとも28個共有する。チンパンジーは2つ、ゴリラは7つしか共有していない。
オランウータンと人類が共有する特徴は、
【1】エナメル質が厚く表面が平らな大臼歯、他の動物より非対称な右脳と左脳、前腕の軟骨と骨の比率に大きな差があること、肩甲骨の形など。
【2】人間に固有のものとされてきた口蓋の穴が、オランウータンにもある。
【3】人間とオランウータンは他の動物より乳腺が広範囲に分布している。
【4】ともに最も髪を長く伸ばす動物である。他の霊長類と違って、生え際が存在し、そこから目の上まで髪を下ろす。
【5】アフリカやヨーロッパで発掘された古代の類人猿の歯とあごに、オランウータンのような特徴がある。
それらの類似点を踏まえてシュワルツ氏らは、人間とオランウータンは共通の祖先を持ち、現存するアフリカの類人猿はそこに含まれていないとする。
人間の祖先はオランウータンに似ており、約1300万年前、アフリカやヨーロッパ、アジアに広く分布していたと推測。その後、気候や環境が変化して多くの種が絶滅し、アジアの種とアフリカの種は独自に進化したとしている。
ロンドンの自然史博物館アンドリュース氏はチンパンジー起源説だが、「チンパンジーと人間を結び付けるような(身体的)特徴は皆無に等しい。ほとんど分子的な証拠のみに基づいて結び付けられている」と言う。
他にもある。
●目の構造と、顔の形態に雄雌の性差がある。
白目と黒目は、ヒトとオランウータンだけだという。
「オランウータンとヒト、形態から考える」京都大学野生動物研究センター幸島教授
ヒトの目の特徴は、
【1】黒目の外側の「露出強膜」が白い
【2】目の中で露出強膜(白目)の占める割合が大きい
【3】目の輪郭が横長
大部分の霊長類が露出強膜をこげ茶色にしているなかで、ヒトだけがまったく色素がない。
白目の大きさは「白目が大きいほど黒目が小さくなり、黒目を動かせる余地が広がる」「体が大きいほど、目玉だけを動かして見る方向を変えたほうが効率が良い」といわれているが、もうひとつ、白目がある理由として「視線を強調する狙いがあるのではないか」と指摘している。「目は口ほどにものを言う」ことからも、ヒトにとって言葉以前に視線は相手の感情を読み取るコミュニケーション機能だ。
幸島教授によると、こうした指摘は形態が似たオランウータンにもできそうだという。
オランウータンはしばしば相手をじっと見つめ、何か考え込む様子をすることから「森の哲人」と呼ばれている。樹上で互いに見たり見られたりすることでコミュニケーションをとっているのではないか、というのが幸島教授の推測だ。
さらにオランウータンの特徴である顔の性差が出るのが目の周辺であることにも着目。年を取るにつれて雄と雌の間で顔の色や特徴の違いが出てくることを指摘。
●血液型の多様性(特にO型があるのはオランウータンと人間のみ)
以下、「日本人は何処から来たか」の要約。
オランウータンは、A型、B型、O型、AB型(人間と同じ)。チンパンジーはほとんどA型、O型がまれで、B型は皆無。ゴリラはB型のみ。オランウータンの祖先のテナガザルにはA型、B型、AB型だけでO型がない。
血液型は多様性の獲得。O型はA型、B型両方に抗体をもっている。逆にA型とB型はO型に対する抗体が無い。O型は最後に生まれた血液型であろう。
とすれば、オランウータンと人間がO型を有しているということは、両社の親近性を示している。 東南アジア人にはO型が多いという。
●ゴリラとチンパンジーの雌には発情期があるが、人間とオラウータンにはなく、いつでも受け入れ可能である。
また、ゴリラとチンパンジーの交尾は短く後背位のみであるが、人間とオラウータンのそれは長く動物界でこの二者のみ正常位をおこなう。
探検塾『オラウータンと人類の起源 (ジェフリー・シュワルツ著)』書評
他にも次のような類似点が挙がっている。
●ゴリラとチンパンジーは歩くときにナックルウォークするように手の骨ができているので、手のひらは平らに伸ばせない。人間とオラウータンは伸ばせる。
●人間は霊長類で一番頭の毛が長い。オラウータンも顔が隠れるくらい長いが、ゴリラ・チンパンジーは短髪である。
●人間の脳は左右非対称で、そのために右利きが多い。オラウータンも左右非対称で、母が子を抱くときに右腕を利き腕として使うことが多い。チンパンジーには利き腕がない。
●ゴリラとチンパンジーには尻だこがあるが、人間とオラウータンにはない。
●分子系統学の手法の一つ最節約法で解析すると、人類とオランウータンには共通祖先がいたという結果が出る。
最節約法については分子系統学の基礎
以下、「ヒトに最も近いのはオランウータン?:異説・珍説の扱い方」の要約。
最節約法を使って、現存大型霊長類(ヒト、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン)とアフリカ、アジア、ヨーロッパの化石大型類人猿との間での(形態形質による)系統関係を調べた。
解析の結果、現存大型霊長類は単系統で、二つの姉妹群(ヒト+オランウータン、チンパンジー・ボノボ+ゴリラ)が検出された。ヒト+オランウータンには、化石人類および中新世の類人猿が含まれていた。
つまり、ヒトとオランウータンには(アフリカの類人猿をのぞく)共通祖先がいた可能性がある。
その共通祖先は、少なくとも1300万年前までは広い分布をもっており、その後の分断分布によって、東アフリカのヒト科人類や、スペインから東南アジアに分布する中新世の類人猿へとなった可能性がある。
(※分子系統学は条件設定によって如何様にも結論が変えられるので決定的な証拠にはならないが、分子系統学的にも人類とオランウータンの共通祖先説が成立することを示している)
●1960年代まではインドのラマピテクスの化石(1400~800万年前)の歯列や犬歯・臼歯が人類に似ていたので、ラマピテクスが人類の祖先とされていたが、1980年代以降、分子系統学によってこの説は葬られ、チンパンジー起源説一色となった。そして、ラマピテクスはオランウータンの祖先と看做されるようになった。「1960年以前は人類アジア起源説」
しかし、オランウータンと人類が近縁なのであれば、葬り去られたラマピテクス起源説の方が正しかったのではないだろうか。
少なくとも、当てにならない分子時計法しか根拠がないチンパンジー起源説よりも事実に近いと思われる。
- posted by KIDA-G at : 2019年11月21日 | コメント (0件)| トラックバック (0)