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2019年10月20日

【定説】分子進化の中立説とは、どのようなものか。

●突然変異と進化の定義
個体に起こるDNA上の変化を突然変異と呼ぶ。一個体のDNA上に生じた突然変異が集団全体に広まり、DNAが種として変化しその変化がDNAに刻印される。これを進化と言う。

●ダーウィンの自然選択(淘汰)説「最適者が生存する」「強いものが生き残る」
生存に有利な変異or環境に適応した変異が、自然選択によって種に広まる。個体の生存に不利に働く突然変異は、個体の死という形で集団から除去され、広まらない。これも自然選択の結果である。表現型(目に見える身体の形態)については、今日でも正しいとされている。

●1968年木村の分子進化の中立説「もっとも幸運なものが生き残る」
確かに、目に見える形態では、突然変異のうち環境に最も適した変異が選択され、それが種全体に広まって進化が起こる。ところが、DNAや遺伝子、タンパク質といった分子レベルでは自然淘汰による進化は稀で、有利でもなく、不利でもない、中立な変異が偶然に集団に広まった結果、進化が起こる。(不利な突然変異は集団から除去され進化に寄与しない。有利な変異も無視できるほど少ない。∴集団に広まる突然変異のほとんどは中立的な変異)
中立説が登場した背景は、1960年代から隆盛した分子生物学で、アミノ酸の変化速度が推定できるようになったこと。それによって分子レベルでの変異は、目に見える形態の変異よりもはるかに速く多く起こっており、また、形態変異とは関係なく起こることがわかった。
進化におけるDNA塩基の置換え速度は、アミノ酸に変化を起こさない置換え(→形態を変化させない置換え)の方が、変化を起こす置換え(→形態を変化させる置換え)よりもはるかに速い。このように進化の過程では、形態を変異させないDNA塩基の置換えの方が、種内に大きな速度で蓄積してきたことがはっきりした。
また、タンパク質の機能上重要な部位ではアミノ酸の変化は観察されず、長い進化の過程でも不変。重要でない部位ではアミノ酸の変化が起きるが、アミノ酸が変化してもタンパク質の構造はほとんど変わらない。このように、種に広がる変異の多くは、従来の機能を保存するような中立的な変異である。これが中立説の主張である。

●中立説と自然選択説の対立~折り合い
中立説の発表当時はダーウィンの自然淘汰説全盛の時代で、有害な変異を除くとDNAに蓄積された変異の大部分は中立な変異で、それが偶然に集団に広まったいう中立説は抵抗にあったが、木村は1983年『分子進化の中立説』で中立説-淘汰説論争に終止符を打った。
現在では、中立説は自然選択説と折り合いがついている。
➀有害な変異は自然選択の力で集団から除去される。(中立説・自然選択説に共通)
②DNAに蓄積した大部分の変異は中立な変異で、それは偶然に集団に広まった変異とされる。(中立説)
③残りの僅かな有利な変異が、目で見える形態レベルの進化に寄与する。この僅かな有利な変異に自然選択が働く。(自然選択説)
※木村は「分子進化→形態進化の繋がり」を課題として後進に託したが、中立変異のうち有用・必要なものが作動して形態変異する仕組みは、未だによくわかっていない。

●中立説の傍証
①分子時計(分子進化速度の一定性)
木村が中立説を発表した当時、分子時計説が登場。例えば、アミノ酸の変化が形態の進化とは無関係に、一定の変化速度で蓄積するということは、進化生物学者にとって衝撃だった。この分子時計(分子進化速度の一定性)は、中立説で容易に説明できるのに対して、自然選択説では説明できないと考えられた。
中立説では、分子進化速度kは総突然変異率μに対する中立な突然変異の割合fに比例する。
分子進化速度k=中立な突然変異の割合f・総突然変異率μ (1)
一方、自然選択説で分子進化速度一定を説明しようとすると、集団を形成する個体の数、適応度、突然変異率など幾つもの変数があって、進化速度を一定に保つ様な変数の組合せがあるとは考えにくい。

②偽遺伝子(役立たずの痕跡的な遺伝子)
遺伝子の塩基配列からタンパク質を作る際、3組の塩基を一つのアミノ酸に対応させるが、タンパク質の情報を担う塩基配列に欠失や挿入が起こると、正常なタンパク質の情報が失われ、遺伝子は死んでしまう。塩基配列は正常な遺伝子と似ているが、途中から出鱈目めなアミノ酸の配列になる。こうした遺伝子を偽遺伝子と呼び、DNA上にたくさん存在する。偽遺伝子は遺伝子コピーの失敗作であり、完全に機能を失っているので、偽遺伝子上の突然変異は個体にとっては害にも有利にもならない。全ての変異は中立な変異ばかりである。
 また、偽遺伝子では有利な変異は何一つ起きず、全てが中立な変異ばかりで、自然選択が働かないので、自然選択説では偽遺伝子は進化しないとされる。一方、中立説では、分子進化速度は(1)式から中立な突然変異率fで決まる。偽遺伝子は有害な変異がないので(f =1)、最大のスピードで進化することになる。中立論者は偽遺伝子は最大のスピードで進化すると予想し、淘汰論者は偽遺伝子では全く進化が起きないと予言した。1980年に偽遺伝子が発見された時、中立論者は偽遺伝子の進化のスピードを計算し、偽遺伝子が最大のスピードで進化していることを発見した。こうして、偽遺伝子は中立進化の証拠となった。

【参考】「分子進化学の基礎」宮田隆
「分子進化の中立説」宮田隆
「分子進化の中立説 ~木村資生と中立説」遺伝学電子博物館

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