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2019年11月24日

母系(母権)の研究3~母系を紐帯とする哺乳類の群れ社会

『哺乳類の生物学4~社会』(三浦慎吾著、東京大学出版会 1998)より転載。

●食肉類の母系社会
食肉類の多くは単独性社会をもち、群れ社会をもつものはわずか10~15%である。
群れはいずれも複数のメスと少数のオスによって構成される。そして、そのほとんどでは、メスには血縁的なつながりがあり、オスは一時的な滞在者に過ぎないことで共通している。
その代表がライオンのプライドである。プライドは複数の血縁的なメスと子ども、少数のオスたち(「連合」とよばれる)によって構成されるが、オスの連合はメスの群れの所有をめぐって別の連合と激しく闘う。この結果、オスは2~3年で別のオスたちと入れ替わる。
食肉類の群れ社会もまた、メスの血縁を基盤に成立しているといえよう。
ただし、これには例外がある。イヌ科である。キツネ、オオカミ、ジャッカルなどでは特定のオスとメスが安定したペアをつくり、毎年繰り返して繁殖を行う、ペアの結びつきは強く、協同でハンティングを行う。そこで生まれた子どもは分散せずに、比較的長い時間群れに居残る。かれらは明らかに一夫一妻を基礎とした群れ社会をつくる。ただし、哺乳類全体でいえば、きわめてまれな社会である。

●メスとオスの生活原理と母系社会
これまでに、げっ歯類、有蹄類、食肉類の群れ社会を駆け足でスケッチしてきたが、これらをまとめると、哺乳類の群れ社会の原型は、メス(母親)とその娘を核にした母系的な結びつきであるといえるだろう。このことは、霊長類やクジラ類など、その他の動物群でも基本的に共通している。

ただ、イヌ科(や一部の霊長類)に見られるように、オスとメスのペアを基礎に子どもが結びつく場合もあるが、これは全体からみればほとんど例外に近い。ペア型は子どもの分散をを前提に成立する社会であり、それ自体がひとつの完結系であるので、集団化の諸端にはなりにくい。哺乳類の群れ社会の主流は、メスの血縁的な結びつきから出発し、餌の量や分布、天敵の圧力といったさまざまな生態的条件と結びついて複数のメス群が合流し、その上に高い繁殖成功度を求めてオスが加わり、多様で複雑な群れ社会が構築されていったと考えられる。

ところで、私たちは、ヒトの社会の原型が一夫一妻にあると考えがちである。しかし、はたしてそうだろうか。哺乳類全体の検証は、一夫一妻を原型とした社会進化がかなり特殊な事例であることを示している。私は、ヒトの社会の進化も哺乳類の一般的な筋道、つまりメスの集団化を軸に展開されたにちがいないと考えている。
ヒト社会の原型については、人類学や民族学の立場からさまざまな見解が提出されているが、血縁どうしのメスの結合による母系社会がまず成立し、その中に父系社会が胚始したとする「進化主義」の親族理論が有力である(江守)。また、霊長類学の立場からは、伊谷、河合や山極がメスの集団化の重要性を指摘している。なかでも河合は、草原性ヒヒ類をモデルとして、複数オスが入り込む母系的な集団を核とした重層的な地域社会の成立を人類社会の原型としてとらえている。
※上の文中で紹介されている著者と書籍
・江守:江守五夫「母権と父権」
・伊谷:伊谷純一郎「霊長類の社会構造」「霊長類社会の進化」
・河合:河合雅雄「人間の由来」
・山極:山極寿一「家族の起源」
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このように、哺乳類の群れ社会の原型は、メス(母親)とその娘を核にした母系的な結びつきということだ。
哺乳類で例外的に父系(息子残留、娘移籍)を採っている種に、リカオンやチンパンジーがいる。いずれも大型集団を形成できるところまで進化した種で、リカオンはライオンなどの外敵闘争圧力、チンパンジーは同種他集団との縄張り闘争圧力に晒されている。それらの高い外圧に適応するため、群れの戦闘力を高めることが出来る息子残留という様式を採ったのだと考えられる。

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