2007年03月11日
ミクロネシア・サタワル島の母系原理と父系原理の攻防
母系なのに嫁入り婚って?で紹介されているトロブリアンド諸島のように、母系制の中に父系的要素が入り込んでいる事例は、世界各地で見られそうです。
以前、こんなに近くに住んでいるのに父系に変わった理由は?で紹介されたベトナムの、もとは同族と思われるコホー族は母系、マー族は父系というのは、マー族のほうが父系原理の支配度が上回った事例だと思われます。
同様にミクロネシアでも、サタワル島は母系(妻方居住の婿入り婚)ですが、もとは同族のヤップ島は父系(夫方居住の嫁入り婚)へと進展していっています。
ヤップ島は、父から長男への父系相続になっているので(トロブリアンド島のように長男含む男子が母方の集団へ移らない)、上のマー族と同様、かなり父系原理の支配度が上回った形態と考えられます。
まずはサタワル島の父系要素と考えられる父-子相続が、どのように母系社会に組み込まれているかを見たいと思います。
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サタワルの人々の主食は、ココヤシの実、パンノキの実とタロイモだが、これら食料を収穫する土地(財)を所有し、使用、管理する社会集団が、先の投稿で紹介した母系出自の集団編成をとるリニージ(母系クランの分節集団)である。
リニージは財産を共有する基本単位だが、他のリニージに婿入りした男性は彼の妻と子供に、ココヤシ林、パンノキとタロイモ田を贈ることが義務付けられているので、いくつかの財を共有する単位に分かれることになる。財を所有し、使用する権利の保持者を軸に類別すると、少なくとも三つの集団より構成される。
一つは、リニージ成員のすべてを含むレベルで、リニージが代々所有してきた財に対して、均等に権利を主張できる人々によって編成される。この財は「元来の土地」とよばれ、婚出した男性もその権利を保持している。リニージの男性と女性の族長が管理責任をもっている。
二つめは、リニージに婚入した他のリニージの男性が贈与した財を共有する集団。この財は「元来の土地」と区別され、「贈られた土地」とよばれる。男性の婚姻時と子供の誕生後に贈与され、使用・管理するのは、子供が成人するまでは贈与した当人(父)とその妻である。父の死後、ココヤシ林とパンノキは父から息子へ、タロイモ田はその妻(母)から娘へと相続される。父から贈られた財は、父親を同じくする兄弟姉妹の「私的」占有物で、他の者(ex.リニージの族長であっても)この財を取り上げたり勝手に処分することは許されない。
兄弟姉妹の共有財は、長男がココヤシ林とパンノキを管理、監督し、長女がタロイモ田を配分し管理する。そして、兄弟が婚出し子供をもつと、これら財のうち父から譲渡されたものを最優先に、彼の妻や子供に贈与するのである。
三つ目の集団は、前二者の中間で、リニージに婚入した男性が財を持参したにもかかわらず子供がいなかったり、娘だけだったりして、その財がリニージに世代をこえて保有されている場合に生じる。
このように土地共有体としてのリニージは三集団の重層的構造をもっており、常に分裂する可能性を示している。とりわけ男性の婚出時に、「元来の土地」が贈与対象になるとき、女性族長は最も気を使うことになる。
男たちにしてみれば、妻の一族の手前、1本でも多くのココヤシを自分の子供に贈っていい顔をしたい。しかし、彼らの要求をそのまま聞いていては一族の祖先伝来の財が少なくなり、家族の食糧をまかなえない。そこで、女性族長は男性族長に頼んで一族の会議を開いてもらう。譲れ、いや譲れないの口争いになることもあるが、女性族長が強い発言権をもち意向が尊重されるのである。
*****須藤健一著『母系社会の構造 サンゴ礁の島々の民族誌』より*****
父系原理が攻撃を加え母系原理が防衛しているさまが伺えます。
以降、男性の贈与財が増え父-子相続が上回ってゆき、母系集団が弱体化してゆくのである。
読んでもらってありがとう(^_^) by岡
- posted by okatti at : 2007年03月11日 | コメント (1件)| トラックバック (0)
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