2019年07月21日
【定説】生物のエネルギー源ATPと熱・体温
生物のエネルギー源と言われるATPと熱(体温)の関係はどうなっているのか?
ここでは定説を紹介する。
「エネルギー代謝とミトコンドリア機能II .ATP 産生と熱産生、そして TCA サイクル複合酵素の構造」田中 信行鹿児島大学名誉教授・大勝病院顧問から転載。
我々は筋肉や心臓の活動、神経、肝、腎機能等の維持のために、ATP という「化学エネルギー」と 37 度の体温を維持する「熱エネルギー」も産生している。1 日の必要エネルギー 2400カロリーと言うとき、それは ATP エネルギーと熱エネルギー、いずれのことだろうか。
全ての生物のエネルギー源は、植物の葉緑体が太陽の光エネルギーを用いて炭酸ガスと水を糖や脂肪等の化学結合エネルギーとして固定したものである。それ故に太陽と植物は「全ての生命の母」である。そこには光(電磁波)エネルギーを糖や脂質、そして ATP という化学エネルギーに変換し、更に体温維持の熱(赤外線)エネルギーにするという量子論的転換がある。つまり我々は食物から、ATP という「化学エネルギー」と体温という「熱エネルギー」の二つのエネルギーを得ているように見えるが、両者はどんな関係にあるのだろうか。
解糖系やミトコンドリアの TCA サイクルは糖や脂肪をCO2と H2O に分解するが、その過程で生じたNADH2、あるいは FADH2等の水素は電子を失って H+となる。その電子は CoQ からチトクローム b、c、a という「電子伝達鎖」を経て酸素に渡され、2H++ O- -→ H2O となる。この水素イオン、電子の濃度勾配を利用して「ATP合成酵素」により ATP が作られる。
最終的な電子受容体は酸素であり、これが酸素がないと電子伝達鎖、そしてATP 合成も止まり死に至る理由である。
しかし ATP 合成に流れる電子エネルギーは約 40%で、残りは脱共役回路で直接熱になる。生命とは「熱力学第 2 法則」、すなわち拡散・無秩序(エントロピー増大)への流れに抗して、ATP エネルギーで分子を結合し、イオン濃度勾配を維持することである。一方、ATP消費と熱産生は表裏一体で、ATP 分解時のエネルギーの 75%は熱となり、残りが分子流動や他の物体の移動等の力学的エネルギーとなるが、最後は分子相互や地面、空気との摩擦熱となって放散する。
摂取した 2400 カロリーのエネルギーの40%はATP を経て、60%は脱共役回路で、最終的には全て熱になり、これが ATP としての「生命活動」と「体温の維持」という 2 つの活動ができる理由である。糖や脂肪は完全に炭酸ガスと水になり、その結合エネルギーはすべて熱になり、「物質不滅の法則」も「エネルギー保存の法則」も完全に保たれる。太陽の光エネルギーが植物の糖や脂肪の合成、そして ATP への変換を経て我々の生命活動と体温を維持し、最後は全て熱として宇宙に拡散するというエネルギーの流れである。
一日の 2400 カロリーとはどの程度のエネルギーか?
糖質 1g の熱量4Cal(4000cal)は、水1mlを4000℃、あるいは水1000ml(1kg)の温度を 4℃上げる熱量である。2400Cal はその 600 倍、つまり水と類似の 60kg の人の体温を 40℃上げる熱量であるが、元々の体温が 36℃あるため、その熱は体から放散される熱の補充、つまり体温維持に使われることになる。因みに 2400Cal は糖質なら 600g、脂肪なら267g に相当するが、灯油 1g の熱発生量は10Cal なので、我々は 1 日 240g の灯油を消費するエンジン、又はヒーターである。ATP 合成に回るエネルギーは前述の様に約 40%(960カロリー)であり、ATP(MW=507)の発生エネルギー 16Cal/ モルから 960Cal/16Cal = 60モル=30420g、すなわち「1 日約 30kg」と言う大量の ATP に相当し、TCA サイクルや ATP合成酵素の活発な活動が理解される。
- posted by KIDA-G at : 2019年07月21日 | コメント (0件)| トラックバック (0)
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