2020年04月23日
今回のコロナ禍でグローバル社会から共同体社会へ転換するのか? -2.各国の政策としてのベーシックインカム・国家紙幣への流れ
前回は、人々の意識の変化している兆しを探り、今後どういう潮流となるのか紹介した。ここで、その潮流に多大な影響を与えていくであろう生活の基盤について探ってみたい。
コロナ禍に対する世界的な潮流は、ロックダウンまたはそれに準ずる外出、営業自粛を進めるとともにそれに対する補償、支援をセットで実施していることである。日本はそれに遅れているがいずれその方向に進めざるをえない圧力が高まっている。
その生活の補償、支援においてスペインが先陣を切って、ベーシックインカム制度を開始する。国民の生活基盤を補償していく制度は、画期的である。実は、ここ数年の間に、ベーシックインカムを実施するとどうなるかという社会実験が繰り返されてきている。人々の仕事観やひいては人生観まで考察した記事も紹介させていただく。
■世界に先駆けて生活基礎補償を実施するスペイン
スペインの画期的な部分はコロナ禍が去ってもベーシックインカムを継続するという強い意思で推進するところ。制度としての継続性、公平性、透明性に期待したい。
スペインで「ベーシック・インカム」導入、経済大臣が宣言
より引用
新型コロナウイルスの感染者数が世界2位に達したスペインは、経済の立て直しに向け、可能な限り迅速に「ユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障制度)」制度を導入することを決定した。
4月5日、経済大臣のナディア・カルビニョが発表した新たなスキームは、終了期限を設けずに導入されることになる。カルビニョは現地メディアの取材に対し、感染拡大の脅威が去った後も、ユニバーサル・ベーシック・インカム制度は継続すると述べた。
予算規模などの詳細は未定というが、政府は既に導入に向けた調整を進めている。感染拡大による経済的ダメージからの復興に向け、スペインのペドロ・サンチェス首相は3月17日、2000億ユーロ(約24兆円)の支援策を発表していた。
支援策には1000億ユーロの政府による信用保証のほか、企業に対する無制限の流動性供給などが含まれていたが、ユニバーサル・ベーシック・インカムでこれを補完する狙いがあるとみられる。
スペインではロックダウンの開始から3週間で90万人が失業し、3月の失業者数は過去最大を記録していた。
カルビニョ経済大臣は現地メディアLa Sextaの取材に「ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入に向けた手続きは、非常に煩雑なものになるが、我々のチームは決意をもって取り組んでおり、可能な限り迅速に導入する」と述べた。
■スペイン以前にベーシックインカムに対する社会実験で可能性を分析済み
このスペインの英断ともいえる政策も唐突なものではなく、社会実験をくりかえしてその効果を分析してきた実績に基づいたものと思われる。その事例を紹介したい。
ベーシックインカムを実験導入したフィンランドからの報告と今後の可能性
ベーシックインカムの導入実験最初の年での結果は、参加者の雇用意識の引き上げまでは行かず、しかしながら、参加者の幸福感が上昇していることが分かる。上記グラフでは、ベーシックインカムの受信者の56%が幸福感や健康状態を良好または非常に良好であると回答している。これは非受給者に比べて10%も少ない。またストレス(不全感)は受給者の17%が感じているが、非受給者の25%に比べ、値は小さい結果を示した。
実験1年目の結果から注目すべきは、受給者が感じた“幸福感”だ。
つまり、お金を稼ぐために働かざるを得ない状態から人々の意識が解放されたということだ。人々が私権観念、私権制度から脱するには、まずは貧困或いはそれに近しい状態、すなわち否も応もなく私権第一、お金第一の価値観から解放されることにある。ベーシックインカム導入実験1年目では、少なくともこの状態から解放されたと感じる人々が過半数に至ったという点は、私権制度から人々を解き放つ力をベーシックインカムが有していることが分かる。
6年間のイランでのベーシックインカム(BI)の実験結果「労働意欲に影響なし」
こういった先進的な取り組みには効果予測という観点で、それなりに明確な根拠がなければ色んなところから文句が出るものなのだ。 そういう意味で、今回のイランでの研究結果は、今後のベーシックインカムの議論を進めるにあたって、非常に大きな意味を持つだろう。
今回の研究内容のポイントは下記のとおり。
・支給額は国民平均収入の29%にあたる1日1.5ドル(約170円)で、アメリカの平均年収で1万6000ドル(約178万円)程度
・対象者の条件などはなく、すべての国民に無条件で現金の支給を行う
・労働需要に大きな影響は見られず、一部の分野では事業拡大の効果もあった特に支給額はかなり重要で、年収約178万円は”ベーシック”として絶妙な基準であると考えて良いだろう。
もちろん、実施する国の経済状況や家計の実態を鑑みて、支給額や支給方法は修正・改善されるものと思われる。実際、ベーシックインカムはベーシックな金額だからベーシックインカムなのであって、生活にある程度必要とされる金額しか提供されない。
なので、35年ローンで家を買ったり、そんなに乗らない新車を買ったり、子供を何人も私立大学にいれたり、大型連休に毎年夫婦で海外旅行をしたりするような超贅沢な生活をベーシックインカムだけで賄うのは不可能なはずだ。普通に考えれば生きていく上でそんなものは必要ないのだが、消費行動に対する、世間体や見栄といった意味不明な動機は極めて強い。 であれば、ベーシックインカムを上回る所得を得るために、労働を行う層は一定数いるものと思われる。
もちろん、自らの消費行動を改めベーシックな生活を送るために、仕事を放棄する者もいるだろう。
そして、それ自体は決して悪いことではない。現在の時点で、やる気のない人間をカバーするために失われているワーカホリック的人間の労働は、ミクロとマクロの両方の観点で、少なからず存在するはずだ。
ベーシックインカムの導入によって、やる気のない人は嫌々仕事をする必要がなくなるし、バリバリ働きたい人にとってはじゃまな人間が減ることになり、双方にとって望ましい状況を生まれるだろう。
結果、先日報じられたような熱意のない社員は、ベーシックインカムの導入により、ある程度自然に淘汰することができるのではないだろうか。
他にも、イタリア、カナダ、スイスなどでも社会実験が実施され、概観すると、生活保障が実施されても、人々の仕事に対す意欲は低下せず、むしろ本当にやりたい仕事やさらに言えば使命感を持った仕事を重視する傾向がみて取れる。
■ベーシックインカムが次代の政策になる可能性
コロナ以前から、バブル化した株式市場、先物市場とそれを支える赤字国債などいつ破綻してもおかしくない状況であることで、げんざいの金融システム、財政システム等に代わる制度が求められている。究極は中央銀行制度の廃止、国家紙幣への移行となるが発行者としての国家の信用こそが重要となる。現在のように薄っぺらい特定の政権による国家ではなく、国民のすべてが参加できる重層的な社会システムがあってこそ国家の信用が保たれる。単に財政収支が良いというだけでは信用は保てない時代になる。
国民の生産力=活力=幸福度=国家の信用度
が一致するような複層的な価値判断がもとめられ、これまでの利権の勝者によるピラミッドではそぐわないし求められていない。ベーシックインカムは基礎的な補償であるがゆえに、自分のお金というよりもみんなのお金という意識に変化していくのではないだろうか? だから特定の利権に対しては社会として妥当か否かという判断が働きやすく、過度な消費についても、本来必要なものか否かという価値判断を生起させていくだろう。
そう考えると、原始から人類にとって厳しい生存環境を乗り越えるための集団=共同体を母体として社会に開放されたシステムを構築することが次代の可能性といえるのではないだろうか?
- posted by KIDA-G at : 2020年04月23日 | コメント (0件)| トラックバック (0)
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