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2019年05月30日

近代科学の法則は、数学的に公式化できるように作られた架空観念

山本義隆氏は「近代科学は自然を虚心坦懐に在るがままに記述するものではない。近代科学の法則とは数学的処理ができるように人間が単純化し抽象化した現象の法則である」と述べている。『新・物理入門』駿台文庫 『十六世紀文化革命』みすず書房
その要旨は以下の通り。
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近代科学、とりわけ物理学は、自然を虚心坦懐に眺め在るがままに記述するのではなく、複雑で多彩な自然を単純化・理想化し、特定の現象を捨象することから始まる。
近代以前のアリストテレス自然学では、物体の熱い・冷たい、湿っている・乾いているという性質が本質と考えられていた。実際、日常的に経験される現実の物体はそのような多彩な性質をもつ。しかしガリレイやデカルトは、そのような性質は感覚する人間との関係であり、物体にとって本質的ではないとして捨象し、物体を位置と幾何学的形状だけをもつものとして単純化した。
また小石はストーンと速く、木の葉はヒラヒラとゆっくり落下する。それに対してガリレイは、その差は空気抵抗の影響で、空気抵抗が十分小さくなった極限としての真空中では小石も木の葉も同じ加速度で落下すると主張した。
ガリレイは、物体を幾何学的に単純化された抽象物、空気抵抗を物体の運動にとって副次的・非本質的撹乱要因だとみなす。ガリレイにとって現象とは取捨選択され理想化された現象である。それによってはじめて運動の本質が暴き出されるとガリレイは考えたのである。

ガリレオは「物体がなぜ落下するのか?なぜ加速されるのか?」という追求を放棄し、真空という現実には存在しない理想状況で、物体はどのように落下するのかという問題(落下運動の数学的表現)に自ら守備範囲を限定した。万有引力の法則を数学的に定式化したニュートンも、重力の本質(なぜ引き合うか)を明らかにせず、自ら棚上げにした。

近代科学、とりわけ物理学の成功の理由の一つは、本質の追究を放棄し、その目的と守備範囲を数学的法則の確定に限定したことであるが、数学的に法則化させるためには、あるがままの自然を受動的に観察するのでほなく、現実には存在しない理想にできるだけ近い状況を人為的・強制的に作り出す必要があった。
実際、カントも「近代物理学の法則はあるがままの自然にたいする虚心坦懐な観察や、無前提的で闇雲な測定によって導かれるものではない。その検証は、人間の思考の枠組みに適合するように自然にたいして強制的に働きかけてはじめて可能となる」と記している。

また、数学的処理になじむよう現象や対象を単純化・抽象化しなければならない。そうして数学的に法則化されたのが近代物理学の法則である。
例えば、物理学で扱う物体を抽象化した概念として、質点・剛体・弾性体などがある。質点は位置のみをもち、大きさはない。剛体は大きさをもつが、変形しない。弾性体は力を加えると変形するが、力をのぞくと元に戻る。
しかし、現実の物体は大きさをもち、力を加えれば変形し、力を除いても完全にはもとに戻らない。つまり、質点も剛体も弾性体も、現実の世界には存在しない抽象概念である。
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ロシア科学アカデミーの佐野千遥氏も「現代物理学は自然には実在しない連続実数値を前提とする誤った数学(微積分と確率論)を利用するという決定的な誤りを犯している」と指摘している。
ということは、近代科学の概念や法則は現実を対象化したものではない。数学的に公式化できるように作り上げられた架空観念にすぎない。
その結果、どんなことになったか?山本義隆氏は、次のように述べている。
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近代自然科学の法則は、周りの世界から切り離された小世界、環境との相互作用を極小にした実験室の中で人為的・強制的に創出された現象によって導き出されたものである。自然科学はこのような特殊限定空間における法則の体系であり、そのような科学に基づく技術が、生産の大規模化にむけて野放図に拡大されれば、実験室規模では無視することの許された効果や予測されなかった事態が顕在するのは避けられない。
そもそも、近代の科学技術が自然の支配と地球の収奪を目的としたものである以上、自然破壊や生態系の混乱を生み出すのは必然である。

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