2021年04月22日
閉鎖独占からの離脱~企業の持つ可能性~
前回は、育児に焦点を当てて、現状の家庭や学校の閉鎖性や独占性から離脱しなければ、人はまともに育たないし、本来の共同体社会へ移行できないことを述べた。
その意味で生産課題を担う企業はどうだろうか? 日々生産という闘争局面で社会のまともな圧力=期待をうけている全うな企業であれば人材は育つが、社会情勢として「売上」だけに終始している企業はもはや欠陥だらけとなっている。本来、企業なるものは社会の公器であり、家庭や学校などの機能を包摂した存在であるはず。市場社会での歪んだ売り上げ主義が企業の在り方も変容させてしまった。そこで働いている人々の意識も、本来は社会の役に立ちたいという思いが根底にあるはずであるが、ぶら下がり、指示待ち、展望が見えないなど負の意識が蔓延する状態に陥ってしまったようだ。
それは、自分たちの会社という意識を分断する株主、経営者、社員という欠陥をはらんだ存在にあること。そして、本来の能力ヒエラルキーとは異なが歪んだ体制と局部的な課題しか担えない役割にありそうだ。それでも貧困の時代には目標が明快であったことや、全員でその貧困に立ち向かうことで貧困に勝つという意味で活力があった。その目標が喪失した時代になって変化できない企業から力が失せてきたのである。
社会の役に立つということは個人レベルでは通用しない厳しさとともに壮大さがある。それを乗り越える意欲から生まれる人間力(追求力やまわりを充足させる力)が前提にあり、その志を実現していく組織力、戦略をもつことにつながる。その実現の延長に共同体社会が待ち受けている。
今回もそのような可能性を示す記事を紹介したい。
「企業」の意味を調べると、営利追求の組織体、と出てくる。
「会社」の意味を調べると、社会、集団、仲間といった本来の意が出てくる。会社の元となる、江戸時代に登場した商家は、商売であるがゆえに社会、集団、仲間を対象とした守るべき規範が徹底されていた。
江戸期における商人の行動原理は、正直、倹約、勤勉が強く説かれ、商業道徳(今日の「企業倫理」) とか、公儀のお達しの道守(今日の「法令遵守」) は伝統精神として極めて当たり前のこととして扱われていた。
現代の企業においても、江戸期からの商人の行動原理が埋め込まれ、それが企業文化を形成している場合が多い。そのため今日のわが国の企業社会の諸問題を検討する場合、その根源を探るために歴史をさかのぼり、ビジネスが確立した江戸期まで振り返ることは有意義なことと考える。
江戸期における商人のための教育システムは、大別すると、寺子屋教育と商業徒弟制度の二種類に分けることができる。
江戸期商人の教育的基盤としての寺子屋は知識や技能の面での役割は決して大きくなかったかも知れないが、まず商人の前に一町人として、一人間として大切な正直、礼儀、感謝、報恩、孝行心などの道徳的徳目を育む教育システムとして,大きな役割を果たしたといえる。商業徒弟制度は、雇傭制度であると同時に商人養成のための訓練システムでもあった。丁稚から手代に至る奉公人の見習い期間は,わが国独自の商人教育の期間であったといえる。
◆企業は社会の公器である
*公益を先にし,私利を後にすべし-神野家 家法*徳義は本なり財は末なり本末を忘るる勿れ-茂木家 家憲
*先義後利 -大文字屋 下村彦右衛門
*国家的観念を以て総ての事業に当れ-岩崎家 家憲
*臣民の本分を尽すを以て,平常の心掛けとせよ -三井家二代宗竺の家訓
*三方よし-売りてよし,買いてよし,世間よし -近江商人
*義勇公に奉じ堅く国法を守るべし-伊藤松坂屋 家訓
*公義はすべて堅く守るべし-小津家 家訓
◆企業本来の役割
*伝来の家業を守り決して投機事業を企つる勿れ -伊藤松坂屋 家訓*先義後利 -大文字屋 下村彦右衛門
*一時の機に投じ目前の利に趨り,危険の行為あるべからず -住友家 家則
*徳義は本なり,財は末なり,本末を忘るる勿かれ -茂木家 家憲
*売りて悦び,買いて悦ぶ -三井殊法
*真の商人は先も立ち,我も立つことを思うなり -石田梅岩
◆顧客志向の経営
*物価の高下に拘わらず善良なる物品を仕入れ誠実親切を旨とし利を貪らずして顧客に接すべし -伊藤松坂屋 家訓*我が営業は信用を重んじ,確実を旨とし,以て一家の鞏固隆盛を期す
-住友家 家則*確実なる品を廉価に販売し,自他の利益を図るべし
正札掛値なし
商品の良否は,明らかに是を顧客に告げ,一点の虚偽あるべからず
顧客の待遇を平等にし,苟も貧富貴賎に依りて差等を附すべからず
-たかしまや四つの綱領*物品購求の多少に拘わらず来客は総て当店の得意なれば大切に礼儀を尽すべし,仮令一品の購求せざるも其望みに叶うべき品物のあらざるは当店の準備至らざる所なれば却て丁寧に敬礼を尽し後後の愛顧を乞うべし -松屋呉服店 訓誡
*我が身を養わるる売先を疎末にせずして真実にすれば,十が八つは,売り先の心に合う者なり.売先の心に合うように商売に情を入れ勤めれば,渡世に何ぞ案ずること有るべき -石田梅岩
◆現代の企業にも生きている
*商いの原点は,どうしたら売れるか儲かるかではなく,どうしたら人々に心から喜んでもらえるかである.-松下幸之助*公器としての企業に求められるのは,その企業が延々と存続することではなく,現在の社会の要求にぴったり合った事業を実行することによって,今,存立を認められることだ.-十時 昌
参考:江戸時代の商家の家訓に学ぶ現代の企業経営(リンク)
大卒社員、とくに高学歴者ほど会社に入社してから、使えない><、役に立たない(でもプライドは高く、できている人の真似ができない)等という職場での▼評価が年々強まっています。
それは当たり前と言えば当たり前で、高学歴者ほど試験脳(暗記脳)に陥っている確立が高いからですし、もっと大きく言えば、現在の学校制度では、企業が欲する人材=社会(生産)を担う人材を育成できてない(それどころか、むしろ子どもの意欲をつぶす)という現実を如実に示してもいます。
どうする?
だったら、企業自ら人材育成に関わっていくしかない!
それは早ければ早い方が良いということになり、人手不足の状況も相まって、中卒採用や高卒採用に積極的な企業が今増えているんです。
また一方で、企業自らが教育機関を作ってしまえ!ということで作られた学校もあることを知りました。
2006年に誕生した、6年一貫の全寮制男子校、海陽中等教育学校。トヨタ自動車、JR東海、中部電力を中心に日本の大手企業が立ち上げに参画しています。
その設立の志に迫ってみます!
日経ビジネスの3月19日号の特集「大事なのは高校」では、社会に優れた人材を輩出する上での高校教育の重要性を、実例や科学的見地から解説した。実りある大学教育を実現するために、その前提となる自主性やコミュニケーション力など「非認知能力」を獲得しておく場として、高校に注目が集まっているからだ。 企業からも注目を集める高校は、既に何年も前から非認知能力に着目し、その育成方法を研鑽してきた学校、あるいは非認知能力を養う伝統が根付いている学校が多い。2006年に誕生した、6年一貫の海陽中等教育学校(愛知県蒲郡市)もその一つだ。トヨタ自動車、JR東海、中部電力を中心に日本の大手企業が立ち上げに参画した海陽の教育は、社会での評価を問われる巣立ちの時を迎えている。
「未来を切り開く挑戦者として、新しいトヨタの歴史を作ることが、ここに集まった皆さんの使命です。安定した会社に就職をして自分の将来は安泰などと思わないでください。」
- トヨタの新入社員代表に
昨年のトヨタ自動車の入社式。近年、自動運転車の開発や電動化など大きな環境変化を迎え、度々警句を発している豊田章男社長は、この日も新入社員に向けて発破をかけた。この入社式で豊田社長から辞令を受け取ったのが、海陽2期生で、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に進学した餅原圭吾さんだった。
海陽の卒業生は理系の大学院への進学が多いため、本格的に社会人生活が始まるのはこの春からだ。企業の注目度は高い。その誕生の過程が採用担当の目を引くからだ。
日本を牽引するリーダーは今の教育では育たない。ならば学校を作ってしまえ--。トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長、JR東海の葛西敬之名誉会長、中部電力の太田宏次元会長の3人が集まった会合でこんな結論に至ったのは、15年前のことだ。この3人の呼びかけでキャノン、パナソニック、日立製作所、日本たばこ産業など企業約80社が協力を約束。計約200億円の寄付が集まった。こうして2006年に誕生したのが海陽中等教育学校(愛知県蒲郡市)だ。
三河湾に面したリゾート施設のすぐ近く、広大な野原の中にいきなり現れる13万㎡の整地の中に、中高合わせ約650人の生徒が住む12棟の学生寮が校舎と併設されている。旧制高校では一般的だった全寮制を復活させたのが海陽の特色だ。
全寮制の海陽において、生徒の帰省は原則、長期休暇のみ。日々の買い物もほぼ敷地内の売店で済ませる。中学生に当たる1~3年生は部活への加入は義務とされている上、夜も2時間の自習時間が設けられており、自由時間は1日当たり夕食も含めて2時間程度しかない。寮にはゲームもマンガも持ち込めず、生徒は雑談や読書などで自由時間を過ごす。
その代わり、週末はバーベキューや旅行、スポーツ大会など、寮の棟ごとに各種のイベントを設け、生徒も企画役として巻き込んでいく。苦手な同級生や先輩だろうと否応無くお互いにコミュニケーションを取らなければいけない場をつくる。同時に、生徒が自主性を発揮できる分野を見つけさせる狙いだ。
こうしたイベントの仕掛け役となるのが、寮のスタッフとして協力企業から派遣されてくる若手社員。一緒に寮で寝泊まりし、生徒の兄貴分となる。生徒の生活指導を受け持つだけでなく、社会や大学での体験談を伝えたり、ホームシックの生徒が寝付くまで話し相手になったりすることもある。所属する企業の見学や職業体験の窓口にもなり、閉鎖空間に外部社会からの刺激を持ち込む存在だ。
初代の寮スタッフで、現在はJR東海の採用担当を務める藤井真彦担当課長は「人前に出るのが苦手な生徒が、週末の百人一首大会で抜群の成績を残したことで、古典の授業で頼られる存在になったことがある。その生徒は発奮してより古典の勉強に励むという好循環ができた。海陽の教育はビジネスでも通用する主体性、協調性が育ちやすい」と強調する。
若手スタッフとは別に、12棟それぞれに「ハウスマスター」と呼ばれる年長者のまとめ役がつく。教員の他に、教員資格を持つビジネスマンもおり、寮内のルール作りなどを担う。一年ごとに交代する若手スタッフとは異なり、長期間寮を監督して棟ごとの文化を醸成していく存在だ。例えば、元自衛隊員のハウスマスター、冨樫勝行さんは寮内での点呼の際、旧日本海軍で用いられていた訓戒「五省」を生徒に詠唱させている。
- 「東大卒ダメ社会人」に足りないもの
こうした特殊な教育環境がなぜ必要なのか。
海陽の中島尚正校長は約30年間、東京大学工学部で教鞭を取ってきた。その中で多くの「東大卒のダメ社会人」が生まれる様子を見てきた。「東大生の上位3分の1はどこに出しても恥ずかしくない。でも、下の3分の1は満足に他の学生や教授とコミュニケーションが取れないため、専門教育も進まない。将来が心配で仕方がない」
大学で人間教育を施そうとしても、学生はなかなか耳を傾けない。「心の成長が進む高校までに人間力を養わないと、大学での成長が限定される」(中島校長)
中島校長が着目しているのは東大生の生活実態調査における、自宅通学者の比率だ。1986年は45%、1996年は52.1%、最新の2016年調査では62.2%とジリジリ上がっている。「学生の内向き志向が強まっている。留学制度にも希望者が集まらない」。核家族化や地域の遊び場が失われたことで「多様な交流を経験し、人間力を養う環境が失われたことが背景にあるのではないか」というのが中島校長の分析だ。
自主性やコミュニケーション力、協調性、忍耐力などは今、知能指数と並んで重要な「非認知能力」として教育界で大きな注目を浴びている。東京大学社会科学研究所が2016年に発表した調査では、「忍耐力」に着目して男性の平均年収を調べると最も低いグループは371万円だったのに対し、最も高いグループは560万円だった。海陽の全寮制教育は、非認知能力の重要性に着目する産業界が考え出した、一つの方法論と言える。
「こんな閉鎖空間で本当に自主性や多様性を育めるのか」(伝統的な進学校の関係者)、「社会人と接する機会が多く、独立心が育ちやすい環境だ」(大手企業の採用担当者)。海陽の評価は今もって定まっていないが、その野心的な教育の結果に対する企業の関心は高い。卒業生が社会に巣立つ時期を迎え、その活躍に注目が集まっている。
- posted by KIDA-G at : 2021年04月22日 | コメント (0件)| トラックバック (0)
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