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2011年04月03日

母系社会における「男を強くしてきた女の願い」

カシ族の母系(母権)社会で紹介した『アジア稲作文化紀行』の著者森田勇造氏は、1964年以来、世界の諸民族の踏査を続けてきたが、次第に日本人の文化的民族的源流にひかれ、70年から中央アジアから東のアルタイ系牧畜民の諸民族、80年からは稲作文化の源流を求めて、ヒマラヤ南麓の南アジア、中国南部、東南アジアの稲作農業地帯を中心に踏査された。
そして、稲作文化発祥の地、長江下流域の江南地方や、古代の江南地方に住んでいた非漢民族系の越または楚の末裔とされる雲南や貴州省の諸民族を踏査し、稲作文化の特徴である母系的社会と祖霊信仰にたどりついた。
(写真は雲南省の棚田。こちらからお借りしました。)
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今日は、著者が20数年間の踏査をもとに考察した、母系社会における「男を強くしてきた女の願い」を紹介します。
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稲を守り育てる女
豊かな自然とともに安定した生活を営んできた稲作農耕民は、母親中心的な社会を形成し、発展させてきた。
女性は個人的にも社会的にも労働意欲が強く、稲の籾蒔き、田植え、草取り、刈り取り、脱穀、精米に至るまで、ほとんどが女の手によってきた。男は女の補助的な手伝い仕事をし、村の集会や交渉事に精を出す。
このように家事全般を担い、子どもを育てるように稲を栽培し、稲作文化を伝承してきたのは女たちであった。
まさに「原始、女性は太陽であった!」。
母親が男を強くした
動物の多くは母親を中心とする母系社会で、人間も放置すれば母系社会になりがちである。
幼少期の大半を母親とともに暮らす子どもたちは、母親からあらゆることを学ぶ。一種のすりこみ現象で、母親の生活文化が伝承されるのである。
大陸では、古代から民族や部族間の戦争が絶えなかった。とくに、遊牧民族は移動が容易なため、略奪戦争をよくしかけた。彼らは馬を足とし武器としたので戦い方が上手で、少人数で定住民族社会を蹂躙することができた。支配者となった彼らは、支配下の男性を殺戮し、現地の女を妻とした。
しかし、支配者の男がどんなに頑張っても、三代目には文化的に先祖戻りした。それは、文化の伝承者が母親である女性であったからだ。不安定な遊牧民社会の男は、動物的に弱い女を身近にとどめておき、社会的関係を守るために常に意識していなければならなかった。
稲作農耕民の定住・安定型社会では、家庭的な母親である女を中心にして小社会が営まれたので、父親である男は外に出歩いて比較的気楽な社会生活を営み、遊牧民の男よりも非戦闘的で、娯楽的なことを好む風習を身につけてきた。しかし、北方からの活力ある父系社会的刺激によって、社会の発展と継続性を願うようになり、母系的な稲作農耕民も徐々に父系社会へと移行した。
母系的な稲作農耕民の社会は、人口が増えて文明が発達し、文化が向上するに従って、母性的、近視眼的、安定的な女が中心になって維持するには荷が重すぎるようになり、社会的に弱い男を強くする必要性に迫られた。
私たちがいつの時代にも忘れてならないことは、動物としての自然の法則である。その法則による雌としての女性は男性に比べ、非活動的で保守的な行動をしがちな安定指向で、胎内に子を宿し、乳を与える機能を持っているが、雄である男性は女性に比べ、活動的で冒険的な行動をしがちな不安的指向で、子を産む肉体的機能を持っていない。
こうした女と男が、母親と父親になる過程において、大きな違いがある。
世の知恵者たちは、青年に「お前は男だ。お前は強いんだ」の論理を教えるようになった。それが母親が中心に行ってきた家庭教育における「しつけ」の一部になり、地域社会における祭りや年中行事、その他の儀式などを通じて男が中心になって行われる社会教育となり、徐々に父系社会がつくり上げられた。
定住する稲作農耕民の父系社会は、生物的に強い女性と弱い男性が、安定した社会を継続させる知恵として、社会的に強い女性が弱い男性を、家庭教育や社会教育によって、社会的、作為的に強くした、文化的な社会である。だから、男性の幼少時に倫理的教育をしないで放置すれば、男が社会的に弱くなって自動的に母親中心的社会に戻る。いつの時代も、母親の願いは、男の子をしっかりしつけて、より強い男になってもらうことであった。
女が好む信頼社会
社会は、学問的には契約社会と身分社会に区別されている。
不信社会でもある「契約社会」は、個人の立場で約束ごとによって成り立っている社会で、法律や契約、神、金銭などを介して維持される。経済的には「新しい社会」ともいわれるが、どちらかといえば遊牧民的社会のことである。
信頼社会でもある「身分社会」は親子、地位、血縁、親分・子分などによって成り立っている社会で、道徳や伝統、風習などによって維持されている。経済学的には「古い社会」ともいわれるが、どちらかといえば稲作農耕民的社会のことであり、日本は世界でももっとも発展した信頼社会であった。しかし、文明化によって不信社会へと変わりつつある。
私がこれまで37年間に訪れた世界134ヵ国の多くの人びとの理想とする社会は「信頼社会」であった。
どちらの社会がよいとは断言できないが、両方のよい点を生かす社会が理想のように思える。
母系的な稲作農耕民と父系的な牧畜民の特徴を対比すると、次のようになる。
稲作農耕民の特徴            牧畜民の特徴
①身分社会                 ①契約社会
②権力の大地の広さによる       ②権力は人の頭数による
③植物(稲)を栽培する          ③動物(家畜)を放牧する
④季節に従う生活(自然共生型)   ④季節を追う生活(自然征服型)
⑤安定的住居               ⑤移動型住居
⑥閉鎖的で戦争下手           ⑥開放的で戦争上手
⑦安定型社会(全体主義)       ⑦不安定形社会(個人主義)
⑧保守的発想               ⑧改革的発想
⑨穀物や野菜、果実をよく食べる   ⑨肉や乳製品をよく食べる
⑩発酵・漬物食品が多い        ⑩乾燥・燻製食品が多い
⑪酒、焼酎をよく飲む           ⑪発酵飲料や茶湯をよく飲む
⑫男女の区別が強い           ⑫男女の区別が弱い
⑬祖霊信仰                 ⑬精霊信仰
⑭墓地がある                ⑭墓地がない
⑮移動は徒歩又は船           ⑮移動は家畜(馬)又は車
いずれの社会的特徴も自然環境がなせる業で、長い人類史の過程の中で培われたものである。ただ、稲作農耕民は女性中心に培われ、遊牧民社会は男性中心に培われたものである。
ただし、その生活文化を守り伝えたのは、母系社会であり父系社会であれ、子どもを産み、育てた母親である女であった
とくに稲作農耕民社会では母親中心的な信頼社会が営まれ、母親は太陽のごとき存在であった。
その女である母親たちが男の子を強く育てようとしてきたのは、安定した信頼社会を願うからであった。
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miyashowさん
夜這いの民族学(赤松 啓介著)を読みましたが、夜這いという村の共同体の性の充足環境が破壊されたのは、実は、法律でも、国家からの強制でも、思想(民族学の学説柳田國男など)でもなく、西洋思想でもない、市場社会の女性の都市へ働きにでたための、村の男女の性の需給関係がアンバランスして崩壊していったとの記載があります。農村からバスガイドやデパートの女店員などに重用され、村に性の需要、供給にアンバランスが生じて、この安定的な夜這いの性充足のシステムが崩壊したことは、解体へと崩壊へと進んでいったようです。
夜這い禁止令などをいくら発布しても崩壊しなかった夜這いは、昭和初期まで残っていたようで、観念をいくら押し付けても、それ以上の引力があったのだろうと思います。女の性的商品価値が都市で上昇することで需給バランスが崩れたと考えられる事例と思われます。

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