2019年12月02日
新生児の共鳴動作⇒同期することで充足する機能⇒共認と聴覚進化
【1】「新生児の共鳴動作」
4ヶ月になる赤ん坊と遊んでいるときに、彼女と相当仲良くなってから、彼女の前で私の手のひらをゆっくり開いたり閉じたりした。すると彼女はじっと私の手に見入り、その動きに合わせて―自分の手を見ることなしに―指を開いたり閉めたりしたのであった。何回か続けるうちに、彼女は指ばかりでなく・・・・・。手のひらの動きに合わせるように彼女の口をパクパク動かしはじめ、終わりにはまるで(私の)動きで彼女の呼吸テンポまでコントロールできそうであった。私が手のひらを開閉している間に彼女はほとんどまばたきもせず、私が開閉を止めた時には夢から覚めたように一瞬ポカンとした感じであった。(共鳴動作を我が国で最初に報告した鈴木葉子氏)
このように、共鳴動作は、自分と他人が未分化なまま混淆し、融け合い、情動的に一体化したような関係でおこっている。
飢えや渇きという生理的な要求を満たす手段として子どもはこの動作をおこなっているのではない。むしろ目の前の刺激の動きに同調し一体化して自分も動くことそのものが快となり、この共鳴動作を活性化しているようである。「通じ合うことへの要求」というと言いすぎだろうか。
母親の語りかけに対する相互同期的行動にしても、共鳴動作にしても、子どもは、相手が人間だから、あるいは自分の母親だからというので反応しているわけではないのだが、その相手をしている母親の方は、子どもの反応を見ていると、「もう自分をわかって応えていてくれるのだ」という喜びの感情が湧いてくるのを禁じえない。そしてまさに「わたしがママよ」とでもいうべきはたらきかけが、さらに子どもの反応性を高めていくのであろう。
このように、共鳴動作はそれが生理的要求の満足ということから離れて、刺激と一体化すること自体に動機付けられ、人がその刺激としての役割をもっとも果しやすい点、しかも相手の人自身もその動作交換のなかに思わず引きこまれざるをえないような魅力をもっている点、そこにコミュニケーションの基盤にふさわしい性質を深く宿している行動といえるだろう。
【2】「同期することで充足する機能」
マダガスカルに棲む原猿のワオキツネザルとベローシファカは、猛禽類などに対して発する警戒音を相互に理解できるそうです。またクモザルの一種では、移動などの際に発する“ロングコール”と呼ばれる呼びかけ声が仲間一匹一匹に対して微妙に違っていて、彼らは各々それが誰に対して発せられたものかを理解できるそうです。まだ表情の乏しいこれらのサルでも、音声コミュニケーションはかなり発達していると言えそうです。
音声コミュニケーションの基盤は周波数情報の識別能力だと考えられますが、意味を持つ言語以前に、この声の表情が充足感情を規定する例はヒトでも多く見られます。例えば、誰かに襲われた個体の悲鳴は周囲の個体にとっては警戒音になるし、逆に催眠術などで安心感を与える時は低い声でゆっくり話すのが良いとされています。また、大人が乳児に話し掛ける時、無意識に声のトーンを上げるということも言われています。
これらの例も、「共認機能の基礎となっているのは共鳴(共振)機能」であることを示す一つの例かも知れませんが、おそらくこのような音声情報伝達能力は、ヒトやサル以外の動物にもある程度は備わっていると思われます(ex.母鳥はヒナ鳥の鳴声を識別できる)。
サルやヒトの共認機能は、このような緻密な周波数の識別能力を土台にして、相互の発する周波数が「同期」する時に充足回路が強く刺激される、という機能を塗り重ねたものかも知れません。とりわけ心音のビートやリズムが安心感やトランス状態を生み出しやすいのは、胎児期の記憶に繋がっていると同時に、自らの体にも心臓の鼓動として常にそのリズムを持っているからではないでしょうか。さらに、この同期充足回路を視覚情報の処理機能と結びつけることで、僅かな目や顔の動き、身振りから豊かに相手の感情を読み取ることも可能になったのではないでしょうか。
【3】「共認と聴覚進化」
霊長類の聴覚感度について、興味深い研究があります。
原猿では低音から高音(16kHz辺り)に向かって一定の感度上昇を示すのに対して、真猿になると、中低音(1kHz辺り)にピークを示し、中高音(4kHz辺り)では逆に感度が低下することがわかっています。また、原猿では32kHz程度の高周波にも高い感度を持っているのに対して、真猿になると感度が下がり、チンパンジーなどは上限が20kHz程度、つまりヒトと同程度となります。
ヒトの発声音は80Hzから1,100Hzです。サルの発声音を(詳細は不明ですが体格差を考えればヒトより高くなるはずです)仮に150Hz~1,500Hz程度とすると、聴感度のピークとほぼ一致することになります。
自然界のあらゆる音を対象にするならば、周波数によって感度に差を付ける必要は無いはず(聴覚の構造から生ずる機能差を除く)です。原猿が一定した聴覚感度曲線を示すことから、真猿になってはじめて、同類が発する音声に細心の注意を向け、それを聞いたみんなの共認を羅針盤とするようになった、ということではないかと考えられます。(中高音や高周波に感度低下が見られますが、これは中低音の感度を上げるため犠牲にしたのでしょう。)
それから、真猿の高周波に対する感度低下について。原猿にとっては、同類他者のオスが発する音(例えば移動に伴って起こる葉のさざめき等(=高周波))を真っ先に捉える必要があったと考えられます。ところが真猿は中低音の感度を上げるために高周波の感度を下げている。つまり、直接外敵を認識することよりも、仲間の声を認識することが優先されている。真猿にとっては、共認こそが収束すべき最先端機能であったということでしょう。
ちなみにヒトの場合は、一定した特性を示す原猿とも、中低音にピークを持つチンパンジーとも異なり、500Hzから4kHzまでは他の真猿と比べるとフラットな特性を持っている。したがって人類は、声に含まれる倍音(高調波成分)を豊かに捉えることができ、より微妙なニュアンスを聞き分られるようになっています。
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2019年12月02日
真猿の進化史年表(定説)
現在の定説となっているサルの進化史年表を掲げる。
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6500万年 生物の大量絶滅。恐竜絶滅。隕石落下で環境激変。寒冷化
原始霊長類の出現。モグラに似た哺乳類が樹上生活に適応
約5500万年前に現れたアダピス類が初期の霊長類
プルガトリウス、カルポレステス、プレシアダピス。
夜行性。鉤爪、親指の発達(対向指へ)。昆虫、果実食
従来は北米起源説
中国湖南省で最古霊長類の頭骨化石、アジア起源浮上
5500万年 温暖化。海底火山、マグマ熱でメタンハイドレート爆発
広葉樹、高緯度まで、樹冠=サルの楽園。原始原猿拡散、繁殖
ショショニアス:正面に並んだ目→立体視が可能
原始霊長類より原猿類と真猿類と分岐
4500万年 インド、ユーラシア大陸衝突、ヒマラヤ形成、テチス海消滅
4000万年 南極大陸で氷河の形成がはじまり、徐々に寒冷化。
高緯度地域の樹林が消え、サルはアフリカ、一部南アジアへ
カトピテクス:高い視力(眼窩後壁→視細胞集中→明瞭映像)
真猿下目の狭鼻下目(旧世界猿)と広鼻下目(新世界猿)分岐
3000万年 赤緑色盲に退化した哺乳類のうち狭鼻下目が3色型色覚再獲得。
(ビタミンCを豊富に含む色鮮やかな果実等の獲得と生存に有利)
狭鼻下目のヒト上科がオナガザル上科から分岐
ヒト上科=テナガザル、オランウータン、チンパンジー、ゴリラ、ヒト共通祖先
2500万年 アルプス・ヒマラヤ地帯などで山脈の形成がはじまる。
最古の類人猿と思われる化石(アフリカ、ケニヤ)
1500万年 急速な寒冷化
ヒト科とテナガザル科が分岐
ヒト亜科とオランウータン亜科が分岐
ヨーロッパ、南・東アジアなどユーラシア各地に類人猿化石
1000万年 アフリカ大地溝帯の形成が始まる(人類誕生に大きな影響か)
700万年 気温が下がり始める
最古人類化石は中央アフリカ、サヘラントロプス・チャデンシス
600万年 ヒト族とゴリラ族が分岐
500万年 ヒト亜族とチンパンジー亜族が分岐
猿人の出現。最初の人類とされる。
(華奢型猿人、アウストラロピテクスなど)
チンパンジーほどの大きさで、足の指の形から二足歩行の可能性
脳容積500 ml。一定の道具使用
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真猿の進化(系統分化)は以下のような軌跡を辿っている。
京都大学霊長類研究所「霊長類の進化とその系統樹」
【1】オモミス類(原猿)からメガネザル系統と初期真猿(の祖先)が分化
【2】4000~4500万年前真猿登場
【3】その後広鼻猿類(新世界ザル)と狭鼻猿類が分化。3500万年前?
狭鼻猿類がアフリカ大陸からアメリカ大陸に渡ったのは約2500年前と言われており(最古の化石がそれ)、当時はアフリカとアメリカ大陸は既に分離しており約500kmしか距離がなかったとはいえ、島伝いに奇跡的に渡った模様。おそらく狭鼻猿類に追われたものと考えられる。
【4】狭鼻猿類が旧世界ザルとホミノイド(類人猿含むテナガザル系)に分化(約2500~3000万年前)
その後旧世界ザルは尾長ザル系とコロブス系に分化
【5】ホミノイド(原テナガザル)から類人猿分化(1000~1500万年前)
以上が真猿の進化史の大きな流れとされている。
これらの過程では概ね進化するにつれて、大型化する傾向が見られる。(例えば新世界ザル<尾長ザル<テナガザル系<チンパンジー)
この過程は、南方の樹上という特権的世界を独占したサル類は、主要な敵が異種のサルとなったと考えられる。
そして、大型の新たな種が登場する度に、従来の種がその場を追われ、(もしくは淘汰され)追われた種は新天地を求めて、新たな環境に適応するという過程を辿ったのではないか。
また大型化のベクトルは種間の闘争のみならず、サルの集団内の序列闘争(ボス争い)でも有利に働く=より大型の血統が多く残るので進化と大型化の相関関係により拍車をかけた。
加えて原猿から追うとこの進化過程は単体→オスメス同棲の単雄複雌集団→複雄複雌の集団という過程である。つまり種間の闘争に勝ち残るために、概ね大型化と、集団化⇒知能の発達と言う二つのベクトルで発達してきた。
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2019年12月02日
分子系統学によって塗り替えられた人類の起源2~チンパンジー起源説が絶対化
●1980年代以降、分子系統学による霊長類分岐が全盛となる。
1981年、ヨーロッパ人の一個体でヒトのミトコンドリアDNA全塩基配列が報告される。
1987年、5地域147人のミトコンドリアDNAを調べて、ミトコンドリア・イブ仮説。
1995年、国立遺伝学研究所の宝来聡らが、類人猿4種(チンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータン)のミトコンドリアDNAの全塩基配列を解読。ヒトを合わせた5種のミトコンドリアDNAの塩基配列を比較して、チンパンジーがヒトと最も近縁であると結論づけた。
★宝来聡らの実験方法は次の通り。
5本のミトコンドリアDNAについて、一つの遺伝子を指定する配列の始まりと終わりを揃える。ミトコンドリアDNAの37種類の遺伝子のうち、タンパク質を指定する13種類の遺伝子では5本の配列は整列できたが、残りのtRNA遺伝子やrRNA遺伝子には、塩基に欠失や挿入により配列の長さが異なるので、調整した(どう調整したかは不明)。その上で、5本の配列間の塩基置換数(変異数)をコンピュータでカウント。
非同義変異数:RNA遺伝子変異数比が5種ともほぼ同じなので、分子変異速度は一定であるとして、非同義変異数とRNA遺伝子変異数を元に遺伝距離(相対距離)を計算している。オランウータンが分岐した絶対年代を1300万年前として、残り4種の分岐年代を推定。ゴリラ656±26万年前、ヒトとチンパンジーの分岐年代を487±23万年前とする系統樹を作成した。
※タンパク質を指定するDNAの塩基配列において、アミノ酸を変えない塩基置換(変異)を同義置換、アミノ酸を変化させる置換(変異)を非同義置換という。ヒト・類人猿5種では、圧倒的に同義置換が多いが、同義置換数ではオランウータンと他の4種との間で大差がない(あまり変異していない)。オランウータンの同義置換数を補正しても使えないので、分子変異速度一定に都合のよい非同義変異数RNA遺伝子変異数を使って、遺伝距離を推定している。
2001年、ヒトゲノムの配列発表。2005年、チンパンジーのゲノム配列発表。
(チンパンジー以外の類人猿の全ゲノムの解読は未了2009年段階)
2006年、ヒト・チンパンジー・ゴリラの252の遺伝子座(染色体やゲノムにおける遺伝子の位置)の比較では、ヒトとチンパンジーが近縁であることを示すのが110個(44%)、ヒトとゴリラが近縁であることを示すのが45個(18%)、チンパンジーとゴリラが近縁であることを示すのが38個(15%)、系統関係がはっきりしないのが59個(23%)で、ヒトとチンパンジー近縁を示すのは半分もない。ところが、このような事は、種分化が短期間に連続して生じ、かつ集団の個体数が大きい場合には一定の確率で生じることが理論的に示されているらしい。
※ヒトとチンパンジーのゲノム配列を比較すると1.23%の違いとされているが、この数値は相同なゲノム領域を比較した時の数値であって、一方の種には見つかる領域が他方にはないというように、構造の違いも指摘されている。
※ヒトはチンパンジーと分岐したというのが定説化したものの、その化石は発見されていない。
チンパンジーやゴリラ・ヒトの共通祖先の有力候補とされるのが、ヨーロッパで多数発見されているドリオピテクス(1200~900万年前)であるが、異論もあって未確定。実際、ドリオピテクスの化石にはヒトとオランウータンの特徴も入り混じっているらしい。また、現生人類とオランウータンの間で共通する形態的・生理的特徴が多いので、ヒトはチンパンジーやゴリラよりもオランウータンに近い主張する学者が未だに存在する。
また、分子系統学が前提とするのが分子時計の仮定「分子の変異速度が一定」であるが、種によって分子変異速度は異なっておりること、実際、分子時計による分岐年代と古生物学的な推定年代とが大幅に食い違っていることがいくつも報告されている。
「分子時計による分岐年代決定法の矛盾点」
「生物は外圧適応態であり、急激に外圧が変化すれば変異スピードは著しく早くなる。実際、カンブリア大爆発や哺乳類の適応放散をはじめとして、急速に進化する事例は生物史には無数にある。また、紫外線による破損やコピーミスをはじめとしてDNAの突然変異は日常的に起こっているが、それは修復酵素によって修復されている。その修復度合いも種によって異なっており、分子の変異速度が一定になるはずがないのである。」
【参考】
『新しい霊長類学』京都大学霊長類研究所 講談社ブルーバックス
『ヒトはどのようにしてつくられたか』山極寿一 岩波書店
『シリーズ進化学5 ヒトの進化』斎藤成也 岩波書店
『DNA人類進化学』宝来聡 岩波科学ライブラリー
『DNAに刻まれたヒトの歴史』長谷川正美 岩波書店
『アナザー人類興亡史』金子隆一 技術評論社
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2019年12月02日
分子系統学によって塗り替えられた人類の起源1~アジア起源説→アフリカ起源説へ
人類は、500万年前、チンパンジーとの共通祖先から分岐したというのが定説になっているが、その定説はどのような根拠で成立したのか?
1960年以前は化石を元にしたアジア起源説だったのが、次第に、分子時計を前提とした分子系統学によってアフリカ起源説に塗り替わっていったらしい。
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●1932年、インドのシワリク高原でラマピテクスの上顎・下顎と歯の化石(1400~800万年前)。歯列や犬歯・臼歯の形や質が類人猿よりも人類に似ていたので、60年代にはラマピテクスが人類の直系祖先とされるようになった。人類はラマピテクス以前に分岐したとされ、当時の人類学の教科書では、類人猿とヒトの分岐は4000~3000万年前と書かれていた。
●1960年代に分子系統学による種間距離の測定が始まる。
グッドマンは、抗原抗体反応の大きさを使って霊長類種間の免疫学的距離を推定した。
ヒトの血清タンパク質をウサギに注射すると、ウサギはヒト血清タンパク質に対する抗体をつくる。その抗体を含むウサギの血清(抗ヒトタンパク質血清)をヒトやサルの血清と混ぜる。ヒトの血清とは強く抗原抗体反応を起こし沈殿物が多く出る。チンパンジーやゴリラの血清との反応よりも、オランウータンの血清との反応は明らかに弱かった。反応が強いほど、ヒトの血清タンパク質とアミノ酸配列が似ていると考えて、グッドマンはオランウータンよりもチンパンジー・ゴリラの方がヒトに近いと結論づけた。
1967年、サリッチとウィルソンは免疫抗体法で推定したヒトや類人猿の免疫学的距離に分子時計の考え方を導入して、分岐年代を推定した。
ヒト・チンパンジー・オナガザルの血清アルブミン抗体をつくり、ヒトや類人猿、オナガザルの血清と反応させ、ヒト・チンパンジー・ゴリラ・ウランウータン・テナガザルの免疫学的距離を推定、ヒトはオランウータンよりもチンパンジー・ゴリラに近縁であると結論づけた。
さらに、種間の免疫学的距離の常用対数が2種の分岐年代に比例すると仮定して相対的な分岐年代を推定。オナガザルと類人猿が分岐した絶対年代を化石記録から3000万年前と固定。そこから計算してチンパンジー・ゴリラとヒトが分岐したのを500万年前と推定した。
●分子生物学者と化石学者(1400万年前のラマピテクス説)との間で論争が始まるが、次第に分子系統学派が優勢になってゆく。
例えば、1970年代には、雑種DNA形成法による遺伝的距離の測定が始まる。
比較する動物の二本鎖DNAをほぐして一本鎖にし、混ぜ合わすと二種のDNAが組み合わさった雑種DNAができる。二種の動物のDNAでは塩基配列が少しずつ違うので、雑種DNAでは、元のDNAのような結合対は組めなくなり、熱的に不安定になる。熱安定性の低下の度合いを図ることで、DNA塩基が異なっている割合を推定する。これが雑種DNA形成法。
1977年、サリッチとクローニンは、免疫学的距離と雑種DNA形成法による遺伝的距離を測り、オランウータンが分かれたのが1100~900万年前、ヒト・チンパンジー・ゴリラが分かれたのが500~400万年と結論づけた。
1978年、パキスタンのポトワール高原でシヴァピテクスと呼ばれる類人猿の顔面と頭蓋片の化石が発見された。化石形状からシヴァピテクスがオランウータンの祖先とされると同時に、ラマピテクスもシヴァピテクスのメスであり、オランウータンの祖先と看做されるようになる。1980年代以降、人類のアジア起源説は廃れ、500万年前アフリカ起源説が学界の定説となった。
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【参考】
『新しい霊長類学』京都大学霊長類研究所 講談社ブルーバックス
『ヒトはどのようにしてつくられたか』山極寿一 岩波書店
『シリーズ進化学5 ヒトの進化』斎藤成也 岩波書店
『DNA人類進化学』宝来聡 岩波科学ライブラリー
『DNAに刻まれたヒトの歴史』長谷川正美 岩波書店
『アナザー人類興亡史』金子隆一 技術評論社
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