2007年06月05日
日本婚姻史6 妻問婚の番外編
日本婚姻史5 妻問婚~大和時代~で、妻問婚が、有力共同体が弱小共同体を征服するのに活用された、つまり「記・紀」「風土記」等にみられる大国主、景行、ヤマトタケル、応神等の国作り物語は妻問い説話でもある、と書きましたが、少し詳しく紹介します。番外編として、高群逸枝が『日本婚姻史』の10年前に書いた『母系制の研究』(1953年)より抜粋します。
●本論序章「一夫多妻制」
古代の一夫多妻(妻問婚)は、後代のそれとは全く類を異にした母家単位の現象としてはじめて正しく理解さるべきものである。大国主命の婚姻形態を後代の一夫多妻と同様に見て古代女権の卑小を論ずるが、事実はむしろ反対であって、同命を取巻くいわゆる妻妾群は後代のごとき無能力な存在ではない。いずれも一国一氏の女君であり女長であることは、高志の渟川比賣にせよ、因幡の八上比賣にせよ、其他出雲風土記、播磨風土記等に見ゆる諸姫が、その土地々々の名を負う貴族であり、女神である例を見れば肯けるのである。古代の一夫多妻(妻問婚)はかくのごとき女君達、一国一地方の領主達との結合であるところに意味があるのであって、これによってはじめて国作り工作が成就するのである。
我国の上代に国家組織の条件としてこの方策が活用され、軍事を以てする征服戦は、むしろ副次的な補助工作であったことは注意すべきである。これは如何なる原因に由来するかといえば、四面環海の小島国であるため、民族の緊密が保たれ易く、従って殺伐な流血戦に依頼するよりも、婚交和協の方策が、より希望された故と見るべきであろうが、これを可能ならしめたものは、当時未だ我国の婚姻及び相続が、母系制的のものを原則的に保存していたゆえと断じ得る。
即ち嫁入婚にあらず、婿入婚であった一般の婚姻制、延いて父系の胤(たね)は分散し、母系によって一族の相続が実行されるという当時の成俗が、かかる政策を可能ならしめたものであるが、ここに重要な問題は、そうした実状にあって、しかも一方の父系観念が芽生えていたということである。
例えば、大国主命が九州より北越に至る広汎域にわたってその土地々々の女君と婚し、その女君達の族中に181人の子を分散的に産み落とし、その子達がその族々を相続するとして、そこへ父系観念が芽生えていたとすれば、その181人の子は各所属の族を率いたままで、大国主命の裔(えい:子孫)を称し、出雲神族の支脈として相結束するであろう。
これに反して後代における一夫多妻の如く、一夫の許に無能力な多妻群を集合せしめて、181人の子を産み落としたとしても、何等国作りの意味は成立たない。古代の一夫多妻主義即ち国作り工作は、実際の族制が母系であって、意識的に父系が芽生えていたという状態の社会にのみ可能である。我国上代の社会は実にそれであって、ために、国家の統一が却って円滑に行われた。景行天皇の70余皇子の如き、各地方々々の有力な族中にその族の氏名財産勢力等の一切を相続し給うた儘で国家統制の支柱となられた。日本武尊、四道将軍等、異族征服の場合にも常例として、この方策が併せ行われたことをみるのである。
●結論第1章「国作り氏作り部作り」 第1節 言向け
わが国には征服の語に相当する古語がない。征服、征伐、征平等の文字を古語では、コトムケ、コトムケヤハス、ヤハスなどと訓んでいる。コトムケは言向けであり、ヤハスは和す(ヤハス)である。それは他を征服するのに説得や宣伝が本旨とされた、もしくは少なくともそうした言挙げ(名目)が必要とされたことを示す証拠とならないだろうか。
血縁原理の社会は排他的だと考えていたが、むしろその逆で、血縁時代では、不思議なことに血縁感は却って漠然としており、全ての人間を同祖から出たものと信ずる傾向さえある。人間のみでなく、山川草木鳥獣の類をさえ同胞視する。この血縁原理の感情をもとにして族制がかためられ、氏族から氏族連合にまで発展したときには、これが宗教的教義とさえなり、征伐行為にまで利用されてくるのではなかろうか。
一種宗教的言向け的な立場から生れた治平の方策は、主要な二種の実践を伴った。その一はコトムケの宣撫主義(占領地などで占領軍の方針をよく知らせて人心を安定させること)であり、その二は結婚による彼我系統の同化であったのである。
――――――――――(以上、『母系制の研究』より)――――――――――
本源集団(母系集団)が破壊されずに国が統一されたのは、妻問婚と同胞意識(同一視→助け合いと友好関係を重視)に拠ったからで、世界的にも非常に希で興味深いところですね。
読んでもらってありがとう(^_^) by岡
次回は、いよいよムコトリのはじまりです。お楽しみに
- posted by okatti at : 2007年06月05日 | コメント (3件)| トラックバック (0)
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comments
いいですねぇ~\(^-^)/
少し関連記事探しにくいなぁって思ってました。
ますますこれからが楽しみになってきました。
個人的にはcategories、もうちょうっと右上にあったらいいなぁって思っています。(^ ^;)ゞ
楽しみにしてもらってありがとうございます。
これによってテーマや地域ごとの記事が一覧化でき、論点などが把握しやすくなると思います。追求を深める方向に使っていただければありがたいです。
categoriesの位置については、『注目投稿一覧』も捨てがたいので悩みますね。皆さんの意見も聞いてみたいところです。
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