2007年11月09日
メキシコの母系制社会 女の町フチタン1
現代のメキシコに母系制社会の町フチタンが存在します。フチタンは人口10万にも満たない小さい町で、メキシコ南部オアハカ州の太平洋岸にあります(右図 旅の印象より)。
「マチスモ(男性優位)」の父系制の国メキシコの真ん中で、しかも地理的にも、世界経済上でも要所となる地方で、女性中心のサブシステンス志向の社会が保たれていることは、全くの驚きです。
サブシステンス生産とは、一般には直接に生存のために必要なあらゆる行為をさす。食料の調達、自家消費のための農地の耕作、買い物、料理などの家事労働、子供や老人の世話などで、第三世界の人々にとっては、彼らの再生産の最も重要な構成要素である。この使用価値に応じた生産は、無賃労働で自家需要のために行われる。
地方経済が国際金融経済と商品経済に統合されてしまっても、フチタンでは彼らの世界観を共有することによって、市場とお金をサブシステンス志向の形にすることができたのである。一体何故、このような母系制社会が保たれたのでしょうか?
まずフチタンの社会と、東アジアやインドネシア、オセアニアの母系制社会に共通する特徴を挙げておきます。
①農業社会で、一定のサイクルでくり返される季節の祭りが特徴で、祭りは何日も続き、非常に多くの人々が集まる。
②気前のよさと相互の助け合い。これにより経済的不平等の格差が是正され、階級の分化が阻止される。
③母系が血筋を決め、子供たちは母の家(母系の場)に住む。相続は主として同性同士の間でなされ、母から娘へ、父から息子に、となる。一般に家を相続するのは末娘である。
④商売をするのは女性である。
メキシコの経済危機・貧困化とフチタンの暮らしの良さ
現在世界は市場化され、発展途上国においてはますます貧困層が増加し、飢えが増大している。借款による金融政策は、第三世界の国々の借財を増加させ、自然破壊は恐ろしい勢いで進行している。メキシコも例外ではなく、北米自由貿易協定NAFTA(1994年発効)は、米国と同じ生活水準を保証するものではなく、逆に失業や貧困が急速に進んでいる。
農民社会固有の共同体意識に支えられていたメキシコも、市場社会の個人主義的傾向が進みつつあり都市化が進んでいる(1990年には人口の73%が都市居住)。
1982年からメキシコの国民経済は深刻な経済上、財政上の危機状態にある。実質賃金の低下、年100~150%のインフレ、ペソの交換レートの暴落、1982年はわずか0.5%の成長率というGDPの停滞。そしてブラジルに次ぐ第二の多額債務を負っている。
ところが、国の危機状態とは対照的に、フチタンの人々はその影響を受けることなく、他の似たような場所に比べてどこよりも良い暮らしをしている。
<ウルズラ・オスヴァルトの栄養学の研究報告から>
メキシコ全体 フチタン
▼1/4強の2400万人の栄養状態が悪い ◎全く問題ない
▼新生児の平均体重2750グラム(1990年) ◎3200~3405グラム(1989年)
▼5歳以下の40.2%が栄養状態良好 ◎70.5%が栄養状態良好
25%が軽い低栄養状態 16%が軽い低栄養状態
19%が中程度 6%が中程度か重度の低栄養状態
16%が重度の低栄養状態 (平均栄養状態は米国より良い)
※研究報告は、食事、社会的地位、連帯、食物の日常的交換に高い意味を与える社会では、危機状況を克服できるとしている。
フチタンの母系制社会が経済危機・貧困化をどうやって防いだのか?
1.地域的な市場が存在する (写真はフチタンの花市 旅の印象より)
食糧供給は地域の資源を基にして行われる。生産→取引→消費の間に独自の商品流通が生れ、この枠内ではお金はどちらかと言えば貯蓄されにくい。ここではみんなが生計を立てることができ、食糧についての貧困はおこらない。
その上、手工業製品の売買によって地域市場が確保されている。それは郷土の知識と技能を尊重することから生れるもので、刺繍がびっしり施された女性の民族衣装や金細工の装飾品、ハンモックや画像や郷土の音楽や詩がある。
2.地域的流通は民族的アイデンティティーによって支えられている
フチタンの人々の目指すところは、貯蓄によって他人よりものし上がることではない。気前のよさで手に入れる社会的な名声こそ重要である。気前のよさとは、おいしい食べ物と飲み物を供応すること、音楽や祭りの装飾品を用意することを意味する。毎日どこかで腹一杯食べることのできる祭りがあるから、誰もここでは飢えることなんかないよと、フチタンでは言う。
3.民族文化は血縁的・地域的な帰属を基にした相互の助け合いによって支えられている
気前のよさと名声によって動かされる経済は、同時に互恵主義の経済である。フチタンでは、経済の改善を唱える尊大さは嫌われ社会的に孤立してしまう。相互の助け合いは、社会階層の形成を完全に妨げはしないが、階級差を避けることはできる。フチタンでは誰も飢えたり、低栄養状態でもないという事実は、フチタン市の所属しているオアハカ州の先住民族が置かれている状況と比べるなら、いくら高く評価しても評価しすぎということはない。
出典:ヴェロニカ・ベンホルト=トムゼン編『メキシコの母系制社会 女の町フチタン』
いかがですか?驚きの母系制社会でしょう! 次回は、闘うことで守った社会であることをレポートします。
読んでもらってありがとう(^_^)。応援よろしく♪ by岡
- posted by okatti at : 2007年11月09日 | コメント (5件)| トラックバック (0)
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comments
現代では、『女性にも社会にでて働く権利が有る』などといいます。
しかし、昔の女性は立派に社会参加していて、その働きに添う形で、婚姻が制定されていたと言うのは、驚きですね。
女性の社会参加とか、専業主婦とか、恋愛相手探しとか、何だか、ずいぶんと遠回りをしているような気がします。
欧米化した現代文化よりも、日本の昔の文化を参考にこれからの社会の形を考える方が良いのではと思ってしまいました。
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