2007年08月02日
【図解】交叉婚って何?(3)::スキンネームの謎に迫る
交叉婚って何?(2)に続き、今回はアポリジニの交叉婚を追求してみたいと思います。
オーストラリアの先住民を総称してアポリジニといいますが、その語源はラテン語で「はじめから」の意味を持つ「アブ」と「オリジン」が合わさってできています。
『アポリジニの(半族→クラン→スキンネーム)』でも取上げられていますが、アポリジニの交叉婚を理解する上で重要なキーワードは“半族”です。半族という概念と交叉婚の仕組みを『世界観の人類学』(蛭川立氏)を参考に、図解化を試みながら考察してみたいと思います。
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■ オーストラリア先住民 Australia Aborigines は、6~3万年前にインドネシア・ニューギニア方面から移住してきたと考えられている。もっと新しい時代に移動してきたパプア(ニューギニア)系、ヘスペロネシア(インドネシア)系の民族とはまったく別系統で、ずっと古い歴史を持っている。
■ 同じ大陸でも、北部は熱帯雨林地帯、中部は砂漠地帯、南部の海岸地帯は温帯林が広がっていて、自然環境は変化に富んでいるが、そこに暮らす多くの部族の世界観は類似しており、象徴的二元論にもとづく半族 moiety が社会生活と精神文化の基本を構成している。神話(英語でdreamtimeと表現される)によれば、世界の始まりの混沌とした状態から、象徴的な分類体系(親族構造ならば半族)が分化してきたとされる。
■ 地域によっては父系半族×母系半族の4クラス体系や、さらに2分割された8クラス体系を持つ社会もある。半族の原理が何重にも重なって4個や8個のクラスに分かれていく親族構造は、地球上でもオーストラリア先住民だけが飛びぬけて高度に発達させてきたものである。(観念としては漢民族の易やコンピュータサイエンスの基本にある二進法とおなじ構造をもつ。)物質文化や社会の階層化という点では一見、原始的に見える人々が、このような数学的な親族構造を高度に発達させてきたことは驚きに値する。
●双分制社会
ある部族社会が、互いに通婚し合う2つ(あるいは2群)の氏族集団で構成される場合、その社会を「双分制」といい、各々の氏族集団を「半族」といいます。(「双分制」はオーストラリア以外にも、インドネシア,ニューギニア,ミクロネシア,メラネシアの諸島,イースター島,中央アメリカ,メキシコ,北アメリカ原住民などの一部に見られます。)
最も基本的な双分制(半族)の仕組みを図解にすると以下のようになります。(=は婚姻関係、単線は親子関係を示します。)図解から、婚姻相手が交叉イトコであることが解ります。
●四分制社会(≒カリエラ型)
上記の双分制社会で規模拡大→分割の必要が生じた時、通婚し合う半族の仕組みを維持したまま各半族を2分割し、婚姻の相手を決める規範として考えられたのが“スキンネーム”による“婚姻クラス分け”です。(簡単にいえば婚姻する相手を決めるためのグループ分けであり、各グループに名前を付けたのがスキンネームです。)
スキンネームは、日本でいえば苗字に近い概念ですが、特筆すべきは親世代と子世代で別々の婚姻クラス(スキンネーム)に所属し、孫世代になると親世代(孫からみれば祖父母世代)の婚姻クラスに戻ります。これによって親世代との婚姻をタブーにしています。
四分制社会の仕組みを立体図解にすると以下のようになります。下記の図解では、居住規則(母系or父系)には触れず、スキンネームの系譜のみを表しています。(大文字は男、小文字は女のスキンネームを示しています。)複雑な構成ですが、やはり婚姻相手は交叉イトコになっています。
L・H・モルガンが『古代社会』で言及した“カミラロイ族”は母系社会、レヴィー・ストロースが『親族の基本構造』で追求した“カリエラ族”は父系社会ですが、いずれも上記の四分制社会になっています。母系・父系を問わず、通婚し合う半族の仕組みを保持しているのは、ドリームタイムと呼ばれるアポリジニの神話世界(世界観であると同時に、行動指針や婚姻規範でもある)の影響が大きいようです。(ドリームタイムに詳しい方の返信をお待ちしています。)
読んでくれてありがとう。
今後も、交叉婚図解シリーズは継続していきたいと思います。(by マツヒデ)
- posted by matuhide at : 2007年08月02日 | コメント (4件)| トラックバック (0)
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