2011年01月04日
現在、世界の婚姻形態は、どう成っているのでしょう?Vol.7 ~イスラーム・アラブ編~
過去の世界の婚姻様式シリーズでは、欧米諸国について調べてきましたが、今回はイスラーム(主にイスラーム・アラブ)の婚姻様式について調べてみます。
イスラーム・アラブの婚姻で、皆さんの頭に浮かぶイメージは、一夫多妻制度ではないでしょうか。 🙄
その他には、女性はベールをかぶって人前で肌を露出させないことや男女隔離、男尊女卑で女性の地位は低く見られている。等々
男尊女卑や女性の地位については、本ブログの「イスラムの女性観~女性は母である~」
で紹介されていますが、学校教育やメディアを通じて植え付けられたイメージとは違って、女性をすごく尊重する社会であるように思われます。
では婚姻様式や結婚、離婚等はどのようになっているのか書いていきます。
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■結婚
イスラームは『商人の宗教』と揶揄されるように婚姻制度についても、コーランとムハンマドの言行録などを法源として、13世紀に完成したイスラム法で「結婚は当事者双方の意思に基づく契約によって成立する」とされています。
契約式には双方から証人が出席し、男性からの結納金の額や結婚後の居住条件などが書き込まれた契約書を取り交わす。結納金はマハルとよばれ、契約の際に、結婚時と離婚時に男性が支払う額が取り決められる。現実社会においては地域差もあるが、マハルは、原則として妻個人に支払われるものであり妻の財産となる。離婚時のマハルは、結婚時のマハルよりも多いのが通常であり、マハルが支払えないために結婚または離婚できない男性も少なくない。
夫婦は別産制であり、女性のほうが男性より収入が多い場合でも、家族の生活は男性が保障する。これは男性の宗教的義務とされているので、妻を養ってやる、あるいは夫に扶養されている、といった意識はこの社会には存在しない。こういった状況のなかで実際に一夫多妻の生活を送っている者の数は、非常に限られている。
(イランという国でより抜粋引用)
互いにどれだけ有利な条件で結婚契約を結ぶことができるかが重要であり、また女性は主婦として家政を行うための存在であり、子供を育てる存在です。契約が履行できなければ契約を解消しておしまいという、かなりドライなものであります。
男性は結婚に際して花嫁とその家族にいくらを支払うか、離婚の際には女性にいくら支払うか、全て契約書に書かれます。ここに精神的なものは含まれません。
極端に言えば、女性は自分の血統を残し、家庭の中を整えるための存在であり、そのために自分に何の文句もつけず仕え、子供を養育してくれれば十分なのです。女性の側としても、自分の生活が保障されることが一番重要と考えます。
(イランという国でより抜粋引用)
■婚姻様式(一夫多妻)
制度としては一夫多妻を認めていますがマハルのこともあり、実際誰もが実践できる訳ではありません。またイスラム教は一夫多妻を認めていますが、推奨している訳ではないようです。何らの規制なしに行われていた一夫多妻に条件を付けて、むしろ一夫多妻を制限したと思われます。
ちなみに、マホメットは10人以上の妻があり、同時に9人と結婚していたそうですが、これは預言者としての特例だそうです。
イスラムの一夫多妻の制度は、コーランの記述に基づいています。コーラン第四章(婦人章)第3節には、
「あなたがたがもし孤児に対し、公正にしてやれそうにもないならば、あなたがたがよいと思う2人、3人または4人の女を娶れ」
という章句があります。原文の直訳なので意味を取るのは難しいのですが、この章句は4人まで妻を持てる根拠になっています。
しかし、イスラム教徒だからと言って、誰でもが簡単に4人の妻を持てるわけではありません。先の章句には、
「だが公平にしてやれそうにもないならば、只1人だけ(娶るか)、またはあなたがたの右手が所有する者(奴隷の女)で我慢しておきなさい。このことは不公正を避けるため、もっとも公正である」
という続きがあり、2人以上の妻を持った場合には、生活費や小遣い、プレゼントなどは均等に配分しなければならないと決められています。シャリーアでは、妻子を養うことは夫の義務ですが、妻には家庭に対する金銭的・物質的な義務はなく、自分の財産も自由に使えるとされています。このように決められているため、それなりの金持ちでないと、複数の妻を持つことは難しいのです。
公平に扱わなければならないというのは、物質的な事柄だけではなく、それぞれに割く時間も均等に配分しなければならず、愛情の示し方さえもあまり不公平であってはいけないとされています。これはなかなかできるものではありません。1人の奥さんを相手することさえ大変なのに、もし4人もの奥さんに公平に接するとすれば、その大変さは容易に想像がつくでしょう。実際には普通のイスラム教徒は一夫一妻であることが多く、一夫多妻しているのは一部の人々で、王族や大金持ちなどの富裕層が中心であるようです。日本でもかつては一夫一妻制とは決められておらず、側室や妾を持つことができましたが、支配階級には後宮や大奥が存在したものの、当時も庶民の多くは一夫一妻だったのに似ています。
複数(2人~4人)の妻の間には、序列はありません。たとえばテレビでおなじみのデヴィ夫人はインドネシアの故スカルノ大統領の第三夫人ですが、このように第一夫人・第二夫人・第三夫人・第四夫人とあれば、第一夫人が偉く、順番に下がっていくように捉えられることも多いのですが、便宜的に結婚した順番を表しているだけで、序列はありません。結婚した以上、公平平等に扱わなければならないからです。生まれてくる子供も、第一夫人の子どもだからと言って偉いわけではなく、遺産も平等に分けられます。
ところで、イスラム教は一夫多妻を認めてはいますが、決して推奨しているわけではありません。最初に紹介した章句ができたのは、歴史的事情によるものであるようです。イスラム教が成立した7世紀前半のアラビア半島は騒乱が続いていて、戦死者が多く、その寡婦(未亡人)や孤児(遺児)をどう処遇するかが大きな社会問題となっていたためだと言われています。それだけではなく、それまでは何らの規制なしに一夫多妻が行なわれていたのを、妻にできるのは4人までとし、しかもそれぞれを公平に扱うことという条件をつけて、むしろ一夫多妻を制限したものだと考えられています。
(国際結婚WEBより抜粋引用)
■結婚式
少なくとも成人のイスラム教徒2人の立会いのもとで、本人が誓いを述べれば結婚が成立します。イスラム教には聖職者が存在しませんし、キリスト教などのように結婚に際して必要な役職者はありません。結婚式をモスクで挙げなければならないということもないようです。国や地域によって異なりますが、普通は双方の親族や友人が出席し、イスラム法をよく知った長老格の人の司会で新郎が誓いを述べ、契約内容を確認し、本人、両家の父親、証人が契約書に署名して、婚姻が成立します。アクド・ニカー(婚姻契約)には法的拘束力が認められています。披露宴は行わなくてもいいのですが、結婚を社会的に認知してもらう必要もあり、披露宴を行うことが一般的です。国によっては、この他に法律で役所に婚姻届を提出することと決められている国もあります。
(国際結婚WEBより抜粋引用)
■離婚
日本では協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚と4種類の方法があります。
キリスト教では離婚はタブーで、実際カトリックでは離婚と自殺と中絶は認められていないのは有名な話ですが、イスラム教では離婚は認められています。
イスラム教では、離婚は認められています。イスラム教徒が離婚する場合にも、いくつかの方法があります。以下にイスラム教の離婚の基本的な部分を概説しますが、ただし、シャリーア(イスラム法)は共通ですが、イスラム教の国でも各国にはそれぞれの法があり、それらによって離婚の方法にも多少の違いがありますので、以下はあくまでイスラム教の離婚についてのおおまかな話であることをお断りしておきます。
▼タラーク(talaq)
イスラム教の離婚で一番有名なのがタラークという方法です。タラークは直訳すれば離婚です。タラークの方法は夫が妻にタラークと宣言するだけです。夫が妻に「タラーク(離婚する)」と言えば、それだけで離婚が成立します。離婚の方法としてのタラークは、通常の離婚とは区別するために、離婚宣言と訳されることもあります。
このタラークは面白いシステムになっていて、1回タラークと宣言するだけでは完全には離婚は成立しないとされています。というのは、この方法での離婚は簡単すぎて、夫婦喧嘩などすればつい口走ってしまうこともあり、これだけで離婚を認めてしまうのは問題があるからです。そういうわけで、タラークは3回宣言して初めて正式な離婚となります。2回目までのタラークは撤回でき、その間は冷却期間(イッダ)とされています。もし直ちに離婚したい場合は、「タラーク、タラーク、タラーク」と3回続けて宣言すれば、冷却期間を経ることなく完全に離婚することができるという規定もあります。
タラークはイスラム教の離婚方法では一番多く、離婚の7~8割がタラークであるという調査もあります(ちなみに日本の場合は9割が協議離婚です)。タラークは夫から一方的に離婚する方法なので、イスラムの女性蔑視という批判をする際の根拠の一つになっています。しかし、一方的に離婚できると言っても、結婚時のアクド・ニカー(婚姻契約)で決めておいた約束は守らなければならず、離婚の際には契約に従ってマフル(婚資)の残りを慰謝料や財産分与として支払わなければなりません。
▼フルウ(khulu’)
タラークは夫からの離婚ですが、妻からも離婚することは可能で、フルウ(あるいはクル)と言います。この場合は、すでに妻側が夫側から貰っているマフル(婚資)相当額を返還する必要があります。
▼タリーク(ta’lik, taklik)
タリークも妻からの離婚です。夫がアクド・ニカー(婚姻契約)で定めた条件(生活費やその他)に違反した場合に離婚を申し出ることができます。
▼ファスフ(fasakh)
夫が失踪(悪意の遺棄)したり、扶養義務を怠ったり、DV、精神疾患などで結婚を続けられなかったりする場合に、シャリアコート(イスラム法裁判所)に訴えて、離婚することができます。
▼リアーン(li’an)
妻が浮気した場合の離婚方法です。妻が浮気した場合に、夫がシャリアコート(イスラム法裁判所)に訴えて、浮気が証明されれば離婚が成立します。浮気した妻を頭だけ出して地中に埋め、死ぬまで石を投げる刑罰が以前は行なわれていたそうです(現在行なわれている地域があるかどうかはわかりません)。
▼ズィハール(zihal)
シャリーア(イスラム法)では禁止されていますが、イスラム教以前はズィハールという離婚方法があったそうです。これは「お前の背中は、私の母の背中だ」と宣言する方法で、意味はよく分からないのですが、夫がこのように宣言すると、妻は妻としての権利は失って、しかも夫のもとから去ることもできなかったそうです。イスラム教になってからもズィハールを行なう者もいたそうですが、禁止を破ってズィハールを宣言してしまった場合、2ヶ月間斎戒(断食など)したり、貧者に食事を施したりしなければならなかったそうです。
(国際結婚WEBより抜粋引用)
■一時婚
フランスなどに見られる事実婚のようなものがないのか、探していたら一時婚なるものがあるということが分かりました。
かねてから、シーア派では正当な契約結婚以外に、男女の同意のもと、期間限定で関係を持つ「一時婚」が存在している。“ムトア(=快楽の意)”と呼ばれるこの一時婚を、スンニ派は否定していたが、社会の変化とともにサウジアラビアのスンニ派イスラム法学者団体が、イスラムに反しないと数年前に正式に認めた。スンニ派ではこの一時婚を“ミシヤール”と呼ぶが、サウジではその目的ごとに面白いネーミングのミシヤールが次々と誕生している。
男女どちらかが子供を欲しい場合に、赤ちゃんを授かるまでの「出産婚」。
夏休みなど休暇期間限定の「バカンス婚」。
生活費や結納金などの経済的負担を男性に要求しない「愛人婚」。
男性が長期出張で滞在する間だけの「出張婚」。
サウジ女性は身内の男性同伴者と一緒でないと海外に行けないため、
女性が男性にお金を支払ってお願いする旅行目的の「付き添い婚」(肉体関係はなし)
海外留学のための「留学婚」。
年老いた男性の世話をするための「介護婚」。
こうした動きに、「解釈を乱用している」というもっともな非難の声も上がっているが、一時婚のバリエーションはいまも増加中。多くの男性がミシヤールで結ばれているという。
(サウジアラビアで増えている「出産婚」や「バカンス婚」って何? 厳格なイスラム国サウジに起きている新たな社会現象より引用)
■結婚率、離婚率
このようなイスラームの結婚率、離婚率はどうなっているのかというと、
総務省統計局の世界の統計より、意外と高い結婚率、低い離婚率となっているのである。
婚姻率について表から、タジキスタン、イラン、ヨルダン、アゼルバイジャン、カザフスタンとイスラム教の国が上位を占めている。
逆にこれまで見てきたキリスト教の国々の婚姻率は低下、あるいはアメリカのように結婚・離婚を繰り返すと行った傾向が見られ、キリスト教による一対婚規範は崩壊しているように思える。
イスラームにおける婚姻(契約関係)は、女性を守るように規範化されており、自由の名の下にお互いの権利だけを主張しあう社会と比べて集団性が残存している。
イスラム教の9割を占める主流のスンニ派が、シーア派では存在していた一時婚を認めるようになったことは、集団性の解体に向かったように思えてならない。
集団の中で「性をどうする?」という課題は、過去を振り返っても集団の根幹をなす問題であり、間違えば集団を破壊する非常に重要なのだ。
- posted by mtup at : 2011年01月04日 | コメント (1件)| トラックバック (0)
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