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2019年08月25日

【定説】脊椎動物の進化史年表(補)~どのようにして海から陸へ適応したか

「生物はどのようにして海から陸へ適応したか」今井 正自治医科大学名誉教授より転載。

1.生き物の上陸作戦
原初の地球では生き物は深海で棲息していた。これは太陽から放射される電磁波や紫外線などの障害を避けるためであった。やがて、地球が磁気に取り巻かれるようになって地球に到達する電磁波が弱まり、また、藻類などから発生した酸素によって地球の周囲にオゾン層が形成されると、地球に達する紫外線も弱まり、生き物は比較的浅い海水中でも生息できるようになった。
大部分が海で覆われていた地球上に、地殻変動によっていくつかの大陸ができた。およそ 5 億年前、最初に上陸に成功したのは藻類を起源とする植物であった。地上での植物の繁栄によって、それまで無機物の塊であった地上に有機物が堆積された。蒸発した水蒸気は雨となり降り注ぎ、川となって地上に堆積した有機物を河口へと運ぶ。かくして、河口付近の海(汽水域)は生き物にとって豊かな栄養を含む環境となった。
生きもの上陸作戦

5~4 億年前に、植物に次いで上陸に成功したのは昆虫であった。昆虫が、水中での呼吸から陸上での空気呼吸に適応するのは、比較的容易であった。それは、水中での呼吸に使っていた気門に空気を通すだけで充分だったからである。上陸した昆虫は付属肢を脚や翅に変えて、生息地域を拡大させながら、数多くの種を生み出し、繁栄していった。現在、昆虫の種類は 5,000 万種以上あるといわれており、地球上で最も繁栄している生き物と言えるかもしれない。
およそ 5 億年前に出現した魚類は、オーム貝などの頭足類による補食におびえながらも、ひれや筋肉を発達させて、優れた遊泳力を身につけ生きのびていた。栄養豊かな汽水域で繁栄した魚類は、やがて淡水にも適応するようになって、川を遡上した。脊椎動物が初めて上陸に成功するのは、4~3.7 億年前の両生類の出現による。

2.脊椎動物の上陸戦略
脊椎動物は、海水から淡水を経て上陸するが、この適応には多くの困難が待ち受けていた。これには、偶然の変異と環境への適応という長い進化の過程が必要だった。
海から陸への環境の変化に対する適応には、①圧力、②呼吸、③浸透圧の変化に対して、いかに対処するかが重要である。

2-1 圧力の変化
脊椎動物としての魚類は、甲殻類と異なり外骨格に代わって内骨格を持つようになった。外骨格によって体を水圧や気圧から守るのは、力学的にある程度の限界がある。
甲殻類や昆虫が巨大になれないのはこのためである。魚類は、軟骨魚から硬骨魚へと骨格の強度を高めてゆく。内骨格が重要なのは、圧力に抗して体を支える働きに加え、骨の組成としてリン酸カルシウムを体内に蓄えることができることにある。リンやカルシウムはいろいろな生理機能に重要であり、これらの摂取が不足した場合には、貯蔵した骨から供給することができる。
上陸に伴い、体にかかる大きな力は重力である。このためには、四肢の発達を含め骨格の発達が重要である。魚類では骨の代謝調節にカルシトニン、ビタミン D が働いていたが、上陸に伴い副甲状腺ホルモン PTH が新たに加わった。

2-2 呼吸の適応
魚類は鰓から水中に溶けている酸素を摂取して呼吸をしている。上陸の準備段階として食道の一部から肺の原基が生じるが、これを浮き袋として発達させている魚もいる。
両生類では皮膚と肺の両方から酸素を取り込んでいる。肺呼吸が主体となるのは爬虫類以後である。

2-3 浸透圧の変化
魚類が海水から淡水に移るためには、大きな浸透圧の格差に適応する必要がある。海水では濃い NaCl 濃度のために、体内に Na+ が流入し、浸透圧によって水が奪われる。淡水では逆に Na+ が体外に流出し、浸透圧によって水が体内に蓄積する危険性にさらされる。このような変化に適応するために、鰓が大きな働きをしている。すなわち、海水中では鰓の Na+ ポンプは Na+ を外へ汲み出しているが、淡水ではポンプが逆転して Na+ を体内に汲み入れるように働く。これに加えて、淡水では腎臓で希釈尿を排泄することによって、体内に貯まる水を体外に排泄する仕組みが発達する。

3.内部環境の恒常性
生体内で細胞が正常な機能を営むためには、それを取り巻く細胞外液の組成が常に一定に保たれていなければならない。実験生理学の祖と言われるクロード・ベルナール(1813-1878)はこれを内部環境と呼び、それが一定に保たれる仕組みが発達したことによって、陸上生活が可能になったとしている。
細胞内液と外液はいずれも 300 mOsm/kg 程度の浸透圧であるが、イオン組成は全く異なっている。すなわち、細胞外液は NaCl が大部分を占めるのに対して、細胞内液は K+ とリンが主要なイオンである。細胞内液は細胞外液と浸透圧は等しいが、前者がカリウムの濃度が高いのに対して、後者はナトリウム濃度が高い。細胞外液の組成と量が一定に保たれることが、細胞の機能を維持する上で必須である。これには、口からの摂取と腎臓、肺、汗腺からのロスとのバランスが保たれる必要がある。
このような組成の違いは細胞膜にある Na+-K+ ポンプによって Na+ が細胞外に汲みだされ、K+ が細胞内に取り込まれることによる。興味あることに、細胞外液の組成は海水をおよそ 4 倍に希釈した組成に近似している。このことから、太古の海は細胞外液程度に薄かったのではないかとの推測もあるが、これには確たる根拠はない。
腎臓は単に老廃物を排泄するだけではなく、排泄する水や電解質の量を調節することによって、内部環境の恒常性を保つために重要な働きをしている。

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