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2010年03月10日

人類の進化 6 ネアンデルタール人は「野蛮」だったか? 人類の生活をどう復元するか

 前回の記事では、「ヒトはいつから言葉を話し始めたのか」について扱いました。直接証拠が残らない人類の生活をどう復元する?という課題に対しては、一つ一つ分かっている事実を積み重ねて論理整合性を取っていくという作業が必要です。
今回は、「ネアンデルタール人は野蛮だったか?」という彼らの生活ぶりについて考えてみたいと思います。


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少し古い投稿になりますが『るいネット(リンク)』より紹介します

 何万年もの過去に、人類がどのように生活をしていたかを、推測するにはどうすればいいのか?
このことを、ネアンデルタール人を例に考えてみたいと思います。
ネアンデルタール人は、約13万年前~3万年前にかけてヨーロッパや中東の各地にすんでいたとされる旧人の一種です。
この時代、地球は氷河期の真っ只中で、極寒の気候と狩猟生活とにより、筋肉隆々のずんぐりとした体型であったといわれています。
今までネアンデルタール人ら旧人は、そのまま新人へと進化していったといわれていたのですが、最近では、ネアンデルタール人を絶滅していった人種とみなす見方も出てきました。
理由は、ネアンデルタール人の容姿などがあまりにも現生人類とは異なり原始的だから、また、ネアンデルタール人はクロマニヨン人の出現とともに姿を消したことから、より高度な文明をもった新人によって、旧人が滅ぼされたという説もあります。

■■「野蛮でのろまな」人間?
ネアンデルタール人が最初に発掘されたのは1866年、ドイツのネアンデルタールの谷です。
その後、フランスのラ・シャペローサンという洞窟からかなり完全な骨格が発見され、それを最初に調べたフランスのブールの結論はネアンデルタール人というのは洞穴の中に住んでいる非常に現代人と違った野蛮なのろまな人間である、というものでした。
のろまというのは、膝の曲がり加減であるとか首もちょっと曲がって前のほうに傾いているとか、その他もいろんなことを挙げています。
(こういう根拠は間違いであったと現在は全部否定されています。)
しかし、このようにブールが初めにネアンデルタール人が現代人と系統の異なる野蛮な人類であると発表したもんですから、それがいろいろな進化論に反対するような一般に利用されたのです。
ネアンデルタール人が現代に子孫を残さずに絶滅したという考えは、いまだに世界中の学会に残っています。

 ナショナルジオグラフィック によれば、現代人とネアンデルタール人のゲノムは99.5%一致しているとのことです。これは30億ものDNA塩基対のうちの、0.03%の解析結果に過ぎませんが、99.5%の一致と言うのはかなり近い値です。(チンパンジーとヒトは98.5%の一致)

少し前までネアンデルタール人の姿と言えばこんな感じでしたが…

最近ではこんな復元図もあります。寒冷地対応で、色白の赤毛碧眼だったという設定。

■■多様な石器類
しかし、いろいろな発見されてきた科学的な証拠を突き合わせますと、そういう考えは根本的に間違いであると思います。
ネアンデルタール人の石器は中期旧石器という石器の考古学的な編年の一部に相当します。
この特徴は何かといいますと、前期旧石器のほうは非常に大型のものを主体としたコア=ツールという、石を余分なところを打ち欠いて芯のところを使うのが主ですが、中期旧石器になると剥がした部分、これをフレイク、薄片といいますが、この薄片をまたさまざまに工夫していろんな二次的な加工を縁に施す、多種多様の石器が非常に発達してきます。
これはネアンデルタールの時代の文化のレベルを表していて、生活が非常に多様化したということと結びついて考えられるのです。
中期旧石器とその後のクロマニョンなどの新人の持っていた後期旧石器文化というものは当初は全く急激に入れ替わったという見方がされていて、それがブールのネアンデルタールが絶滅したという考えに結びついているのですが、こういう石器をヨーロッパで研究している先史学の大家であるボルドーはその後の詳細な調査の結果、中期旧石器と後期旧石器は連続していると明確に述べています。
それでネアンデルタール人が絶滅したという根拠はなくなっていると考えられるのです。

■■言葉を話せたか?
アメリカのリーバーマンは、舌と口腔からなる発生器官で喉頭から咽頭にいたる空間的スペースがネアンデルタール人では足りない。
だからこういう人類は現代人並みの巧みな発音は不可能であると言っています。
しかし、彼の復元図には、(意図的かわかりせんが)欠陥があります。普通、骨の間にあるべき、椎間板が描かれていないのです。椎間板を加えれば、人間らしい言語を発声するに十分な可能なスペースがあるのです。また、ネアンデルタール人の脳の容積は現代人とほとんど変わりません。
決定的な証拠としてはネアンデルタール人の舌骨が発見されたということです。舌骨というのは、下顎の後ろの下の方にあって、たくさんのところと筋肉で結び付けられていて、いろいろな筋肉が言語を使用するときに役に立つ機能を持っているのですが、イスラエルのケパラという旧人の遺跡から、今まで知られていなかったネアンデルタール人の舌骨が極めて優秀な保存状態で発見されたのです。
いくら人類に近いゴリラ・チンパンジーのような類人猿であっても、人間の舌骨の形と全く違うのですが、ネアンデルタール人の舌骨は現代人のものとよく似ています。
こういうことからみてネアンデルタール人が現代人にほぼ近いほどの繊細な言語を操っていたということが想像できるわけです。

 このほかにも、遺伝子的には言語能力はあったというデータもあります。これまでの研究によると、ネアンデルタール人のDNAと現生人類との間では、FOXP2と呼ばれる“言語遺伝子”の同じバージョンが共有おり、この遺伝子は言語能力の発達に関与しているため、ネアンデルタール人は会話が可能だったということも考えられるというものです。(リンク

■■多人数による共同狩猟
もう一つは彼らの遺跡から出てくる、彼らが狩猟をして食べたという動物です。
旧人の段階になりますと、彼らが狩猟をして食べた動物の種類が変わってきます。彼らが一番たくさん取っているのはシカとかカモシカで、このようなものは原人段階ではあまり出てきません。
シカやカモシカはご存知のように草食動物で極めて警戒心の強い逃げ足の速い動物で、小人数の狩猟ではなかなか捕まえることができません。ところがネアンデルタール人はこのような動物を大量に捕まえて食料にしていたのです。
これは彼らの狩猟活動というのが相当多人数の共同活動で出来上がっていたということの間接的な証拠になると思います。

■■死者に花を捧げていた
イラクに、シャニダール遺跡というネアンデルタール人の遺跡があるのですが、ここで遺体のまわりの土を花粉分析にかけたところ、これが全部きれいな花の咲く種類の花粉でした。
植物の花粉というのはまわりの殻が非常に化学的に安定で長時間残るのですが、それを顕微鏡で見ますとその植物の種類まで判定することが出来るのです。それらの植物は今でもあの辺り一帯には見ることができますが、遺体のあった遺跡の周辺の土には花粉はない、七種類ぐらいのきれいな花の咲く種の花粉ばかりが遺体の周りに集中していることがわかったのです。
これはネアンデルタール人が遺体を埋葬したと同時に、その葬儀に当たって遺体にきれいな花をささげたということの何よりの証拠です。つまり、死者を悼む生命観とこまやかな美的感覚を持っていたことを示しています。

■■高度な集団生活
シャニダールには萎縮してしまって片手の先がない人がいましたが、その人は40歳ぐらいの年齢で死んでいることがわかりました。
片手がないということは日常生活が非常に不便で、特に当時の採集狩猟文化の中では食料を得る上でまともに働くことの出来ない個体がいたことを示しています。
これは男性ですが、この人が当時としては長寿のほうである40まで生きるということが可能であったということは、そのような身体障害があってまともな生活能力のない人間でも、周りの人間に支えられて生きていたということを強力に物語っているのです。
こういったことからも、ネアンデルタールの社会の成り立ちというものを推察することが出来るのです。
ようするに旧人の段階にいたって人類は、きわめて人間らしい生活の水準に達していたことがわかるのです。
遠い時代でも、いろんな生活の痕跡から見て、ネアンデルタール人が、今日からみて、十分人間らしい状態に達していたということが結論づけられる、というわけです。

参考資料:佐倉 朔 「死の認識と葬儀の発生 」

 
現生人類とネアンデルタール人が共通の祖先から枝分かれしたのは、遺伝子の違いから約37万年前だと言われています。出土した遺跡や骨格などから類推される事象を積み上げていくと、当時の人類とそれほど大きな文明の隔たりは無かったのではないかと思われます。したがって、彼らが滅びたのは現生人類との単純な種間闘争ではなかったことも類推できます。
また、DNA解析の結果から、ネアンデルタール人に現生人類との混血の証拠は見られない(リンク)ようですが、これには異論もあるようです。
ネアンデルタール人と現生人類(クロマニヨン人)の交配の有無については、お互いの生息域が重なっていたのがヨーロッパ地方のみであることから、事実の追求にバイアスがかかっているとの話も聞きます。と言うのも、『交配の事実』=『ヨーロッパ人(白人)はネアンデルタール人との混血種』となり、万物の長たる白人には耐え難いことだからです。このような優性思想は過去に『ピルトタウン人事件リンク(人類発祥の地はイギリスである)』と言う捏造事件も生み出してしまいました。
何事も、「全ての固定観念を捨てて事実の追求に向う姿勢」が大切です。次回はシリーズ最終回と言うことで、「人類の拡散と絶滅」 について追求します。

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度々のコメント、お許しください。
非常に共感できる内容です。
大学の自治が憲法で許されているにも関わらず、大学教授たちは企業や国から研究費を得るのに躍起です。学生も同様で、研究目的と題してこの研究がどれだけお金になるのかを書かされます。この現象は工学部だから当然許容すべきであるのかもしれません。しかし、研究者が金をもらえる研究しかしないのであれば、営利企業となんの違いがあるのでしょう。勉学をせずに卒業大学のネームバリューのみを利用する「大卒」にもほとほとあきれますが、倫理よりお金をとる「識者」のほうがよっぽど有害でしょう。このブログをたくさんの識者がよんでくれますように。

  • mina
  • 2014年2月19日 03:42
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