2006年10月23日
霊長類のメイト・アウトとインセスト回避
「近親相姦のタブー」はどうして出来たの? に続いて。
人類の先祖は、少人数で孤立した集団だったので、近親同士を含む性交をくり返し、奇跡的に生き延びてきた。
レヴィ=ストロースは、人類に普遍的なのはインセスト(近親相姦)のタブーではなく、インセストだと述べている。人類の婚姻は基本的にはすべてインセストだが、社会によって異なるやり方でタブーを規範化しているに過ぎない。
ところで人間以外の霊長類でも、インセスト(近親相姦)はめったに起こらない現象らしい。
ただ、インセストの回避とメイト・アウト(思春期に達したオスやメスが自分の生まれ育った集団を離脱したり、加入した集団を再び離脱すること)という、異なる動機に基づいた行動があり、メイト・アウトが結果的にインセストを回避することに貢献していると考えられている。逆のインセスト回避がメイト・アウトを促進する例は少ない。
以下、『インセスト回避がもたらす社会関係』山極寿一氏より
●メイト・アウトは何故起こるか
オスのメイト・アウトは、成長するにつれて集団内の他のオスとの間で交尾相手のメスをめぐる競合が高まったり(=性闘争)、集団外により多くの繁殖相手を求めようとすることが、主たる原因と考えられている。
メスの発情期間は限られており、妊娠中や育児中のメスは発情しないことが多い。このため交尾可能なメスの数はいつも不足気味で、オス間の交尾相手をめぐる競合が起きやすい。
メスが集団を離れるのは、繁殖相手を集団外に求めるためと考えられている。
チンパンジーは、保護能力の高いオスを選んだり、見知らぬオスに惹かれるという傾向が指摘されている。
ペアで縄張りを構えるテナガザルは母と娘、姉妹の間で交尾相手をめぐる競合を高め、娘たちは性成熟を迎える前に母親の元を離れることが多い。
単雌複雄の集団構成をもつ南米のタマリンやマーモセットは、メス間の交尾相手をめぐる激しい競合がある。最優位のメスしか交尾できず、他のメスは去勢されたようになって発情も抑制されてしまう。そこで集団を出てオスを探すことになる。
●近親間の交尾回避はどのようにして起こるか
両生類、鳥類、齧歯類(ゲッシルイ:ネズミの仲間)では、形、声、臭いを手がかりに生まれながらにして近親者を識別できることが知られている。ところが霊長類では生まれつき近親者を識別する能力が欠落している。どうやら、霊長類では生れ落ちてからの社会的経験が交尾回避を引き起こしているらしい。
マカクやヒヒの仲間は母系的な集団をつくる種が多く、ふつうはメイト・アウトによって母と息子が交尾する機会は減じられている。しかし、例えオスが思春期以降に生まれ育った集団に残っていても、母と息子は交尾しない。
京都嵐山のニホンザルは、母系的な血縁関係の三親等(叔母と甥の関係)以内の近親者間ではめったに交尾が起こらない。
ほとんどの種では、母親を同じくする兄弟姉妹間には交尾は起こらない。父系的な血縁でも父と娘(アヌビスヒヒ、ゴリラ)、兄弟姉妹間(タマリン、マーモセット)には交尾が起こりにくい。
オスと子供の間でも、オスが幼児を熱心に世話するような種では、メスの幼児が性成熟に達したとき、このオスとは交尾しないことが分かってきた。
南米に生息する小型の霊長類タマリン、マーモセットの仲間は、子供が生まれた直後からオスが引き取って積極的に世話をする。これらオスたちは、自分が育てたメスの子供たちとは交尾関係を結ばない。
ゴリラもアヌビスヒヒ、バーバリマカクなども、子供の世話をする場合は、その子供との間では交尾回避が起こる。
交尾回避の条件は、実際の血縁関係ではなく(もともとオスの場合はその子供が血縁関係にあるかどうか不明な場合が多い)、生後に作られる持続的な親和関係だということになる。
(注)チンパンジーに関しては、るいネット『チンパンジーの娘移籍に関する仮説』が鋭いです。
木から落ちたサル=始原人類は、まともに生きてゆけない極限的な生存外圧に晒され、サル時代の性闘争→自我も、メイト・アウトや交尾回避といった行動様式も一切封鎖した。
1万5000年前頃、弓矢の発明によってようやく一般動物並みの生存外圧まで低下し、集団規模が拡大していった。そして「集団の分化と統合をどうする?」の中からインセスト・タブーが生み出された。
アメリカ原住民の対偶婚で紹介したモルガンは、インセスト(近親相姦)が次第に親子や兄弟姉妹間で禁止されることによって氏族が成立したと考えた。
レヴィ=ストロースは、家族を女の交換を通して成立する互酬性の問題として捉え、インセスト・タブーが自然から文化への移行をしるす規範と見なした。
読んでもらってありがとう(^_^) by岡
- posted by okatti at : 2006年10月23日 | コメント (1件)| トラックバック (0)
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