2006年10月29日
トロブリアント諸島(ニューギニア)の母系社会
近代人類学の祖といわれるブロニスラフ・マリノフスキー(Bronislaw Malinowsky, 1884-1942)が調査した、ニューギニア西北海上のトロブリアント諸島の母系社会の様子を紹介します
以下、大阪市立大学のインターネット講座『世界の民族』より抜粋。
【性肯定社会と母系制】
●性肯定の社会
トロブリアント諸島では、性について、きわめて規制がないとマリノフスキーは報告しています。子供たちは、性について隠されることはなく、大人の性行動を観察し、性の話を聞いて育ちます 女性の性行為は、初潮が始まる前からおこなわれるそうです。子供たちがある程度大きくなると、若者たちは独身の男子と独身の女子の宿という形で、特別な建物で共同生活を営みます これは若い恋人が1、2時間ひそやかな情事を結ぶ隠れ場所ともなります
●上位集中型の婚姻形態
トロブリアント社会は、性交渉への干渉が少ないにもかかわらず、若者は結婚を望みます。それは、結婚することによって、未婚者の「若者」から既婚者の「成人」へ身分が変わるからです また、妻の兄弟からヤム芋の贈り物を受け取る権利が付与されます。一夫多妻は、身分の高い人、あるいは呪術師に許される特権です。首長である職位からは、特に収入を得ることはありませんが、複数の妻をもつ特権によって、富が首長に集中するのです
●生殖観念と母系社会
さらに結婚への具体的な動機として、女性が未婚で子供を生むことは、この社会でも好ましいと思われていないからです。マリノフスキーは、未婚の女性が自由な性交渉をしても妊娠が少ないのは、セックスの過多が妊娠をしにくくしているのではないかと憶測しています。これほどまで、性に対して規制がないのは、彼らが、性交は生殖に結びつかないと考えていたからです。トロブリアントの生殖観念は、母方の女性祖先の精霊「バロマ」が、海を漂い、水浴びをする女性の子宮に入って妊娠すると考えられていました ですから、子供の誕生に、夫は無縁なのです。しかし、子供が生まれると、夫は子供を保護し、可愛がらなければなりませんでした。つまり父親は、子供を愛し愛される友達であるが、親族とは認められぬよそ者でしかありませんでした 😥 そして「同じ身体である」親族は、母親だけしか認められませんでした。
●婚姻規範(族内婚のタブー)
トロブリアント諸島では、男女の性交渉について、かなり自由ではありますが、母系原理から、厳格なタブーが存在します それは、同じ母系氏族の女性とは性交渉、結婚は厳格に禁止されているのです。最高のタブーは、実の兄弟と姉妹の関係です。母系社会では、兄弟が姉妹の保護者です。姉妹は、兄弟が近づくとき、腰をかがめて姿勢を低くせねばならず、家族の長とみなして、兄弟の命令に服従します。兄弟と姉妹は一緒に暮らしながら、個人的な親しい交際もせず、個人的なことは絶えず秘密にして、顔を眺めあうことさえも許されず、意見を交換してもいけません 😡
また、トロブリアント諸島の親族呼称で面白いのが、母系氏族の女性を「タブ」といいます。これは、まさに性関係を禁じられたカテゴリーの女性を指す言葉であり、これが「タブー」として西洋社会に広まったのです。
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母系社会の、性に対する肯定性と厳格な婚姻規範の両面が伺える内容だと云えます。“タブー”という言葉の語源が、婚姻規範に由来していることを初めて知りました。
by:まつひで
- posted by postgre at : 2006年10月29日 | コメント (3件)| トラックバック (0)
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