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2008年01月06日

インド南西部ナーヤル・カースト~婚姻様式とカースト制度

インド南西部ケーララ地方のドラヴィダ系ナーヤル・カーストにおいて、18世紀にみられた「タラヴァード」と呼ばれる母系集団を紹介します。
タラヴァードには、「ターリ儀礼」「サンバンダム(妻問い婚)」と呼ばれる二つの婚姻様式が並存していました。これらの婚姻制度はカースト制度という身分制度と密接に繋がった婚姻様式です。
●カースト制度(ウィキペディアより

ヒンドゥー教にまつわる身分制度である。紀元前13世紀頃に、アーリア人のインド支配に伴い、バラモン教の一部として作られた。カースト制度によって定められる個々の身分もカーストという。カースト制度は基本的にはバラモン・クシャトリア・ヴァイシャ・シュードラの4つの身分(ヴァルナ)に分けられているが、その中で更に細かく分類されている。
カーストという単語はもとポルトガル語で「血統」を表す語「カスタ」(casta)である。 そこからインドにおける種々の社会集団の構造を表す言葉になった。インド以外の身分制度もカーストの名で紹介されることがある。
カースト間の移動は認められておらず、カーストは親から子へと受け継がれる。結婚も同じカースト内で行われる。

ウィキペディアでも書かれているように、教科書では「結婚も同じカースト内で行われる」と習いましたが、タラヴァードの「ターリ儀礼」「サンバンダム(妻問い婚)」は、異なるカースト集団間での婚姻様式のようです。
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以下、参考:『文化人類学のレッスン』(奥野克己・花渕馨也共編)
当時、タラヴァードは、兄弟姉妹と姉妹の子どもたちから成り立ち、ナーヤルの人びとはこの集団に生まれ育ち生活していた。つまり、タラヴァードは生産と生殖、そして社会化(教育)機能を合わせ持っていた。ところが、タラヴァードには私たちの考える夫婦の関係は存在しなかった。母親はいるのだが、父親、つまり母親の夫という地位がなかった。それでは、いったいどのようにこの集団の女性は、子どもを妊娠し出産することができたのか。
この集団でも婚姻は行われていた。結婚式は「ターリ儀礼」と呼ばれ、10年に一度開かれていた。対象は初潮前の少女たちであった。選ばれた男性が少女の首にターリというひもをかけ、二人きりで3日間過ごすが、この間に性交渉のあるなしは問われなかった。
ターリ結びの儀礼は周辺の他の地域では結婚式に当たるという。結婚式の相手は夫といえるが、彼はタラヴァードの一員とならなかった。3日間過ごした後、夫の男性はターリのひもを引きちぎるが、これは他の地域で離婚に当たる行為であり、二人が再び会うことはなかったという。
ダーリ結びの儀礼の後、女性は複数の男性と性関係を持つことができた。この関係は「いっしょにいる」という意味を持つ「サンバンダム」と呼ばれた。サンバンダムの男性は年に3回、女性に贈り物を贈らなくてはならないが、この関係は必ずしも永続するとは限らなかった。女性が妊娠すると、サンバンダムの男性は女性と助産婦に贈り物をすることによって、妊娠に関わったことを公に認めた。
それでは子どもの父親はいったい誰であろう。私たちの感覚からすると、妊娠に関わったことを認めた男性であるように思える。ところが、彼は「リーダー」を意味する「アチャン」と呼ばれただけで、その男性が子どもになんらかの責任を持つことはなかった。じつは、父親といいえる男性はターリ結び儀礼の相手であり、彼は「父」を意味する「アッパン」と呼ばれた。アッパンが死ねば妻とその子どもは喪に服するが、アチャンの場合は喪に服すことはなかった。



18世紀ごろのナーヤル人の婚姻様式は、儀礼としての位置づけが大きい「ターリ儀礼」と、実質的な婚姻関係である「サンバンダム」(妻問い婚)とが並存する婚姻様式です。
教科書では「結婚は同じカースト内で行われる」と習いましたが、「ターリ儀礼」「サンバンダム」は他のカースト集団との間で行われていたようです。(それらの婚姻様式が、私たち社会での婚姻様式と異なっているため、教科書では「結婚は同じカースト内」と教えているのでしょうか?)
「サンバダン」はブラーミン(バラモン)の中でも最高位にあるとされたナンブーディリ・ブラーミンとの間での婚姻です。父系・父方居住のナンブーディリ・ブラーミンでは同一カースト内の正式な婚姻は長子にしか認めず、次男以下の男性はナーヤルの女性との間で妻問い婚の関係を結んでいたといわれています。
ブラーミン(バラモン)にとっては資産の細分化を防ぎ、また家統の「純血」性を保持しながら全ての子弟の婚姻を可能にすることができ、一方、ナーヤルにとっては、より上位にあるとされたブラーミンの血筋を家系内に取り込み威信を高めることができるという、どちらの集団にとっても利点があったのだと思われます。
ナーヤルの婚姻様式は、カースト制度という身分制度を前提として、「自母系集団の維持」という側面と、「他のカースト集団との連携」という側面から作られた婚姻様式といえそうです。
都市化・貨幣経済の浸透、戦士カーストという身分の有名無実化、各種の反カースト制社会改革運動、そしてインド独立後の全国的な標準化・平均化の動きなどによってタラヴァードの維持が困難になったことにより、この慣習は今から約60年前に完全に廃止されたようです。
😀 本年もよろしくお願いします。(@さいこう)

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