2008年05月29日
霊長類学の家族の起源4 人類の進化ストーリー(2)
霊長類学の家族の起源3 人類の進化ストーリー(1)に続いて、初期人類が家族を成立させたとの根拠を見ることにします。山際寿一著『家族の起源 父性の登場』(1994年)より。
700~500万年前、チンパンジーとの共通祖先から初期人類が分岐した当時の人類にかかっていた外圧状況と、
「人類ははじめから特定の男女による配偶関係の独占傾向をもつ→しかし★乱交の危機から⇒社会学的父性と、インセストと外婚を一致させて家族を誕生させた」とする根拠を順に見ていきます。
応援よろしく by岡
―――――――――――(以下、根拠の要約)―――――――――――――
1.初期人類にかかっていた外圧状況
大前提として、分配をしなければ飢えて生き残れないほど、初期人類の生息環境は劣悪だったわけではない。母子も他人の助けを借りずに食べて行ける豊かな環境に暮らしていた。それが分配を受けるようになったのは、互いのきずなを確認し親睦を深め、結束を強める意図をもっていたから。
チンパンジーの物乞い行動→分配から、初期人類は与え、与え合う分配へ変容させ快の感情を刺激した。人類は自己と他者を同一化してその快の世界を模索する能力をもっていたので、相手により大きな喜びを与えられるような物が分配物として選ばれるようになった。
この分配行動の変容が、住み慣れた森林から未知の草原へ足を向かせ、より多くの仲間が喜ぶ食料の獲得へと駆り立て、仲間のもとへ持ち帰る行動を生み出した。これが草原へ出て行った真相。
つまり、過酷な環境で飢えに耐えながら必至に生きたのではなく、より豊かになるために草原を征服したのである。これを可能にしたのが、分配をもたらす親睦機能と、快の世界を共有しようとしての新しい食物を探す好奇心だった。
2.「人類ははじめから特定の男女による配偶関係の独占傾向をもつ」について
人類は系統的にはチンパンジーに最も近いが、メスの発情徴候がなく、性的二型がチンパンジーより大きいことから、チンパンジー型が派生する前にゴリラ型との共通性を残したまま分化したことを示唆している。
出産後集団に定着するのは類人猿に共通な特徴であり、メスが特定のオスを配偶者として選ぶ傾向はテナガザルやゴリラに見られる。
3.「乱交の危機」について
しかし、一方で人類の女は類人猿にない性の特徴を発達させた。それは、月経周期に関係なくいつでも発情でき、自分の意志に応じて男を性的に受け入れることができるという特徴である。
分配行動が互いの快の感情を共有させ、男女の親睦を深めることに貢献すればするほど、分配行動は性交渉を誘発する起因になりやすくなる。初期人類が共食を習慣化させ、多様な異性の組合せが生じると、乱交的な性交渉を助長し、多くのトラブルを引き起こす原因になった。
4.「社会学的父性と、インセストと外婚を一致させて家族を誕生させた」について
そこで人類は、食の共有を性交渉の独占が認められる関係と性交渉がおこりようがない関係に限定せざるを得なくなった。すなわち同性同士、配偶関係にある男女、親子という関係である。そして文化的な存在である社会学的父親が登場して、家族の構造が決定した。
社会学的父親の基礎は、非母系的な社会をもつ類人猿から引き継いだ、①特定の雌雄が長期にわたって配偶関係を維持する、②母親が娘と同じパートナーと繁殖生活を営まない、③父親と息子が同時に同じパートナーと繁殖生活を営まない、という特徴によって生れた。しかし、この非母系的な社会は成熟期に達した同性間、特にオス間の強い反発関係によって維持されている。ところが初期人類はこれを弱める方向にまず向かったはずである。
分配行動がますます男同士の許容性を高め、連帯を強化した。しかし、女の性的受容性が高まり、社会的遊びが増加するようになると、男たちの連帯にも危機が生じるようになった。特定の雌雄による独占的な配偶関係が崩れ、優劣を反映しない社会交渉が増えたために、男同士の関係を定める基準が曖昧になったからである。そこで、男たちは優劣関係ではなく、血縁関係と世代によって社会交渉の質を分けねばならなくなった。この基準として用いられたのが、類人猿時代からの遺産であるインセスト回避の傾向だった。
配偶関係の独占を壊さずに、異性の親子間のインセストを禁止し、これを分配の基本単位とする。そして親子間(父親と息子および母親と娘)で同じ異性と性交渉を結ばないこととする。そして両親を同じくする兄弟姉妹間に性交渉を禁じることによって、血族の構造は安定したものになる。このインセスト・タブーにより血族が外婚の単位になり、家族の孤立化を防いだ。
一方、女たちは性的受容性を高めていく中で、配偶者を選択する傾向を発達させた。子どもの保護者であり、子どもの社会的成長に責任をもつ監督者を一人の男に限定することで、配偶関係の独占を認めあったのである。
行動範囲が広がると、もはや配偶者や子どもたちと常に排他的に同居し続けることは不可能になっただろう。そこで、親族組織を強化して、父親の役割に大きな権威を付与した。分配、連合、仲裁など社会的な交渉を決める権利や子どもの養育に関する権利を父親に与え、同居していなくても常にその影響が及ぶようにしたのである。これら取り決めは契約によるもので、生物学的な基礎をもたない脆弱な掟なので、父親をめぐる慣習は地域や文化によって変容しやすく、多様な家族や親族組織が生れることになった。
―――――――――――(以上、根拠の要約)―――――――――――――
1.初期人類にかかっていた外圧状況 を図解化すると以下。
①豊かな環境 ②自己と他者を同一化して快の世界を共有することができた
↓ ↓
③仲間に分配して喜んでもらうために草原へ進出・征服
★①は、700~500万年前初期人類が登場した頃の「寒冷・乾燥化により類人猿は熱帯雨林で多くが絶滅」という前稿の記述と矛盾する。樹に登れない初期人類は類人猿よりはるかに過酷な状況であったろう。初期人類(猿人)の多くが絶滅したことがそれを証明している。
また、前稿に「200万年前のホモ・ハビリスは、ゴリラの1.5倍に達する700立方メートルの脳をもつが、狩猟技術は未熟。屍肉あさりがメインで、キャンプ地に持ち帰って分配」とあるように、ハビリス段階でさえキャンプ地=洞窟に隠れ住むしかなかったわけで、外敵から逃げ回り掠め取るしかできない弱者であった。
★②は、それを如何にして獲得したのかの論理がなく飛躍している。(但し、共認機能の本質を看取している点は見事!)
想像を絶する過酷な外圧状況→本能機能では全く対応できない⇒サル時代に獲得した共認機能にすがるしかなかった⇒共認機能のさらなる進化、とする論理の方がはるかに整合している。
2~4 家族の誕生まで を図解化すると以下。
①独占的傾向 ②女の性的受容性UP→③乱交の危機→④男同士の連帯の危機
↓ ↓ Ⅴ Ⅴ
⑤女の父親限定で独占関係へ ⑥親子間・兄弟姉妹間のインセスト・タブー
↓ ↓
⑦父親の権威付与――――――→⑧外婚制の家族の誕生
★①独占的傾向から→⑤独占関係はつながるが、②女の性的受容性UPから→③乱交の危機と、→⑤独占関係へとつながる論理は矛盾する。どちらが本当か?
★そもそも②の女の性的受容性UPはなんでそうなったの?の論理がない。
やはり、強力な外圧⇒より一層共認機能にすがる⇒女の性機能UP であろう。
一方、共認機能への収束⇒皆の評価共認や規範に収束するので、そもそも③乱交の危機→④男同士の連帯の危機 は考えられない。
(※初期人類は首雄集中婚と考えていいのではないか。)
逆境⇒どうする?⇒新機能獲得⇒最先端機能に収束することによって個体も集団も統合される という生物進化の論理がないのが、決定的な弱点ではないだろうか?
そうでなければ、サルをはるかに超えた共認機能も、さらには観念(言葉)機能の獲得もあり得なかったのではないだろうか?
読んでもらってありがとう。
では次回から、家族っていつから登場したの?に挑戦したいと思います。
- posted by okatti at : 2008年05月29日 | コメント (2件)| トラックバック (0)
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comments
なるほど
① 戦争特需から得られた経済成長は格差社会をつくり、 ②法制化による「おおらかな性」関係は規制されているという状況を考えると、 私権闘争、 恋愛幻想共に欠乏は高まる構造にある事が分かります。
は、良く分かります。
大正時代とは、日本人の本格的な市場化(≒格差社会)の始まりだったんですね。
大正ロマン≒「あこがれ」とは、持たない大衆の願望ですね。
大正時代以降の日本は 「豊かさ」追求の政策と、「恋愛」追求の男女関係を目標に走り続けます。大正時代は、市場化への大きな結節点ですね。
「大正ロマン」が貧困平民の夢だったと分かり、「大正ロマン」の語感が淡い夢のイメージから、さびしい~厳しい現実といった語感に変わりました。
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