2009年06月24日
戦後2年目に発行された元祖HowTo本?雑誌「夫婦生活」の中身とは
太平洋戦争から2年後の昭和24年6月、ある月刊誌が創刊されました。その雑誌の名前は「夫婦生活」。当初、取次店に全く相手にされなかったこの雑誌は、書店の予想に反して店頭に出るや否や飛ぶように売れていったといいます。
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表紙はこんな感じです。
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内容はどんなものだったかというと…
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「夫婦生活」はいわゆる官能小説やグラビアの他、読者体験談、悩み相談やHowToSex、連載漫画まで網羅した雑誌でした。(アラフォー世代でいうところのHot-Dog PRESSみたいなもんでしょうか?)
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『昭和二十四年~二十七年 小型本の時代』 より
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「夫婦生活」の元は菊池寛が昭和八年に創刊した雑誌「話」である。「話」の発行元である鱒書房は、昭和二十四年三月号に特集として『夫婦の性典』をとりあげた。これが思わぬ大ヒットとなったことに気を良くした社長(増永善吉)は、「話」を夫婦のセックスライフ専門誌として模様替えすることを思いついたのだ。
東大名誉教授の『夫婦生活の大道』、慶大教授(複数)の『理想的な避妊法』、という各界の権威筋に執筆を依頼、さらに丸木砂土に『良人を満足させる妻の性愛技巧』といった軟派の記事も含めた創刊号(昭和二十四年六月号)は七万部印刷された。ところが取次店に持って行ってもいい顔をされない・・。買ってくれないのだ。内容が硬すぎたこと、扇情的な挿絵が少ないことが原因と思われる。セックス雑誌への路線変更に社運を賭けていた増永社長は頭をかかえた。もうダメだ・・。
ところが店頭に並んだ「夫婦生活」はあっという間に売り切れたのだ。まじめにセックスを論じた内容が読者の好感をかったのかもしれない。本のサイズが小さい(A5版)ため、隠し持ちやすかったためかも知れない。
その後も権威筋に執筆を依頼し続け、学術雑誌に内容の濃さは負けない誌面づくりで毎月着実に発行部数を伸ばし、昭和二十五年新年後はなんと三十五万部に達したのだ。
発行日にはリュックを背負った取次店主が鱒書房の前に列を作ったというくらいだから、いかに「夫婦生活」の人気が高かったかわかるというものだ。
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このように絶大な人気を誇った「夫婦生活」の昭和二十六年六月号からその内容をチェックしてみましょう。
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★カラーヌード4ページ(フランス雑誌から二ページと日本人の作品二ページ。和洋取り揃え、毛唐嫌いにも対処している)
★二色刷り『絵と川柳:六月の夫婦草子(第25回)』寺本忠雄
川柳に艶っぽい江戸時代の絵で説明。
「白っぽく田植に嫁の目立つなり」
「三味線にことよせ亭主にじり寄り~おい、もう三味線なんていいってことヨ」
「寄り添えば隣室の姑せきはらひ~テヘッ、まだ起きてるのか・・・」
「にくい蝿、うっかりたたく嫁の尻」
「早乙女の尻から濡れるにわか雨」
・・・風流である。
★二色刷り『夫婦円満コンクール大会』改田昌直
見開きマンガ
★二色刷り『連載まんが~アプレ夫婦』西川辰美
昭和二十年代末まで使われた「アプレ」はフランス語の「アプレゲール(戦後)」からの引用で、はすっぱな戦後女を意味した。
このあたりは「週プレ」あたりを彷彿とさせます。
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★大特集はこれ!
『夫と妻の性力亢進と性力減退の原因と治療』~昭和医大教授
『性行為を阻害する妻の性器疾患の治し方』~慈恵医大助教授
『性交を不能にする妻の膣痙と膣欠損はこうすれば治る』~日大教授
『性的神経衰弱と精神病的抑制から起る夫の不能症』~昭和医大教授
『性的不能を来たす夫の陰茎異常』~慶大助教授
執筆陣の豪勢なことといったら、下手な学術雑誌顔負けである。
★随筆~とにかく執筆する人の肩書きが凄い→元大蔵大臣、芸術院会員、将棋名人などなど。
よくもまぁこれだけの権威が並んだものだと思いますが、それだけこの雑誌にパワーがあったんでしょう。
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★小特集
『夫婦愛の増進剤!四つの最新性愛秘技』~新着封切りのテクニックとは?
(1)奥様を無上の法悦境に誘う、旦那さまのウーイング!
(2)湧き出づる夫婦愛の噴水フラーティション!
(3)恍惚の極到へ導く前戯カドリング!
(4)画期的な夫婦の最新性戯コイタル・ラブ!
どうやら当時は英語で言うとなにやら素晴らしいことに思えたらしい。それぞれの意味は、上から順に、口説き、ふざけあい、身体をこすりつけること、本番。誰が考えたのか・・。
何というか、ほのかにGHQの陰謀臭も漂ってきますが、私も昔は「HDP」でいとうせいこう氏のコラムを斜め読みしてフィールドワークやらアイデンティティーなんていう用語がなんとなくカッコよく感じていたような…。
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★記事
『日本人よ、外出は夫婦お揃いで』~UP通信社東京支部長
『十日間で無毛症を根治する驚異的植毛手術』~医学博士
『奥様の入浴美容体操』
『恐ろしい子宮外妊娠の原因と手当』~医学博士
『愛液の量は性感の強弱とどんな関係をもっているか?』~医学博士
『癌は早期に治療すれば必ず治る』~慶大講師
『慢性淋疾もこうすれば治る』~慶大教授
★体験談義
『愛情露出計(1)日本一の美人と日本一の愛妻家・芦田均夫妻』
『結婚相談所を舞台に毒牙を揮う稀代の色魔』
『夫婦生活相談所』
★特集
『性の誌上相談室』
愛液の減少は・・、性交後の頭痛、正常位では快感がない、勃起力を強めたい、こんな時の中絶は、禁欲は有害か?、膣口の痛みは?、X線で永久避妊?、二、三回の摩擦で射精、避妊錠剤の使用は?酒飲み子は虚弱か?、悪戯で開大した膣口、精液の量の少ないのは?仮性包茎か?射精の感覚がない、行為時の痛み・・・。
性に関するあらゆる悩みが網羅されている。
北方謙三先生の悩み事相談の最後は決まって「童貞はソープへ行け!」でした。しかし、性の悩みは親に相談するわけにも行かず、殆どこの手の雑誌から仕入れていたような気もします。
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まぁ、たまにはトンデモな記事が載っちゃうこともあるようですが何か?
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★工夫
『家庭で手軽に出来る性具の作り方』・・・こ、これは?!
性具はホームメイドに限る。こんな場合に性具を用いよ、ハッピーリングの作り方、性感倍増のくらげリング、肥後ずいきに勝るゴムずいき、勃起不全に絶妙な助け舟、知らぬと処罰される性具の取り扱い方
『新婚夫婦一週間の強精献立表』
★特別大付録『ロング博士の夫婦の性典』
(1)愛液の分泌と性器の変化、(2)二つの理想的な態位、(3)驚くべきオルガスムスの性理、(4)オルガスムスを一致させるには?(5)不感症を解消する新しい医学
の五つについて詳細に説明する論文を翻訳したもの。
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こうした雑誌がもてはやされた背景には、戦後に急速に進んだ都市化の流れと村落共同体の崩壊が大きく関係しているような気がします。
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太平洋戦争終結時点では、わが国の農業従事者は人口の50%であったそうです。終戦を境に大量の若者が都市へ流入しますが、その多くは中卒のいわゆる「金の卵」世代で共同体で性の手ほどきを受けることなく処女童貞のまま都市に放り込まれてしまったと考えられます。
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GHQの政策の下、一夫一婦制が強化され、恋愛がすばらしいものと吹き込まれた若者世代は、親に相談する手立てもなく、道標としてこうした雑誌に向ったのではないでしょうか。
- posted by kato at : 2009年06月24日 | コメント (3件)| トラックバック (0)
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