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2020年01月27日

オナガザルとテナガザル4~アフリカでは、出産・育児期間を延長し大型化した類人猿だけが生き残った

生物種の繁殖戦略として、子供をできるだけ多く残す r 戦略と適応能力の強い子供を確実に残す K 戦略がある。「生物用語(生態学)r-K 戦略」

r 戦略とは、できるだけ多くの子供を残そうとする戦略である。環境の変化が激しい場所に生息する生物種が取る戦略である。このため環境の変化によって大部分の個体が死滅しても、生き残ったわずかの個体で、再び繁殖し子孫を残すことができる。
K 戦略とは、環境収容力において、競争力の強い子供を確実に残そうとする戦略である。環境の変動が少なく、安定している場所に生息する生物種が取る戦略である。安定な環境において、生態的同位種が生息空間や餌などを奪い合うようになり、種間競争が強くなる。K 戦略では、このような激しい競争下において、競争能力の高い子供を確実に残すそうとする戦略である。

「アフリカの中新世旧世界ザルの進化:現生ヒト上科進化への影響」(中務真人、國松豊 京都大学自然人類学研究室)から転載。

現生のオナガザル科と類人猿は繁殖戦略,あるいは生活史戦略において対称的である。基本的に一産一子の真猿類では,出産間隔の違いが,r 戦略と K 戦略の選択につながる。熱帯雨林内のように安定した環境では,資源をめぐる生物間競争が激しく,生物個体数はその環境収容力の限界付近であると考えられ,K 戦略者が有利に,環境の変化が激しい森林の辺縁部や疎開林では,r 戦略者が有利になる。その結果,オナガザル科は r 戦略,類人猿は K 戦略をとっている。この場合,それぞれ,速い生活史戦略,遅い生活史戦略といってもよい。生活史戦略とは出生前,出生後の成長と老化,繁殖スケジュールについて,どのような時間配分を行っているかを指す。哺乳類において生活史変数(妊娠期間,離乳時期,性成熟時期,最初の出産時期,出産間隔,繁殖停止年齢,寿命など)は相互に高い正の相関をもつため,それぞれの種の生活史を速い型から遅い型の勾配の中に位置づけることができる。一般に生活史の速さは体サイズと負の相関をもつが,生活史は体サイズだけで決定されているわけではない。例えば,テナガザルと同サイズのオナガザル科を比較しても,発達速度はテナガザルの方が遅い。

熱帯森林のように相対的に捕食圧が低い環境では遅い生活史が選択されやすい。前期中新世(2350万~1650万年前)のプロコンスル以来,大型の非オナガザル化石狭鼻類(たとえば,アフロピテクス,シバピテクス,ヒスパノピテクス)の最初の永久歯萌出時期は(体サイズの違いを斟酌する必要があるが)おおむね,チンパンジーの変異幅に含まれる。

一方,疎開林では森林に比べ霊長類の補食圧が高い。現生オナガザル科は,生活史の速さを上昇させている。
現生のオナガザル科では,コロブス亜科がオナガザル亜科よりも早い生活史をもつ。霊長類では,一般に葉食者が果実食者よりも速い生活史をもつ傾向があり,それは,成長速度を高くしても飢餓の危険が少ないこと,早い歯牙成長は葉食効率を上昇させ適応的であるためと考えられている。

現在のアフリカの森林における霊長類コミュニティでは,類人猿 1–2 種に対し,オナガザル科は 4–9 種いる。類人猿が含まれる霊長類コミュニティでは,マンドリルやマンガベイのように地上性に適応した後に,二次的に森林性となったヒヒ族がほとんど例外なく存在する。

興味深いのは、遺残種とはいえアフリカ類人猿の系統は残存している一方,小型の非オナガザル狭鼻類は絶滅した点である。このグループは,中期中新世(1650万~1160万年前)を通じてビクトリアピテクス科を含む霊長類コミュニティをつくってきた(マボコ,キップサラマン,ナチョラ,ンゴロラ)。さらに後期中新世(1160万~530万年前)のナカリでも,少なくとも 3 種の非オナガザル小型狭鼻類がマイクロコロブスと同所的に棲息していた。環境の悪化に対しては,体サイズが小さく生活史が速いと思われる小型狭鼻類の方が有利だと考えられるが,アフリカ非オナガザル狭鼻類で生き残ったのは大型系統(ゴリラ,チンパンジー,人類系統)だけである。

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