2022年04月29日
万物への一体化・感謝回路②~アイヌ文化の精神性~
(画像はこちらからお借りしました)
「私たちは身の回りに役立つもの 力の及ばないもの すべてをカムイ(神)として敬い、感謝の儀礼を通して良い関係を保ってきた。
火や水や大地。樹木や動物や自然現象。服や食器などの道具にもすべてカムイがいて、神の国からアイヌの世界に役に立つため送られてきてると考えられ、粗末に扱ったり役目を終えたあとの祈りを怠れば災いをもたらすとされてきた。
狩猟を生業にしている私たちにとって動物のカムイは重要な神様。動物たちは神の国では人間の姿をしていて、私たちの世界へは動物の皮と肉を持って遊びに来ている。
飼っていた子熊を送るときは村をあげて盛大な儀礼をおこなう。この儀礼は「イオマンテ」と呼ばれている。
歌って踊って、たくさん食べ物を用意して子熊の魂にお土産を持たせ神々の世界に送り出す。私たちの住むこの世界が楽しい場所だと他の神様に伝えてもらう。
そうすればカムイたちは何度でも訪れてくれる。」
「ゴールデンカムイ」(野田サトル)12話より
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今回も前回の記事に引き続き、人類の中にある万物への一体化追求・感謝回路の事例を見ていきたいと思います。
冒頭は、アイヌ文化の紹介要素も併せ持つ、明治末期の北海道・樺太を舞台にした人気漫画でのワンシーンです。
北海道の先住民族であるアイヌ民族では、上の供述のように自然界すべての物に魂が宿るとされている精神文化、日本語のルーツとも言われている言語体系、縄文文化との連続性があったりと、人類文化の基層を感じられる民族文化として注目されています。
彼らは自然に潜むカムイ(神)とアイヌ(人間)の交歓によって自然が豊かに再生産されると考え、多様な「生の自然」と共生していました。
あらゆる自然現象は、人間と同じ意思や情念を持つカムイの集合体とし、それに対して畏敬の念を抱きながら生活することを人間の基本条件と考えました。なので「狩り」という言葉も存在せず、(カムイを)「山へ出迎えに行く(エ・キム・ネ)」という言葉で表現するそうです。
ここで彼らが呼んでいる「神」は、超越的、宗教的な意味付けの対象としてではなく、身近にありふれている存在として捉え共存する、元々人類が持っている本源的な精神性が感じられます。
また、アイヌでの主な男性の役割は、コタン(集落)の運営、他地域との折衝、狩猟、漁労などがあり、女性は機織りや裁縫、畑仕事、子育てとされており、それぞれの役割や仕事、分化などは男同士、女同士で継承されてきました。
男はあらゆるカムイ(神)・未知対象に向かい(祈り)、それを家族集団に持ち帰る役割。そして女は男含めて自然の恵みに感謝し、集団を守っていたのでしょう。
(画像はこちらからお借りしました)
前回記事のインディアンやイロコイ族、そして今回のアイヌ民族と、共通して見えてくるのは、我々人類は世界万物の自然の中で生かされているのだということ。
そして同じ世界で共生している動植物など全ての対象に心を通わせ(同期し)、感謝の念を向けているということ。
感謝する対象を粗末に扱わず、無駄なく活かしきる気持ちから、道具や生活様式を変化させていったのではないでしょうか。
※ちなみに、冒頭で紹介した「ゴールデンカムイ」。ストーリーはもちろん、丁寧なアイヌ文化の描写も知ることができる面白い作品ですので、是非皆さんも読んでみてください!
- posted by matu-kei at : 2022年04月29日 | コメント (0件)| トラックバック (0)
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