2010年06月20日
単一起源説vs多地域起源説を切開するvol.4「DNA解析って何?」
前回の記事「単一起源説vs多地域起源説を切開するvol.3(ネアンデルタール人、現生人類と交配?)」では、ナショナルジオグラフィックスの最近の記事「ネアンデルタール人、現生人類と交配?」と2年前の記事「ネアンデルタール人と現生人類の交配はなかった」を紹介しました。
同じようにDNAを解析したといっているのに、たった2年で結論が逆転するのは何故か?
また、発表された数字に矛盾があるように見えるが、そもそもDNA解析とはどういうものなのか?
どの程度信頼できるのか? 調べてみたいと思います。
最初に、生物の基礎的な知識を整理しておきましょう。
ヒトの身体は、およそ60兆もの細胞で構成されています。
この60兆の細胞は、もとは一つの受精卵が細胞分裂を繰り返してできたもので、全ての細胞が、そのヒトを構成するために必要な全く同じ、約30億塩基対からなる全遺伝情報を、核DNAの中に持っています。
またミトコンドリアという、細胞の中でエネルギーを作り出している細胞内小器官も独自のDNAを持っています。太古の昔、原始細胞の中に、呼吸能力のある細菌が入り込んで、共生を始めたのがミトコンドリアの起源であると考えられています。
では、「DNA解析って何?」の本題にはいる前に、応援、よろしくお願いします。
DNA解析って何?
人間の細胞の核DNAは、巨大な情報空間で30億もの塩基対があり、この全てを解析しようとすると、最新の設備を使っても、数カ月の月日と、数千万ドルもの費用がかかるといいます。
またDNAレベルでは、人は99.9%同じ。つまり個人間の差異は 0.1%しかありません。そのうち、人種間の共通部分が、7%(×0.1%=0.007%)あり、同じ人種内でも、0.093%の違いがあります。実は、人種の違いより、個人間の違いの方がずっと大きいのです。
DNAには、30億もの膨大な情報(塩基対)があり、そのうち99.9%以上が同じなので、通常、DNAによる解析は、全ての塩基対を解析するのでなく、遺伝子マーカーと言われる、容易に検出でき、その座位が特定されていて、個体によって違いがある部分を利用します。
また、人類の系統を調べるには、サンプルが大量に取れて、塩基数が少なく、母系遺伝しかしない、そして、個体差の大きいという特徴のあるミトコンドリアDNA(mtDNA)が、都合が良いので、利用されてきました。
特に初期はmtDNAのうち、変異の多いDループ領域のみ解析していましたが、最近は全領域を解析し、逆にDループ領域は除いて利用するようになっています。
さらに従来は、解析の難しかった、父系遺伝しかしないY染色体の解析ができるようになり、mtDNAの解析の結果と照合されより精度が高くなっています。
さて、今回の交配が有ったという研究ですが、マスコミでは、次のような情報が報道されています。
ネアンデルタール人、現代人にも遺伝子…10万~5万年前に交雑か
ネアンデルタール人は現生人類(ホモ・サピエンス)との生存競争に敗れ絶滅したとされてきたが、実際には現生人類と交流し、その遺伝子が受け継がれていたことになる。アフリカ以外の地域に住む現代人のゲノム(全遺伝情報)のうち1~4%がネアンデルタール人に由来するという。
解析の結果、現生人類とネアンデルタール人のDNA配列は99.7%が一致していることが判明した。なおチンパンジーとは98.8%一致している。
同じ研究を報道しているのに、数値に矛盾があり、内容が良く理解できなかったのでネットで調べてみると、技術者が集まるSlashdotというサイトで次のように解説されていました。
Fig.6 には今回比較した5系統の人種の分岐図が以下のように(論文では縦向きだけど)書かれています.横軸は時間.
———————————San(サン人,南部アフリカ)
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—————————Yoruba(ヨルバ,ナイジェリアあたり)
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———————PNG(パプアニューギニア系)
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————–Han-Chinese(中国……だっけか?定義忘れた)
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———French(フランス系)
これら5系統とネアンデルタール人を比較したら,アフリカ系のSanとYorubaはほぼ関係なくて,PNG,Han-Chinese,Frenchの3つは同程度のわずかな相関があったよ,ということです.そのため,ネアンデルタールと現生人類との混血は,Yorubaとその他(PNG,Han-Chinese,French)が分かれて以降かつPNGとその他(Han-Chinese,French)が分かれる前,ということになり,まあ中東のあたりだったんじゃね?ということになります.
従来、mtDNAの解析では、ネアンデルタール人と現生人類とのつながりは見つからなかったが、今回の分析は、現代人5人と、ネアンデルタール人のゲノム全体を、統計処理してわずかな相関性を見いだしたということのようですです。
しかし、個人間の違いが0.1%しかないことを考えると、ネアンデルタール人由来の遺伝子が少なくとも1~4%というのは、何を意味するのでしょうか。
この解説から考えると、ネアンデルタール人にあって、アフリカ人には無く、アジア・ヨーロッパ゚人のみにある遺伝子が存在するということのようですが、1~4%というのが、遺伝子全体に対する比率ではあり得ない(チンパンジーでさえ98.8%同じ)ので、
1)個人間の差異 0.1%のうち、1%~4%が、ネアンデルタール人由来ということ?
2)人種間の違い 0.007%のうち1%~4% と考える方が自然かもしれません。
いずれにせよ、一体あたり30億もの膨大な情報を解析する必要のあるDNA解析を元に、人類の起源を探るには、今回の研究もサンプル数が少なく、わずかな相関しかないこと。マスコミが伝える値の意味するところが曖昧であることなどを考えると、まだまだ現生人類とネアンデルタール人との混血の有無に関する研究は、これが決定打というわけではなく、今後も研究が続けられ新たな発見が期待されるところです。
しかし研究者の発表を、恐らく数字の意味を理解できないまま敢えて誤解を誘うようなセンセーショナルな報道をするマスコミの姿勢には大きな疑問を感じます。
この間の報道を見ると、内容を理解して正確に伝えるよりも、どうしたら読者の注目を集められるかしか考えていないように見えます。
マスコミの報道に振り回されず、しっかりと事実を追求していきたいものです。
- posted by tama at : 2010年06月20日 | コメント (2件)| トラックバック (0)
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