2009年12月03日
日本語の成り立ち3~二重層説1
画像引用元「東京大学総合研究博物館」
『日本語の成り立ち』シリーズの前回は、「単層説」の紹介でした。今回は「重層説」のうち、南方語の上に北方語が積み重なってできたとする 村山七郎氏の『日本語の誕生』(1979年)を紹介します。
村山氏は元来、アルタイ比較言語学の立場から日本語系統問題を考究していました。しかし、日本語にはアルタイ起源では説明がつかない語彙があまりに多い という見解に達し、南島語と日本語の比較に注目するようになります。
その結果、いわゆる基礎語彙の約35%、文法要素の一部が南島語起源であり、このような深い浸透は借用と言えるレベルを超えたもので、日本語はアルタイ系言語と南島語の重層して形成された主張します。
(※基礎語彙とは、どんな言語でも共通して不可欠と思われる語彙で、「手・足・目・口・人・もの・言う・食う・寝る・良い・悪い・・・」などがそれに当たります。)
◆従前の日本語系統論は、北方由来が主流
19C以来の日本語系討論は、アルタイ諸語などの北方に由来するという学説が主流でした。単層説でも取上げられていますが、代表的な根拠をまとめると以下のようになります。
①動詞や形容詞などの用言の活用システムや、語順、代名詞などの主要な文法要素はアルタイ諸語と共通している。
②古代の日本語(大和言葉)において、語頭にr音(流音)が立たないことも共通している。
③基礎語彙の中に、北方系と同じ一種の母音調和がみられる。
※例えば、耳(みみ)、頭(あたま)、頬(ほほ)、身体(からだ)、肘(ひじ)、乳(ちち)、尻(しり)など、同じ母音の連続が顕著に見られ、原始的な母音調和の痕跡をとどめている。
◆村山氏がまとめた南方由来の根拠
前述したように、村山氏自身は北方アルタイ諸語の言語学者でしたが、南方にも由来すると考えた根拠を、以下にまとめます。
①古代日本語における、基礎語彙を含む相当数の語彙(総計して約240語の語彙が比較されている)がオーストロネシア起源である。
②助詞「の」や連濁現象が、オーストロネシア諸語に広く見られるリンカー(繋辞) na/ng を起源とする。
③接頭辞(た走る、ま白、か細し、など)もオーストロネシア起源と推定される。
④オーストロネシア語族の前鼻音化と呼ばれる特異な形態音韻論的現象の痕跡が、古代日本語に残存すると見られる。
⇒∴オーストロネシア語の影響は、語彙だけでなく、統語・形態論的な要素にも及んでいると主張します。
★南方を基層とする根拠は何か?
⇒日本語は北方・南方いずれも影響を受けているということが、村山氏の主張ですが、南方を基層と考える根拠については、文化人類学者の金関丈夫氏の言説に依っています。
金関説では、縄文中期以降にメラネシアやインドネシアなどの南方文化(歯牙変工・文身・崖葬・など)が、沖縄を経由して西日本~中部地方まで及んでいるとされ、この点を南方基層の根拠にしています。
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以上、村山七郎氏の南方基層による重層説をまとめてみました。
日本語系統論では、現在でも文法が北方由来で、語彙が南方由来とする説が主流のように思われます。
しかし、歴史学・人類学においても、南方・北方のどちらを基層とするかについては未解明な部分が多いため、人類学の一論説に依拠して日本語の基層を南方に置いている点には疑問符が付きます。
その上で、次回は北方由来を基層とする重層説を紹介します。
- posted by matuhide at : 2009年12月03日 | コメント (3件)| トラックバック (0)
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渡来人が私権意識を持ち込んだ以降、
・支配階級:私権発の「対遇婚」
・一般大衆:本源的な「総遇婚」
という二つの婚姻規範の流れが出来上がっていくということですね。
しかも、「対遇婚」の流れも、母系氏族を基盤とする「妻問婚」が長らく続き、父系制・私有婚へ一気に転換することはなかった。
これは日本の婚姻の特殊性といえそうです。その要因の一つが、渡来人が私権闘争の「負組」だったことのようですね。
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