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2010年06月25日

単一起源説vs多地域起源説を切開するvol.5 DNA解析って何?-2~分子時計

「単一起源説vs多地域起源説」に焦点を当て、それらの学説に孕んでいる問題に切り込む、シリーズ「単一起源説vs多地域起源説を切開する」、今日は第5回をお届けします。
シリーズ「単一起源説vs多地域起源説を切開する」
vol.1 『起源説の概要』
vol.2 『単一起源説を支持する分子遺伝学的証拠とは?』
vol.3 『ネアンデルタール人、現生人類と交配?』
vol.4 『DNA解析って何? 』
前回の「DNA解析って何?」では、DNA解析の基礎知識を紹介しました。今回も引き続き基礎知識編として、DNA解析の前提条件となっている「分子時計」について取上げます。
◆分子時計って何?

核酸やたんぱく質の分子進化の速度が一定であると仮定すれば、各種生物の分子配列の違いを進化の速度を計る分子時計とみなして、経時的な変化の系列を推定することができる。分子進化は原則として中立的な突然変異の累積によって起こると考えられるが、中立的でない突然変異は自然淘汰の影響を受けるので、分子によって進化速度は異なる。機能的に重要でない分子ほど進化速度が速いので、使われていない遺伝暗号の塩基配列などが最も実用的な分子時計となる。

さて、この「分子時計」は生物進化の解明にどこまで適用可能なのでしょうか?
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■分子時計は限られた条件のもとで成り立つ特殊な性質

もし突然変異の要因が放射線であるなら、年当たり一定の割合で放射線が地球に降り注ぐと考えられるので、中立説が正しければ、分子進化速度は年当たり一定となる。従って中立説に従えば、分子時計が自然に理解できる。一方、自然選択説に従うと、分子進化速度は、集団を形成する個体の数、適応度、突然変異率、など幾つかのパラメターに依存するので、絶対時間に関して進化速度を一定に保つ様なパラメターのセットは非常に限られてくる。
(中略)
現在では、分子時計は常に成り立つ性質ではなく、限られた条件のもとで成り立つ特殊な性質であると理解されている。一般に系統ごとに突然変異率や機能的制約が変動することがあり得るというのが最近の認識である。

というのが現在の専門家の認識のようです。
■あるタイプの分子が持つ進化速度は形態の複雑化に伴って減速する
◇「機能的制約」とは?
分子の機能にとって重要な部位のアミノ酸は長い進化の過程で不変に保たれる傾向があり、重要な部位には、酵素の活性中心の他に、タンパク質の構造維持の上で、他のアミノ酸では置き換えることができない場所もあります。そのほか、他の分子と接触する部位も多くの場合変りにくく、これら機能・構造上重要な不変部位の数はタンパク質ごとにことなります。
こうした機能・構造上重要な部位に起きた突然変異は、多くの場合タンパク質の機能に障害を起こすので、そうした変異はその変異を持つ個体の生存に不利に働くことになります。個体の生存に不利な変異は自然選択の力で集団から除去されるので、結局、長い進化の過程で機能・構造上重要な部位のアミノ酸は不変に保たれることになります。これが「機能的制約」です。
◇機能的制約1:個々の分子の特性で決る制約(局所的制約)
極端な場合として、タンパク質のほとんど全領域が機能的に重要なら、アミノ酸が変化できる座位はほとんどなく、進化はゆっくり進むことになります。逆に機能的に重要な部位がほとんどないタンパク質では、どこの座位でもアミノ酸が変化できるので、進化速度が大きくなります。すなわち、各々の分子の特性によって進化速度が決まるのです。
◇機能的制約2:相互作用している高次の分子集合系からの制約(大域的制約)
生物の系統に存在する、生命維持に必須な分子(いわゆるハウスキーピング分子)はゆっくり進化しますが、ある限られた系統にのみ存在する分子は比較的速い速度で進化します。つまり、その分子と直接・間接に相互作用している高次の分子集合系からの制約を受けています。
例えば、発現する組織に依存して、遺伝子の進化速度に違いがあることが分かっています。脳あるいは神経系で発現する遺伝子は進化速度が非常に小さく、逆に免疫系で発現している遺伝子は速い速度で進化し、その他の組織では両者の中間の速度で進化しています。この結果は、遺伝子は組織や器官から大域的制約を受けており、その強さの程度は組織に依存することを示しています。
◇機能的制約の変化により、突然変異速度が変動する
同一の分子種のように見えても、進化の途中で新たな機能的制約が追加されたりすると、分子時計の仮定が崩れてしまうので注意が必要。もともとある中立な分子に変異が起こり、生存に有利となる機能を発現する遺伝子群に組み込まれると、その分子の突然変異速度は低下する可能性が考えられます。


■環境条件が維持されていても突然変異の速度は変化する
大腸菌の祖先菌株と子孫菌株の環境適応度を定量的に比較する実験を4万世代にわたり行なった研究では、

研究の結果、環境条件が維持されていても遺伝体変異の速度と環境適応度間の相関関係は一定ではないことが分かった。またタンパク質で作られている部位で発生する突然変異は全てアミノ酸配列が変わる種類のもので、大部分は突然変異が個体に有益なものとして現われていた。
20091019081432-2.jpg
研究チームによると大腸菌の進化は2万世代まで突然変異の数は時間に比例して一定の増加を示すが、環境に対する適応度は進化の初期である約2千世代までだけ急激に増加し、以後は突然変異の増加率が漸次減少した。2万世代では増加の推移が微々たるものになるが、4万世代では突然変異発生が急激に増加した。研究チームはこれについて2万5600世代のあたりで特定の遺伝子に突然変異が発生、塩基配列の複製と誤謬が正常の細胞よりも増大したことによるものと推測している。

大腸菌を対象にした実験ですが、「突然変異の発生速度は変化する」ことを示しています。


 突然変異≒進化のスピードは一定なのでしょうか? 激烈な環境変化のもとでは、生物には適応のための突然変異のスピードが早まる、もしくは適応可能な機能の進化スピードが著しく上昇する、そのような仕組みが組み込まれているはずだ、と私も思います。

に同感です。「突然変異の発生速度は変化する」とすれば、その仕組みは明らかになっていないかも知れませんが、何らかの進化スピードを上昇させる機構がある、と考えたほうが自然だと思います。少なくとも、DNA解析により算出された集団と集団の分岐年代は、一定の巾がある推定値だということを考慮する必要があるようです。
生物の進化を考えるには、まず、集団の置かれた外圧状況を捉えることが必要です。そして、観念内容を進化させ適応してきた人類については、DNAに残らない観念内容がどんなものだったのかを追求することも欠かせないと思います。
今回は、
分子時計は、無条件に成り立つ性質ではく、限られた条件のもとで成り立つ特殊な性質
だということがポイントでした。
さて、次回は、DNA解析の基礎知識編として「進化系統樹」をお届けする予定です。乞うご期待!

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