2010年08月20日
集団を超えた、共認原理に基づく婚姻体制って過去にあるの?5~限定交換と全面交換~
集団を超えた、共認原理に基づく婚姻体制って過去にあるの?シリーズ。
1、2、3互酬原理について、4インセスト禁忌とはに続いて、いよいよ親族の基本構造について紹介します。
レヴィ・ストロースは、集団間を結び付ける親族の可能な基本構造は三つしかない、と結論づけています。
それが下表の限定交換、全面交換(母方交叉イトコ婚)、全面交換(父方交叉イトコ婚)の3つです。(実際にはこれら基本構造の複合または変形した複合構造が存在しています。)
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限定交換とは、集団を実際にか機能的にかいくつかの交換単位対に分割し、かつ任意の対A-Bにおいて交換関係が互酬的であるような体系、すなわち男Aが女Bと結婚するなら、男Bはつねに女Aと結婚できなくてはならないとする体系である。
下図はもっとも単純な、集団を父系か母系の外婚半族(AとB)に分割する双分組織を示し、父方・母方のイトコは区分しないが、平行イトコと交叉イトコは区分する。
全面交換は、Aの男がBの女と結婚すれば、Bの男はCの女と結婚する、というように互酬関係が方向づけられた関係で(限定交換の対がA→BかつB→Aと二重の婚姻関係を含意するのに対し)、全面交換の対は相互的でなく一意的、つまり一方のセクションに属す男を他方のセクションに属す女に結びつけるのみである。
下図は四クラス全面交換体系の図式で、父方と母方のイトコを区分する。
なお下図では、男A→女B→子Cのモデルだが、子はA、B、C、Dのどれに入ると決めても(いったん決められた出自規則が一貫して適用されればよい)、男A→女B、男B→女C、男C→女D、男D→女Aの縁組規則は動かない。
以下、限定交換の基本的特徴を紹介します。
双分組織
双分組織は、敵対関係から濃厚な親密性にいたる複雑な関係を取り結ぶ二つの区分に、共同体(部族または村落)の成員が振り分けられている体系を言い、ふつうそこには、さまざまなかたちの競争と協働とがより合わされている。多くの場合、これら半族は外婚をおこなう。
出自はたいがい母系をたどり、長男と次男または双子の文化的英雄が神話で重要な役を演じる。しばしば森羅万象の二分につながり、半族はもろもろの典型的対立に結び付られる。<赤>と<黒>、<明>と<暗>、<昼>と<夜>、<冬>と<夏>、<北>と<南>、<天>と<地>、<良>と<悪>、<強>と<弱>、<年長>と<年少>などである。ときには双分組織に権力の二分法が伴い、世俗の首長と宗教上の首長、民間の首長と軍事上の首長が見られることもある。
半族同士は女の交換によってばかりでなく、経済的・社会的・儀式的性格を併せ持つ、給付・反対給付の相互応酬によっても結びついている。
この双分組織は、広く世界中に、未開な文化水準に結びついて見出される。
なお双分組織は、二つの村落、それどころか同じ言語を話さない二つの部族のあいだに有機的なつながりが確立されて生まれてくることもある。
双分組織とは互酬性を基盤にしてその上に成立つ組織化原理なのである。
双分組織と交叉イトコ婚
双分組織では、出自様式が母系であるか父系であるかを問わず、父の兄弟の子供たちと母の姉妹の子供たちは、主体(つまり父と母の子供)と同じ半族のもとに置かれ、逆に父の姉妹の子供たちと母の兄弟の子供たちは、つねにもう一方の半族に属す。ゆえに後者の子供たちが主体にとって結婚可能な最初の傍系親族である。
このことは親族名称に反映され、前者のイトコたちは兄弟姉妹と同じ名称によって指示され、後者のイトコたちは特別な名称か、「夫」または「妻」を文字通り意味する名称によって指示される。
この二分法的名称体系は、きわめて多数の未開社会が共通してもつ別の制度、交叉イトコ婚とも一致する。交叉イトコ婚も双分体系もほぼ全世界の各地に広がっているが、頻度的には交叉イトコ婚のほうが外婚半族よりもはるかに高い。外婚半族体系が必然的に交叉イトコ婚を可能にするが、半族に分割されていない数多くの集団にも交叉イトコ婚が見られるのである。
交叉イトコ婚のとりわけ興味深い点は、この婚姻によって立てられる規定配偶者と禁忌配偶者との区別がさらに親族の一カテゴリー〔イトコ〕を、生物学的近親度から見て厳密に互換可能であるにもかかわらず、〔平行と交叉とに〕二分することにある。この点は婚姻禁忌がいかなる生物学的根拠ももたないことの傍証として、いままでしばしば持ち出されてきた。
出自と居住
母系出自と母方居住の体制は確かに存在するが(たとえば夫が「借りてきた男」と呼ばれるスマトラ島のミナンカバウがこれに当たる。1、2、3参照)、実権の掌握と行使は女の兄弟か長男が成し、そのうえに実例は極端にまれである。
それ以外のすべての実例では、母系出自は、比較的短い猶予期間の後に父方居住を伴う。夫はよそ者、外の人間、ときには敵ですらあるのに、妻は夫の村に移って夫の家で生活し、けっして夫のものとならない子を産む。婚姻家族は引き裂かれてはまた引き裂かれる。こんな状況がいかにして案出され、確立されたのか。
女を譲る集団と女を獲得する集団との絶えざる軋轢の結果をそこに見ないでは理解されないだろう。女そのものは結局、彼女の属すリネージの象徴でしかなく、母系出自とは、妻の父や妻の兄弟が義理の兄弟の村にまで広げていく支配力のことなのである。
政治的権力が他の組織化形式に優越する社会では、政治的権威の男性的性格と出自の母系的性格とに由来する二元性を残し続けておくことはできず、父権を社会全般に広げようとする方向へ傾く。
父系体制に匹敵する数の(おそらくそれ以上の)母系体制が存在するが、しかし母方居住を同時にとる母系体制の数は極端に少ない。出自様式がゆらぎを示すその裏に父方居住が恒常的に見られることは、人間社会を特徴づける基礎的関係、性のあいだの非対称性を物語る。
母系出自と父方居住の対立は、ドブ島やトロブリアンド諸島のキリウィナのように(トロブリアンドは1、2を参照)、双分組織の社会単位を地理的に接近させることで解消されている。これにより夫婦共同体〔婚姻家族〕が不断に引き裂かれることがなくなり、<男子集会所>は儀礼や政治での協力を通して夫と義理の兄弟とを団結させ、「持ち主」と「よそ者」のあいだの軋轢を解消する。
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次回は、純粋な限定交換が残るオーストラリアの四セクション体系(カリエラ型)、八下位セクション体系(アランダ型)を、引き続いて全面交換の本場アジア大陸へと行きますが、実際はかなり複雑な体系が存在します。
本稿の最後に、このような複雑な親族体系は構造論的に捉えられなければ実践できないが、それだけの能力が未開の思考に備わっていることを紹介します。
下図は、現在確認されているもっとも複雑な体系の一つであるアンブリン島の六クラス体系の図式だが、これは原住民が地面に石を置き線を引いて示したもので、一点の曇りもない明晰さをもって説明したという。
- posted by okatti at : 2010年08月20日 | コメント (5件)| トラックバック (0)
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comments
初めまして。
古代ローマが性的自由の結果、世界一の「悪魔おんな」を発生させたというのは、女から見ると、いささかステレオタイプの結論に思えます。心なしか家父長的、一神教的道徳を振りかざしているようにも感じられました。
「堕落を極めた享楽」ローマでも初代皇帝アウグストゥスの姉オクタヴィアのように貞淑な女もいたし、厳格な律法主義であるはずのユダヤにもアタルヤのような「悪魔おんな」もいました。性的基準はどうあれ、何時の時代に身勝手でわがままな女はいるのです。「堕落を極めた」というのも、後世のキリスト教的価値観もあると思います。
そして「悪魔おんな」とは、現代の超大国に多い風潮に見えますね。この国では信仰・思想の自由は認められていますが、キリスト教国であるのは書くまでもないでしょう。
ローマに限らず古代社会は奴隷制が当たり前でしたが、その奴隷商人として辣腕を振るったのこそユダヤ人でした。聖書にもアブラハムも奴隷を持ち、豊かになったことが描かれています。さらにヨセフがエジプトの奴隷制度を推進したも、記録されていますよ。
「ヨセフは、エジプト中のすべての農地をファラオのために買い上げた。飢饉が激しくなったので、エジプト人は皆自分の畑を売ったからである。土地はこうしてファラオのものとなった。また民については、エジプト領の端から端まで、ヨセフが彼らを奴隷にした」(創世記47:20-21)
もちろんユダヤ人は、古代ローマでも奴隷売買をしていたのは書くまでもない。何故か教科書的には高利貸しの面ばかりが紹介されてますが、奴隷貿易も利潤があったのです。シルクロードを牛耳ったソグド人も奴隷売買はしていた。
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