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2019年12月02日

新生児の共鳴動作⇒同期することで充足する機能⇒共認と聴覚進化

【1】「新生児の共鳴動作」
4ヶ月になる赤ん坊と遊んでいるときに、彼女と相当仲良くなってから、彼女の前で私の手のひらをゆっくり開いたり閉じたりした。すると彼女はじっと私の手に見入り、その動きに合わせて―自分の手を見ることなしに―指を開いたり閉めたりしたのであった。何回か続けるうちに、彼女は指ばかりでなく・・・・・。手のひらの動きに合わせるように彼女の口をパクパク動かしはじめ、終わりにはまるで(私の)動きで彼女の呼吸テンポまでコントロールできそうであった。私が手のひらを開閉している間に彼女はほとんどまばたきもせず、私が開閉を止めた時には夢から覚めたように一瞬ポカンとした感じであった。(共鳴動作を我が国で最初に報告した鈴木葉子氏)

このように、共鳴動作は、自分と他人が未分化なまま混淆し、融け合い、情動的に一体化したような関係でおこっている。

飢えや渇きという生理的な要求を満たす手段として子どもはこの動作をおこなっているのではない。むしろ目の前の刺激の動きに同調し一体化して自分も動くことそのものが快となり、この共鳴動作を活性化しているようである。「通じ合うことへの要求」というと言いすぎだろうか。

母親の語りかけに対する相互同期的行動にしても、共鳴動作にしても、子どもは、相手が人間だから、あるいは自分の母親だからというので反応しているわけではないのだが、その相手をしている母親の方は、子どもの反応を見ていると、「もう自分をわかって応えていてくれるのだ」という喜びの感情が湧いてくるのを禁じえない。そしてまさに「わたしがママよ」とでもいうべきはたらきかけが、さらに子どもの反応性を高めていくのであろう。

このように、共鳴動作はそれが生理的要求の満足ということから離れて、刺激と一体化すること自体に動機付けられ、人がその刺激としての役割をもっとも果しやすい点、しかも相手の人自身もその動作交換のなかに思わず引きこまれざるをえないような魅力をもっている点、そこにコミュニケーションの基盤にふさわしい性質を深く宿している行動といえるだろう。

【2】「同期することで充足する機能」
マダガスカルに棲む原猿のワオキツネザルとベローシファカは、猛禽類などに対して発する警戒音を相互に理解できるそうです。またクモザルの一種では、移動などの際に発する“ロングコール”と呼ばれる呼びかけ声が仲間一匹一匹に対して微妙に違っていて、彼らは各々それが誰に対して発せられたものかを理解できるそうです。まだ表情の乏しいこれらのサルでも、音声コミュニケーションはかなり発達していると言えそうです。

音声コミュニケーションの基盤は周波数情報の識別能力だと考えられますが、意味を持つ言語以前に、この声の表情が充足感情を規定する例はヒトでも多く見られます。例えば、誰かに襲われた個体の悲鳴は周囲の個体にとっては警戒音になるし、逆に催眠術などで安心感を与える時は低い声でゆっくり話すのが良いとされています。また、大人が乳児に話し掛ける時、無意識に声のトーンを上げるということも言われています。

これらの例も、「共認機能の基礎となっているのは共鳴(共振)機能」であることを示す一つの例かも知れませんが、おそらくこのような音声情報伝達能力は、ヒトやサル以外の動物にもある程度は備わっていると思われます(ex.母鳥はヒナ鳥の鳴声を識別できる)。

サルやヒトの共認機能は、このような緻密な周波数の識別能力を土台にして、相互の発する周波数が「同期」する時に充足回路が強く刺激される、という機能を塗り重ねたものかも知れません。とりわけ心音のビートやリズムが安心感やトランス状態を生み出しやすいのは、胎児期の記憶に繋がっていると同時に、自らの体にも心臓の鼓動として常にそのリズムを持っているからではないでしょうか。さらに、この同期充足回路を視覚情報の処理機能と結びつけることで、僅かな目や顔の動き、身振りから豊かに相手の感情を読み取ることも可能になったのではないでしょうか。

【3】「共認と聴覚進化」
霊長類の聴覚感度について、興味深い研究があります。
原猿では低音から高音(16kHz辺り)に向かって一定の感度上昇を示すのに対して、真猿になると、中低音(1kHz辺り)にピークを示し、中高音(4kHz辺り)では逆に感度が低下することがわかっています。また、原猿では32kHz程度の高周波にも高い感度を持っているのに対して、真猿になると感度が下がり、チンパンジーなどは上限が20kHz程度、つまりヒトと同程度となります。

ヒトの発声音は80Hzから1,100Hzです。サルの発声音を(詳細は不明ですが体格差を考えればヒトより高くなるはずです)仮に150Hz~1,500Hz程度とすると、聴感度のピークとほぼ一致することになります。

自然界のあらゆる音を対象にするならば、周波数によって感度に差を付ける必要は無いはず(聴覚の構造から生ずる機能差を除く)です。原猿が一定した聴覚感度曲線を示すことから、真猿になってはじめて、同類が発する音声に細心の注意を向け、それを聞いたみんなの共認を羅針盤とするようになった、ということではないかと考えられます。(中高音や高周波に感度低下が見られますが、これは中低音の感度を上げるため犠牲にしたのでしょう。)

それから、真猿の高周波に対する感度低下について。原猿にとっては、同類他者のオスが発する音(例えば移動に伴って起こる葉のさざめき等(=高周波))を真っ先に捉える必要があったと考えられます。ところが真猿は中低音の感度を上げるために高周波の感度を下げている。つまり、直接外敵を認識することよりも、仲間の声を認識することが優先されている。真猿にとっては、共認こそが収束すべき最先端機能であったということでしょう。

ちなみにヒトの場合は、一定した特性を示す原猿とも、中低音にピークを持つチンパンジーとも異なり、500Hzから4kHzまでは他の真猿と比べるとフラットな特性を持っている。したがって人類は、声に含まれる倍音(高調波成分)を豊かに捉えることができ、より微妙なニュアンスを聞き分られるようになっています。

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2019年12月02日

真猿の進化史年表(定説)

現在の定説となっているサルの進化史年表を掲げる。
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6500万年 生物の大量絶滅。恐竜絶滅。隕石落下で環境激変。寒冷化
原始霊長類の出現。モグラに似た哺乳類が樹上生活に適応
約5500万年前に現れたアダピス類が初期の霊長類
プルガトリウス、カルポレステス、プレシアダピス。
夜行性。鉤爪、親指の発達(対向指へ)。昆虫、果実食
従来は北米起源説
中国湖南省で最古霊長類の頭骨化石、アジア起源浮上

5500万年 温暖化。海底火山、マグマ熱でメタンハイドレート爆発
広葉樹、高緯度まで、樹冠=サルの楽園。原始原猿拡散、繁殖
ショショニアス:正面に並んだ目→立体視が可能
原始霊長類より原猿類と真猿類と分岐

4500万年 インド、ユーラシア大陸衝突、ヒマラヤ形成、テチス海消滅

4000万年 南極大陸で氷河の形成がはじまり、徐々に寒冷化。
高緯度地域の樹林が消え、サルはアフリカ、一部南アジアへ
カトピテクス:高い視力(眼窩後壁→視細胞集中→明瞭映像)
真猿下目の狭鼻下目(旧世界猿)と広鼻下目(新世界猿)分岐

3000万年 赤緑色盲に退化した哺乳類のうち狭鼻下目が3色型色覚再獲得。
(ビタミンCを豊富に含む色鮮やかな果実等の獲得と生存に有利)
狭鼻下目のヒト上科がオナガザル上科から分岐
ヒト上科=テナガザル、オランウータン、チンパンジー、ゴリラ、ヒト共通祖先

2500万年 アルプス・ヒマラヤ地帯などで山脈の形成がはじまる。
最古の類人猿と思われる化石(アフリカ、ケニヤ)

1500万年 急速な寒冷化
ヒト科とテナガザル科が分岐
ヒト亜科とオランウータン亜科が分岐
ヨーロッパ、南・東アジアなどユーラシア各地に類人猿化石

1000万年 アフリカ大地溝帯の形成が始まる(人類誕生に大きな影響か)

700万年  気温が下がり始める
最古人類化石は中央アフリカ、サヘラントロプス・チャデンシス

600万年  ヒト族とゴリラ族が分岐

500万年  ヒト亜族とチンパンジー亜族が分岐
猿人の出現。最初の人類とされる。
(華奢型猿人、アウストラロピテクスなど)
チンパンジーほどの大きさで、足の指の形から二足歩行の可能性
脳容積500 ml。一定の道具使用
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真猿の進化(系統分化)は以下のような軌跡を辿っている。
京都大学霊長類研究所「霊長類の進化とその系統樹」

【1】オモミス類(原猿)からメガネザル系統と初期真猿(の祖先)が分化

【2】4000~4500万年前真猿登場

【3】その後広鼻猿類(新世界ザル)と狭鼻猿類が分化。3500万年前?
狭鼻猿類がアフリカ大陸からアメリカ大陸に渡ったのは約2500年前と言われており(最古の化石がそれ)、当時はアフリカとアメリカ大陸は既に分離しており約500kmしか距離がなかったとはいえ、島伝いに奇跡的に渡った模様。おそらく狭鼻猿類に追われたものと考えられる。

【4】狭鼻猿類が旧世界ザルとホミノイド(類人猿含むテナガザル系)に分化(約2500~3000万年前)
その後旧世界ザルは尾長ザル系とコロブス系に分化

【5】ホミノイド(原テナガザル)から類人猿分化(1000~1500万年前)
以上が真猿の進化史の大きな流れとされている。

これらの過程では概ね進化するにつれて、大型化する傾向が見られる。(例えば新世界ザル<尾長ザル<テナガザル系<チンパンジー)

この過程は、南方の樹上という特権的世界を独占したサル類は、主要な敵が異種のサルとなったと考えられる。
そして、大型の新たな種が登場する度に、従来の種がその場を追われ、(もしくは淘汰され)追われた種は新天地を求めて、新たな環境に適応するという過程を辿ったのではないか。

また大型化のベクトルは種間の闘争のみならず、サルの集団内の序列闘争(ボス争い)でも有利に働く=より大型の血統が多く残るので進化と大型化の相関関係により拍車をかけた。

加えて原猿から追うとこの進化過程は単体→オスメス同棲の単雄複雌集団→複雄複雌の集団という過程である。つまり種間の闘争に勝ち残るために、概ね大型化と、集団化⇒知能の発達と言う二つのベクトルで発達してきた。

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2019年12月02日

分子系統学によって塗り替えられた人類の起源2~チンパンジー起源説が絶対化

●1980年代以降、分子系統学による霊長類分岐が全盛となる。
1981年、ヨーロッパ人の一個体でヒトのミトコンドリアDNA全塩基配列が報告される。
1987年、5地域147人のミトコンドリアDNAを調べて、ミトコンドリア・イブ仮説。
1995年、国立遺伝学研究所の宝来聡らが、類人猿4種(チンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータン)のミトコンドリアDNAの全塩基配列を解読。ヒトを合わせた5種のミトコンドリアDNAの塩基配列を比較して、チンパンジーがヒトと最も近縁であると結論づけた。

★宝来聡らの実験方法は次の通り。
5本のミトコンドリアDNAについて、一つの遺伝子を指定する配列の始まりと終わりを揃える。ミトコンドリアDNAの37種類の遺伝子のうち、タンパク質を指定する13種類の遺伝子では5本の配列は整列できたが、残りのtRNA遺伝子やrRNA遺伝子には、塩基に欠失や挿入により配列の長さが異なるので、調整した(どう調整したかは不明)。その上で、5本の配列間の塩基置換数(変異数)をコンピュータでカウント。

非同義変異数:RNA遺伝子変異数比が5種ともほぼ同じなので、分子変異速度は一定であるとして、非同義変異数とRNA遺伝子変異数を元に遺伝距離(相対距離)を計算している。オランウータンが分岐した絶対年代を1300万年前として、残り4種の分岐年代を推定。ゴリラ656±26万年前、ヒトとチンパンジーの分岐年代を487±23万年前とする系統樹を作成した。
※タンパク質を指定するDNAの塩基配列において、アミノ酸を変えない塩基置換(変異)を同義置換、アミノ酸を変化させる置換(変異)を非同義置換という。ヒト・類人猿5種では、圧倒的に同義置換が多いが、同義置換数ではオランウータンと他の4種との間で大差がない(あまり変異していない)。オランウータンの同義置換数を補正しても使えないので、分子変異速度一定に都合のよい非同義変異数RNA遺伝子変異数を使って、遺伝距離を推定している。

2001年、ヒトゲノムの配列発表。2005年、チンパンジーのゲノム配列発表。
(チンパンジー以外の類人猿の全ゲノムの解読は未了2009年段階)

2006年、ヒト・チンパンジー・ゴリラの252の遺伝子座(染色体やゲノムにおける遺伝子の位置)の比較では、ヒトとチンパンジーが近縁であることを示すのが110個(44%)、ヒトとゴリラが近縁であることを示すのが45個(18%)、チンパンジーとゴリラが近縁であることを示すのが38個(15%)、系統関係がはっきりしないのが59個(23%)で、ヒトとチンパンジー近縁を示すのは半分もない。ところが、このような事は、種分化が短期間に連続して生じ、かつ集団の個体数が大きい場合には一定の確率で生じることが理論的に示されているらしい。

※ヒトとチンパンジーのゲノム配列を比較すると1.23%の違いとされているが、この数値は相同なゲノム領域を比較した時の数値であって、一方の種には見つかる領域が他方にはないというように、構造の違いも指摘されている。

※ヒトはチンパンジーと分岐したというのが定説化したものの、その化石は発見されていない。
チンパンジーやゴリラ・ヒトの共通祖先の有力候補とされるのが、ヨーロッパで多数発見されているドリオピテクス(1200~900万年前)であるが、異論もあって未確定。実際、ドリオピテクスの化石にはヒトとオランウータンの特徴も入り混じっているらしい。また、現生人類とオランウータンの間で共通する形態的・生理的特徴が多いので、ヒトはチンパンジーやゴリラよりもオランウータンに近い主張する学者が未だに存在する。
また、分子系統学が前提とするのが分子時計の仮定「分子の変異速度が一定」であるが、種によって分子変異速度は異なっておりること、実際、分子時計による分岐年代と古生物学的な推定年代とが大幅に食い違っていることがいくつも報告されている。
「分子時計による分岐年代決定法の矛盾点」
「生物は外圧適応態であり、急激に外圧が変化すれば変異スピードは著しく早くなる。実際、カンブリア大爆発や哺乳類の適応放散をはじめとして、急速に進化する事例は生物史には無数にある。また、紫外線による破損やコピーミスをはじめとしてDNAの突然変異は日常的に起こっているが、それは修復酵素によって修復されている。その修復度合いも種によって異なっており、分子の変異速度が一定になるはずがないのである。」

【参考】
『新しい霊長類学』京都大学霊長類研究所 講談社ブルーバックス
『ヒトはどのようにしてつくられたか』山極寿一 岩波書店
『シリーズ進化学5 ヒトの進化』斎藤成也 岩波書店
『DNA人類進化学』宝来聡 岩波科学ライブラリー
『DNAに刻まれたヒトの歴史』長谷川正美 岩波書店
『アナザー人類興亡史』金子隆一 技術評論社

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2019年12月02日

分子系統学によって塗り替えられた人類の起源1~アジア起源説→アフリカ起源説へ

人類は、500万年前、チンパンジーとの共通祖先から分岐したというのが定説になっているが、その定説はどのような根拠で成立したのか?
1960年以前は化石を元にしたアジア起源説だったのが、次第に、分子時計を前提とした分子系統学によってアフリカ起源説に塗り替わっていったらしい。
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●1932年、インドのシワリク高原でラマピテクスの上顎・下顎と歯の化石(1400~800万年前)。歯列や犬歯・臼歯の形や質が類人猿よりも人類に似ていたので、60年代にはラマピテクスが人類の直系祖先とされるようになった。人類はラマピテクス以前に分岐したとされ、当時の人類学の教科書では、類人猿とヒトの分岐は4000~3000万年前と書かれていた。

●1960年代に分子系統学による種間距離の測定が始まる。
グッドマンは、抗原抗体反応の大きさを使って霊長類種間の免疫学的距離を推定した。
ヒトの血清タンパク質をウサギに注射すると、ウサギはヒト血清タンパク質に対する抗体をつくる。その抗体を含むウサギの血清(抗ヒトタンパク質血清)をヒトやサルの血清と混ぜる。ヒトの血清とは強く抗原抗体反応を起こし沈殿物が多く出る。チンパンジーやゴリラの血清との反応よりも、オランウータンの血清との反応は明らかに弱かった。反応が強いほど、ヒトの血清タンパク質とアミノ酸配列が似ていると考えて、グッドマンはオランウータンよりもチンパンジー・ゴリラの方がヒトに近いと結論づけた。

1967年、サリッチとウィルソンは免疫抗体法で推定したヒトや類人猿の免疫学的距離に分子時計の考え方を導入して、分岐年代を推定した。
ヒト・チンパンジー・オナガザルの血清アルブミン抗体をつくり、ヒトや類人猿、オナガザルの血清と反応させ、ヒト・チンパンジー・ゴリラ・ウランウータン・テナガザルの免疫学的距離を推定、ヒトはオランウータンよりもチンパンジー・ゴリラに近縁であると結論づけた。
さらに、種間の免疫学的距離の常用対数が2種の分岐年代に比例すると仮定して相対的な分岐年代を推定。オナガザルと類人猿が分岐した絶対年代を化石記録から3000万年前と固定。そこから計算してチンパンジー・ゴリラとヒトが分岐したのを500万年前と推定した。

●分子生物学者と化石学者(1400万年前のラマピテクス説)との間で論争が始まるが、次第に分子系統学派が優勢になってゆく。
例えば、1970年代には、雑種DNA形成法による遺伝的距離の測定が始まる。
比較する動物の二本鎖DNAをほぐして一本鎖にし、混ぜ合わすと二種のDNAが組み合わさった雑種DNAができる。二種の動物のDNAでは塩基配列が少しずつ違うので、雑種DNAでは、元のDNAのような結合対は組めなくなり、熱的に不安定になる。熱安定性の低下の度合いを図ることで、DNA塩基が異なっている割合を推定する。これが雑種DNA形成法。
1977年、サリッチとクローニンは、免疫学的距離と雑種DNA形成法による遺伝的距離を測り、オランウータンが分かれたのが1100~900万年前、ヒト・チンパンジー・ゴリラが分かれたのが500~400万年と結論づけた。

1978年、パキスタンのポトワール高原でシヴァピテクスと呼ばれる類人猿の顔面と頭蓋片の化石が発見された。化石形状からシヴァピテクスがオランウータンの祖先とされると同時に、ラマピテクスもシヴァピテクスのメスであり、オランウータンの祖先と看做されるようになる。1980年代以降、人類のアジア起源説は廃れ、500万年前アフリカ起源説が学界の定説となった。
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【参考】
『新しい霊長類学』京都大学霊長類研究所 講談社ブルーバックス
『ヒトはどのようにしてつくられたか』山極寿一 岩波書店
『シリーズ進化学5 ヒトの進化』斎藤成也 岩波書店
『DNA人類進化学』宝来聡 岩波科学ライブラリー
『DNAに刻まれたヒトの歴史』長谷川正美 岩波書店
『アナザー人類興亡史』金子隆一 技術評論社

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2019年11月26日

千島学説の進化論 ~生命現象は変化と発展性のある螺旋運動~

生物学に関して実に特異な説を幾つも発表されている故・千島喜久男氏(1899-1978:中等学校教師、九州帝国大学助手、岐阜大学教授)。
千島教授は、科学研究の方法論としての心身一如の生命弁証法を唱えておられています。生命弁証法とは、「生命は時々刻々として変化して止まない。その変化の働きは生命や自然がその本質に歪みをもっているからである。」とするものです。

以下、忰山紀一著「千島学説入門」(地湧社)から引用します。

千島教授の『自伝』によりますと、教授が生命弁証法の発想を得たのは、24歳の時で1922年のこととあります。「極大の世界である太陽系と、極微の世界である原子とがおたがいによく似た構造をもっているとしたら、その中間にある人間や生物も、また、そうした対立と循環的繰り返しをもつに違いない。」 
その頃、千島教授はニーチェの「われわれの現在の状況は過去においても無数回繰り返してきたし、未来にも無数回繰り返すものだ」の言葉にも感動を受けたのです。その後、仏教に「輪廻思想」のあることを知った教授は、「すべては循環的に繰り返すもの」だと考え、自分のテーマを「生命の循環説」とひそかに仮称していたのでした。

ところが、千島教授がこの問題を調べていくと、生命現象は幾分ちがったものに見えてきたのです。すなわち、同一の軌道を繰り返す循環的な円運動ではなく「変化と発展性のある螺旋運動」であることが解ってきたのです。しかも、螺旋の根源には左右不相称の歪みと、波動や周期性の組み合わせがあることも、だんだん解って来たのです。そこで千島教綬は「生命の循環説」を改めて「生命現象の波動・螺旋性」をテーマに取り組みます。
これを理論と事実に基づいて体系づけるには、単に生物学の枠内ではいけないと考えました。すなわち、形態、現象、運動などだけではなく、思想や社会、さらに大自然という宇宙とのつながりで考えねばならないと思ったのです。そこで教授は、物理、化学、天文、地学をはじめとする自然科学を学び、哲学、宗教、芸術など精神科学の資料を集め、広く検討をかさねたのでした。

若き日にこのテーマを得た千島教授は、時間と空間を永い眼で観る習慣が自然と養われたのでしょう。それは、その後の血液研究や現代生物学、医学に新しい学説を構成する時に、大きく役立つことになります。
「自然の法則は人間の便宜的な分析を越えたところにあります。自然界には飛躍はけっしてありません。突然変異などというものは、実際にはあり得ずそのメカニズムが解明できないからそう言っているだけです。自然界に突然変異はありません。自然界のすべては連続しています。形式論理で峻別するほど単純なものではないのです。それを無理に、あるいは意図的に区別することから、間違った考え方や科学が生まれてくるのです」

◆すべての事象は時間の経過と場所の変化によって絶えず流転する
千島教授は生命弁証法でそのように言っています。そして、地球上のどのようなものでも、永久に変わらないものは何もないと言っています。すなわち万物流転です。千島教授は「生殖細胞の血球由来説」という自説の獲得性遺伝の肯定という立場から、ルイセンコを支持する論文を発表しします。
ルイセンコは「栄養雑種説」「発育段階説」「隔離雑種説」の3つの方法で、植物個体の本性は不安定な状態となり変異を起こしやすくなり、その変異した種は子孫に遺伝すると主張したのです。このように、ルイセンコの学説は、環境の重要性と遺伝の可変性で構成されています。
(大半の学者は)ルイセンコ学説が弁証法をその方法論としていることを批判しているが、千島教授にすれば、遺伝や進化のように時空の広がりの大きい問題を理解するには、樹を見て森を見ない形式論理的な判断より弁証法の方が、それがたとえ唯物的弁証法であろうとも、自然を見る眼としては優れていると考えます。

生物学や遺伝学はその国の社会体制と深く結びついています。政治や思想を超越して真実を語るのが科学、生物学の任務でなければならないはずです。しかし、一部の特権階級、支配階級は現状維持を望み、そうした保守派に迎合する遺伝学者は、必然的にそれに好都合な遺伝学理論を組みたてます。その代表がメンデル・モルガンの正統遺伝学派です。

「遺伝的性質は環境の影響で変わるものではない。親から受けた遺伝質は子や孫に至るまで不変のまま伝わる。すなわち、生まれつきが大切である。生まれてから努力しても、もって生まれた遺伝的性質は変わらないものだ。」メンデル・モルガンの遺伝学は、そう言っています。
しかし、古来から聖賢、偉人、天才とうたわれた人々は、むしろ、名もない市井や田舎の普通の親を持った人が多くいます。その生まれつきの遺伝性はあったにしても、生まれてからの環境によってその人間性を育て上げられて、偉大な仕事をなし得た人々が多いのです。これらは、環境と努力が生まれつきの素質と共鳴し合った結果です。遺伝と環境、生殖細胞と体細胞とを無関係だと峻別する現代遺伝学は、理論と実際から再検討する必要がある。

その後、千島教授は新事実を発見しました。「人間や哺乳動物の赤血球は無核である。その赤血球のなかに核を新生し白血球に移行する。その白血球が多数集まり溶け合って、生殖細胞に分化する。人間の場合、妊娠1カ月前に生殖細胞やその核が出来る。」千島教授は血球から生殖細胞が新生される事実を、顕微鏡写真に撮りました。赤血球は体細胞の一種です。体細胞と生殖細胞は無縁ではなく、連続していたわけですが、この千島説を、現代生物学者や遺伝学者は承認しませんでした。現代の遺伝学の権威者は、メンデル・モルガニズムの一辺倒ですから、その根底を崩し遺伝学の第1ページから書き変える新説を、容易なことでは認めることはできません。千島説に対して否定する研究(追試)をすればよさそうなものですが、メンデル以来百年という伝統に依存し、新説に対して黙殺という態度をとり続けて現在に及んでいます。

「生殖細胞の起源」の問題は、遺伝学の根本であり出発点であるはずです。生物はその特性として、環境に適応する性質をもっており、その形質は一代限りではなく、子孫に影響するとする千島の遺伝学は、現代進化論の考え方に対しても、波紋をよびます。進化の根本要因が、生存競争でもなく、突然変異でもないとすれば、それは何でしょうか。千島教授は、それは相互扶助だと言ったのです。生物学の述語を使えば、2種以上の生物がおたがいに相手方に利益を与え、相手からも利益を得て共に生きること、すなわち共生こそ、進化の根本要因だと述べました。

千島教授が、微生物の世界が「共生」によって進化している事実を発見し、有機物分子のAFD現象によってバクテリアの発生、バクテリアのAFD現象による原生動物への進化、さらにその原生動物のAFD現象によって多細胞生物への進化すると考えます、これはまさしく共生が要因になっています。なぜなら、前述したように「AFD現象」とは、要素が集まりそれが溶け合ってそれが分化発展するという、過程の述語です。

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2019年11月24日

母系(母権)の研究3~母系を紐帯とする哺乳類の群れ社会

『哺乳類の生物学4~社会』(三浦慎吾著、東京大学出版会 1998)より転載。

●食肉類の母系社会
食肉類の多くは単独性社会をもち、群れ社会をもつものはわずか10~15%である。
群れはいずれも複数のメスと少数のオスによって構成される。そして、そのほとんどでは、メスには血縁的なつながりがあり、オスは一時的な滞在者に過ぎないことで共通している。
その代表がライオンのプライドである。プライドは複数の血縁的なメスと子ども、少数のオスたち(「連合」とよばれる)によって構成されるが、オスの連合はメスの群れの所有をめぐって別の連合と激しく闘う。この結果、オスは2~3年で別のオスたちと入れ替わる。
食肉類の群れ社会もまた、メスの血縁を基盤に成立しているといえよう。
ただし、これには例外がある。イヌ科である。キツネ、オオカミ、ジャッカルなどでは特定のオスとメスが安定したペアをつくり、毎年繰り返して繁殖を行う、ペアの結びつきは強く、協同でハンティングを行う。そこで生まれた子どもは分散せずに、比較的長い時間群れに居残る。かれらは明らかに一夫一妻を基礎とした群れ社会をつくる。ただし、哺乳類全体でいえば、きわめてまれな社会である。

●メスとオスの生活原理と母系社会
これまでに、げっ歯類、有蹄類、食肉類の群れ社会を駆け足でスケッチしてきたが、これらをまとめると、哺乳類の群れ社会の原型は、メス(母親)とその娘を核にした母系的な結びつきであるといえるだろう。このことは、霊長類やクジラ類など、その他の動物群でも基本的に共通している。

ただ、イヌ科(や一部の霊長類)に見られるように、オスとメスのペアを基礎に子どもが結びつく場合もあるが、これは全体からみればほとんど例外に近い。ペア型は子どもの分散をを前提に成立する社会であり、それ自体がひとつの完結系であるので、集団化の諸端にはなりにくい。哺乳類の群れ社会の主流は、メスの血縁的な結びつきから出発し、餌の量や分布、天敵の圧力といったさまざまな生態的条件と結びついて複数のメス群が合流し、その上に高い繁殖成功度を求めてオスが加わり、多様で複雑な群れ社会が構築されていったと考えられる。

ところで、私たちは、ヒトの社会の原型が一夫一妻にあると考えがちである。しかし、はたしてそうだろうか。哺乳類全体の検証は、一夫一妻を原型とした社会進化がかなり特殊な事例であることを示している。私は、ヒトの社会の進化も哺乳類の一般的な筋道、つまりメスの集団化を軸に展開されたにちがいないと考えている。
ヒト社会の原型については、人類学や民族学の立場からさまざまな見解が提出されているが、血縁どうしのメスの結合による母系社会がまず成立し、その中に父系社会が胚始したとする「進化主義」の親族理論が有力である(江守)。また、霊長類学の立場からは、伊谷、河合や山極がメスの集団化の重要性を指摘している。なかでも河合は、草原性ヒヒ類をモデルとして、複数オスが入り込む母系的な集団を核とした重層的な地域社会の成立を人類社会の原型としてとらえている。
※上の文中で紹介されている著者と書籍
・江守:江守五夫「母権と父権」
・伊谷:伊谷純一郎「霊長類の社会構造」「霊長類社会の進化」
・河合:河合雅雄「人間の由来」
・山極:山極寿一「家族の起源」
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このように、哺乳類の群れ社会の原型は、メス(母親)とその娘を核にした母系的な結びつきということだ。
哺乳類で例外的に父系(息子残留、娘移籍)を採っている種に、リカオンやチンパンジーがいる。いずれも大型集団を形成できるところまで進化した種で、リカオンはライオンなどの外敵闘争圧力、チンパンジーは同種他集団との縄張り闘争圧力に晒されている。それらの高い外圧に適応するため、群れの戦闘力を高めることが出来る息子残留という様式を採ったのだと考えられる。

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2019年11月24日

母系(母権)の研究2~哺乳類(げっ歯類と有蹄類)の母系社会

『哺乳類の生物学4~社会』(三浦慎吾著、東京大学出版会 1998)より転載。

●げっ歯類の母系社会
ジリス類、プレーリードック類が典型的な群れ社会をもつ。いずれも昼行性で、ユーラシアと北米のステップやプレーリー、山岳草原などの開放的な環境に巣穴を掘って生活している。その社会的結合の程度にはさまざまな違いが見られる。
ウッドチャックやフランクリンジリスは、オスもメスも単独性でそれぞれが縄張りを持っている。生まれた子どもは巣穴の外で餌をとれるようになると、分散し別になわばりを確立する。この社会は、厳格な単独生活者のそれである。

群れ社会の萌芽はベルディングジリス、リチャードソンジリス、オジロプレイリードッグなどにみられる。
メスは自分の生まれた巣穴に定着するが、オスは成長とともに分散する。このためひとつの巣穴には母親、祖母、姉妹といったメスたちがともに生活する。こうした血縁同士の集団は「クラン」とよばれる。クランのサイズは最大で15頭である。
彼女らの結びつきは強く、結束して巣穴とその周辺をなわばりとして、ほかのクランから防衛する。天敵が近づくと警戒音を発し、協同で警戒する。オスは単独で別のなわばりをもち、メスが発情したときにだけメスのなわばりに入るのが許される。

キバラマーモットは、基本的に前者と同じだが、そこに別の群れから移動してきたオスが一頭加わり、協同してなわばりを防衛する。しかし、オスの定着期間は2~3年で、別のオスに入れ替わる。
オリンピックマーモットやオグロプレイリードッグでは、さらに2~3頭のオスが加わり、血縁関係にあるメスといっしょになわばりを防衛する。これらのオスも別の群れから移動してくる。プレーリードッグの群れ(コーテリー)のメンバーの結びつきは強く、協同して巣穴を掘ったり、防衛や警戒行動を行う。メスは共同授乳して、ほかのメスの子どもも分け隔てなく育てる。

ジリスやマーモット類の社会を概観すると、その安定性や持続性、共通性からみて、単独性社会から群れ社会への移行がメスの血縁的な関係を基礎に出発していることがわかる。オスが加入する群れもあるが、基本的にはオスは一時的な訪問者であり、定着期間は短い。オスは群れの形成者とはなりえていない。

●有蹄類の母系社会
森林性の小型有蹄類は単独性社会をもつ。かれらのなかには、ディクディクやダイカー類、ニホンカモシカのように、オスとメスがほぼ同じなわばりをもち、繁殖期にペアを形成するものがいる。しかし、オスとメスの結びつきは繁殖期だけにかぎられ、このペアは群れ社会の基礎とはならない。

偶蹄類のなかで、群れ社会への移行段階として注目できるのはノロジカである。ノロジカはユーラシアの低木地帯に広くみられる体重15~30Kgの中型のシカである。オスは実際になわばりをもつことが行動の観察から明らかにされている。いっぽう、メスのホームレンジ(生活領域、行動圏)は大幅に重なり合い、同所的に複数の個体が共存していることがわかる。オスのなわばりはメスのホームレンジを囲うように形成されている。このことはかれらが一夫多妻型の配偶システムを持つことを示唆しているが、単独性社会と同様に、オスとメスの結びつきは恒常的なものではない。

さて、注目すべきはホームレンジを重ねあう複数のメスの存在である。よく注意すると、彼女らは地域ごとにまとまってクラスターをつくっていることがわかる。そして、クラスターどうしはたがいに分離する傾向がある。ひとつひとつのクラスターはオトナメスとその娘たちによって構成され、彼女らは日常的に群れをつくることが観察されている。クラスターをつくるオトナメス相互の排除的な関係は維持されつつも、血縁関係にあるメスたちは同所的に共存し、血縁群をつくる。その輪郭は群れ社会への移行段階にあるジリス類とまったく同じで、有蹄類の群れ社会の萌芽もここにみてとれる。

大型の有蹄類のほとんどは群れ社会をもつ。群れの構成やサイズはさまざまであるが、大きく分けると2つのタイプがある。
ひとつは、メスとオスは別々の群れをつくり、繁殖期に合流するもの。
もうひとつは、年間を通じて複数のメスと少数(1頭のことが多い)のオスからなるハレム型の混群をつくるものである。
前者にはシカ類やアンテロープ類が属し、後者にはウマ類やビクーニャなどがあてはまる。
いずれのタイプにしても、メスは安定した統合性の高い群れをつくる。これに対し、オスは独自の群れをつくるか、単独で行動するか、メスの群れに加わるかのいずれかであるが、どの場合でも離合集散は激しく、帰属は安定しない。こうしてみると、有蹄類の群れ社会はメスの群れを基盤に成立していることがわかる。そして、その骨格は結局、母系的な血縁群(クラン)にあると考えられる。

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2019年11月22日

類人猿(テナガ・ゴリラ・チンパンジー・ボノボ・オランウータン)の母子関係

京都大学霊長類研究所「人間と類人猿の子育ち・子育てについて考える」より転載。
●昆虫や魚、などでは,大量に卵を産むだけで,子育てをしない種も多い。鳥類では,親が卵を温めたり,ヒナに食物を与えたりして子育てをする。 哺乳類では,親が子どもを産んで,母乳を与えて育てる。霊長類では少ない数の子どもを産み、子どもが親にしがみついて母子が密着して生活し、 子育ての期間も長い。とくに人間に近い類人猿では,より子育ての期間が長くなり、 親子の関係性もより複雑になる。そして,飼育下の類人猿では,育児放棄や育児困難などの事例が見られることもある。

【1】テナガザルは,おとなの男性とおとなの女性がペアになって子育てをする。父親・母親・それぞれ3歳ほど年のはなれた兄弟が数人という,人間の核家族のような集団でくらしている。井上陽ーさんの観察によると、2歳半ごろまでの子どもは,母親にべったりだが,それ以降は父親に抱かれて移動したり,父親と遊んだりすることがでてくる。3歳ごろに、母親が下の子どもを産んで,その子育てに集中するようになり,兄や姉は家族とともにくらしながら,10歳ごろまでに自立するすべを身に付けていく。

【2】ゴリラは,シルバーバックとよばれるおとなの男性が1人と,複数の女性がともにくらしている。野生のゴリラの子どもは,母親のちがう同年代の仲間たちとすごすことも多い。また,子どもが父親に遊んでもらったり,守ってもらったりすることも他の類人猿に比べて多い。竹ノ下祐二さんの飼育下ゴリラの研究から,意外な母親の役割が明らかになった。母親が子どもを叱らない,つねに子どもの味方をするというのは,他の類人猿たちとあまり変わらない。ちがうのは,母親が子どもと遊ばないということだ。母親は,我が子が他の女性や父親と遊ぶなどの社会的な交渉をもつことを促すように仕向ける。母親以外のおとなは子どもと遊びたくても,子どもが自ら近づいてきて遊んでくれるのをじっと待つ。母親が見守る中で、子どもと父親が少しずつ間合いをつめていくが,あまりにもゆっくりしていて,録画したビデオを4倍速で見ないとそれが社会的交渉だということがわからないこともあるそうだ。父親と子どものきずなもあり,一時的に父親が子どもと母親から離れてくらすようになった直後は,一日中父親のほうを見にいって,ないてばかりいたそうだ。

【3】チンパンジーは複数のおとなの男性と,複数のおとなの女性が一つの群れでくらす。飼育下では,管理のしやすさから,おとなの男性が1人だけということもある。また,野生では群れの中に同年代の子どもたちが複数いるのが普通だが,飼育下では子育てをしている母親の数が圧倒的に少ない。そのため子育てのしかたを学習する機会が少なく,子どもを産んでも育児拒否をしたり、うまく授乳ができないなどの育児困難が見られたりする事例もある。しかし岸本健さんらの研究から,双子チンパンジーの一方の世話を,母親以外の女性が分担することで、2人とも無事に育った事例が確認された。

【4】ボノボでは,基本的な群れの構造はチンパンジーとほぼ同じだ。しかし,女性が偽の発情をしたり,性的行動を社会的交渉に用いたりすることで,男性間の競合が和らげられて,チンパンジーよりも平和なくらしをしている。ザンナ・クレイさんらの研究から,興味深い発見があった。ボノボがくらすコンゴ民主共和国にあるサンクチュアリでは,食肉などの目的で母親をなくしたボノボが孤児として保護されてやってくる。もともと孤児として入ってきたボノボが成長して出産し、子どもを育てる事例も増えた。孤児の子どもと,母親に育てられている子どもを比べると、母親に育てられている子どものほうが、けんかでやられた仲間をなぐさめたりする行動がより頻繁に観察されたそうだ。けんかのときになきやむまでの時間も短く,より自分の感情をコントロールできることがわかった。母親に育てられるということが,社会的な行動や情動の発達にとって重要だといえる。
オランウータン母子
図: 母親のもつ食べ物にかじりつくオランウータンの子ども。
【5】オランウータンは出産間隔が約7年と,他の類人猿に比べても長い子育て期間をもつ。2歳ごろまでは,母子がほぼ密着して生活している。オランウータンはゆるやかな地域社会をもつが,単独ですごす傾向が強い。そのため,子どもは生きていくために必要な知識や技術を,すべて母親から学ぶ必要がある。山本英実さんらの観察から,オランウータンの母子では,子どものはたらきかけに応じて母親が食物をもつ手の動きを止めるという形で,食物分配が頻繁におこる可能性も示唆されている(図)。子どもは母親との強いきずなの中で,食物レパートリーや,樹上でくらすすべや,寝るための巣を作る方法などについて, 時間をかけて学んでいく。

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2019年11月21日

人類とオランウータンの類似点

チンパンジー起源説に対して、現生人類に最も近いのはオランウータンだとする主張がいくつも提起されている。

●オランウータンと人類は身体的に酷似している。
以下、「Journal of Biogeography」に掲載された論文の骨子(米バッファロー科学博物館ジョン・グレハン氏とピッツバーグ大学ジェフリー・シュワルツ氏)「National Geographic」2009.6.23
人間をチンパンジーと結び付ける遺伝的な証拠によって、この事実は軽視されてきたが、遺伝的な証拠そのものに欠陥がある。
2005年、チンパンジーのゲノム解読によって人間とチンパンジーは遺伝学的に96%同一であることが証明されたというが、DNA鑑定は人間とチンパンジーのゲノムのごく一部しか調べておらず、しかも、多くの動物が共有する古いDNAの形質が人間とチンパンジーの類似点として挙げられている。
それに対して、身体的な特徴に注目すると、オランウータンの方が類似点が多い。人間とオランウータンは固有の身体的な特徴を少なくとも28個共有する。チンパンジーは2つ、ゴリラは7つしか共有していない。

オランウータンと人類が共有する特徴は、
【1】エナメル質が厚く表面が平らな大臼歯、他の動物より非対称な右脳と左脳、前腕の軟骨と骨の比率に大きな差があること、肩甲骨の形など。
【2】人間に固有のものとされてきた口蓋の穴が、オランウータンにもある。
【3】人間とオランウータンは他の動物より乳腺が広範囲に分布している。
【4】ともに最も髪を長く伸ばす動物である。他の霊長類と違って、生え際が存在し、そこから目の上まで髪を下ろす。
【5】アフリカやヨーロッパで発掘された古代の類人猿の歯とあごに、オランウータンのような特徴がある。

それらの類似点を踏まえてシュワルツ氏らは、人間とオランウータンは共通の祖先を持ち、現存するアフリカの類人猿はそこに含まれていないとする。
人間の祖先はオランウータンに似ており、約1300万年前、アフリカやヨーロッパ、アジアに広く分布していたと推測。その後、気候や環境が変化して多くの種が絶滅し、アジアの種とアフリカの種は独自に進化したとしている。
ロンドンの自然史博物館アンドリュース氏はチンパンジー起源説だが、「チンパンジーと人間を結び付けるような(身体的)特徴は皆無に等しい。ほとんど分子的な証拠のみに基づいて結び付けられている」と言う。

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他にもある。
●目の構造と、顔の形態に雄雌の性差がある。
白目と黒目は、ヒトとオランウータンだけだという。
「オランウータンとヒト、形態から考える」京都大学野生動物研究センター幸島教授
ヒトの目の特徴は、
【1】黒目の外側の「露出強膜」が白い
【2】目の中で露出強膜(白目)の占める割合が大きい
【3】目の輪郭が横長
大部分の霊長類が露出強膜をこげ茶色にしているなかで、ヒトだけがまったく色素がない。
白目の大きさは「白目が大きいほど黒目が小さくなり、黒目を動かせる余地が広がる」「体が大きいほど、目玉だけを動かして見る方向を変えたほうが効率が良い」といわれているが、もうひとつ、白目がある理由として「視線を強調する狙いがあるのではないか」と指摘している。「目は口ほどにものを言う」ことからも、ヒトにとって言葉以前に視線は相手の感情を読み取るコミュニケーション機能だ。
幸島教授によると、こうした指摘は形態が似たオランウータンにもできそうだという。
オランウータンはしばしば相手をじっと見つめ、何か考え込む様子をすることから「森の哲人」と呼ばれている。樹上で互いに見たり見られたりすることでコミュニケーションをとっているのではないか、というのが幸島教授の推測だ。
さらにオランウータンの特徴である顔の性差が出るのが目の周辺であることにも着目。年を取るにつれて雄と雌の間で顔の色や特徴の違いが出てくることを指摘。

●血液型の多様性(特にO型があるのはオランウータンと人間のみ)
以下、「日本人は何処から来たか」の要約。
オランウータンは、A型、B型、O型、AB型(人間と同じ)。チンパンジーはほとんどA型、O型がまれで、B型は皆無。ゴリラはB型のみ。オランウータンの祖先のテナガザルにはA型、B型、AB型だけでO型がない。
血液型は多様性の獲得。O型はA型、B型両方に抗体をもっている。逆にA型とB型はO型に対する抗体が無い。O型は最後に生まれた血液型であろう。
とすれば、オランウータンと人間がO型を有しているということは、両社の親近性を示している。 東南アジア人にはO型が多いという。

●ゴリラとチンパンジーの雌には発情期があるが、人間とオラウータンにはなく、いつでも受け入れ可能である。
また、ゴリラとチンパンジーの交尾は短く後背位のみであるが、人間とオラウータンのそれは長く動物界でこの二者のみ正常位をおこなう。
探検塾『オラウータンと人類の起源 (ジェフリー・シュワルツ著)』書評
他にも次のような類似点が挙がっている。
●ゴリラとチンパンジーは歩くときにナックルウォークするように手の骨ができているので、手のひらは平らに伸ばせない。人間とオラウータンは伸ばせる。
●人間は霊長類で一番頭の毛が長い。オラウータンも顔が隠れるくらい長いが、ゴリラ・チンパンジーは短髪である。
●人間の脳は左右非対称で、そのために右利きが多い。オラウータンも左右非対称で、母が子を抱くときに右腕を利き腕として使うことが多い。チンパンジーには利き腕がない。
●ゴリラとチンパンジーには尻だこがあるが、人間とオラウータンにはない。

●分子系統学の手法の一つ最節約法で解析すると、人類とオランウータンには共通祖先がいたという結果が出る。
最節約法については分子系統学の基礎
以下、「ヒトに最も近いのはオランウータン?:異説・珍説の扱い方」の要約。
最節約法を使って、現存大型霊長類(ヒト、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン)とアフリカ、アジア、ヨーロッパの化石大型類人猿との間での(形態形質による)系統関係を調べた。
解析の結果、現存大型霊長類は単系統で、二つの姉妹群(ヒト+オランウータン、チンパンジー・ボノボ+ゴリラ)が検出された。ヒト+オランウータンには、化石人類および中新世の類人猿が含まれていた。
つまり、ヒトとオランウータンには(アフリカの類人猿をのぞく)共通祖先がいた可能性がある。
その共通祖先は、少なくとも1300万年前までは広い分布をもっており、その後の分断分布によって、東アフリカのヒト科人類や、スペインから東南アジアに分布する中新世の類人猿へとなった可能性がある。

(※分子系統学は条件設定によって如何様にも結論が変えられるので決定的な証拠にはならないが、分子系統学的にも人類とオランウータンの共通祖先説が成立することを示している)

●1960年代まではインドのラマピテクスの化石(1400~800万年前)の歯列や犬歯・臼歯が人類に似ていたので、ラマピテクスが人類の祖先とされていたが、1980年代以降、分子系統学によってこの説は葬られ、チンパンジー起源説一色となった。そして、ラマピテクスはオランウータンの祖先と看做されるようになった。「1960年以前は人類アジア起源説」
しかし、オランウータンと人類が近縁なのであれば、葬り去られたラマピテクス起源説の方が正しかったのではないだろうか。
少なくとも、当てにならない分子時計法しか根拠がないチンパンジー起源説よりも事実に近いと思われる。

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2019年11月17日

体毛・羽毛の構成物質と発達過程

●定説上の結論
ほ乳類の毛も爬虫類の鱗も鳥類の羽毛も皮膚の角質化によって生じたもので、まとめて羽毛と呼ばれる。
※但し、哺乳類の毛は皮膚の角質層からできている=皮膚から派生したが、羽毛は角質層からできた毛ではないと主張する者もいる(根拠は不明)。
「コウモリが哺乳類である理由、鳥類との違いや特徴を教えます!」

●毛を構成する物質
魚類の鱗は真皮の内側に発達した骨格でリン酸カルシウムが主成分だが、爬虫類の鱗は表皮起源でケラチンが主体。
古生代の両生類の一部には、魚類と同じ皮骨性の鱗があった。
3億年前 エリオプスの鱗は退化した小さな骨片状で、皮膚を完全には覆っていなかったが、トリメロラキスの鱗は互いに重なり合い、魚と同じような構造だった。
現生の両生類では、アシナシイモリの体の皺の間に痕跡的な鱗がある。

動物の毛の乾燥重量の90%以上はケラチンと呼ばれるタンパク質。ケラチンは細胞骨格を構成するタンパク質の一つで、毛や爪等のほか、爬虫類や鳥類の鱗、嘴などといった角質組織を構成している。
哺乳類の毛、鳥類の羽毛、爬虫類の鱗は、上皮組織の一部であり、その細胞構造を共通の祖先から受け継いでいるとされる。
爬虫類と鳥類の祖先である竜弓類(蜥形類)の鱗から、哺乳類は独自に体毛を発達させてきたとされてきたが、その化石証拠は見つかっておらず、最近の遺伝子分析の結果、ケラチンの遺伝子は、すべての有羊膜類(脊椎動物のうち、両生類を除いた四足類、つまり哺乳類、爬虫類、鳥類)の共通する最後の祖先で出現したと考えられるという。

但し、α-ケラチン群とβ-ケラチン群に分かれており、
α-ケラチン群は、哺乳類の角やつめ、皮膚、毛髪、羊毛
β-ケラチン群は、爬虫類、鳥類の鱗、つめ、嘴などを構成
α-ケラチン群はポリペプチド鎖がすべて平行で、α-螺旋(らせん)構造とよばれる構造をもち、β-ケラチン群はポリペプチド鎖間に水素結合をしたβ-シート(折り紙構造)とよばれる構造をもつ。

●体毛の発達過程
2.7億年前の獣弓類ゴルゴノプスでは、吻部骨格表面に小さな窪みが多数確認されており、これが洞毛(ヒゲ)の痕跡と見られている。
哺乳類は胎児の発生過程では洞毛の後に体毛が生じるので、獣弓類ゴルゴノプスの段階で体毛を獲得していたとは断定出来ないが、獣弓類が「原毛」構造を備えていた可能性が指摘されている。一旦、毛状の構造が出来れば全身に広がるのにはさほど時間がかからなかったとされている。
洞毛(ヒゲ)の基本的な構造は体毛と同じ。ただし、毛包に海綿体様組織があり、そこに血液が流入して静脈洞を形成している。これが洞毛の名の由来である。洞毛の感覚は三叉神経によって伝達され、洞毛の運動は顔面神経が司っている。神経の数は体毛の数十倍で、接触を鋭敏に感じることができる。また、毛根部には横紋筋がある。

1億6000万年前 羽毛恐竜
2010年、中国の論文「獣脚類の恐竜-シノサウロプテリクスの羽毛にはメラニン色素を含む細胞内小器官-メラノソームが残っており、色の解析が可能となった」。 それによると、シノサウロプテリクスは背中から尾にかけて赤を帯びたオレンジ色の羽毛を持っていた。その後、アンキオルニスなども体色・羽毛色の解析が行われ、その結果、羽毛恐竜の羽毛は多彩な色をもつことがわかってきた。現生鳥類と同様、恐竜の羽毛にも異性に対するアピールや同種を見分けるためのディスプレイ、威嚇の役割をもっていた可能性が示唆されている。

一方、哺乳類の体毛は軟組織であるので化石記録は乏しいとされており、1.6億年前のカストロカウダや1.25億年前のエオマイアなどが最古の記録とされている。

8000万年前 大型のティラノサウルス類の体表は角鱗に覆われていたが、原始的なものでは体表は羽毛で覆われていたことが明らかになっている。このことは、大型のティラノサウルス類の体表は角鱗と羽毛の両方で覆われていたことを示唆している。

【参考】
「鱗」
「哺乳類の体毛 爬虫類のかぎ爪と起源が同じ」
「単弓類」
「毛 (動物)」
「うろこと毛の起源は同じ」
「ケラチン」

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