2010年09月17日
集団を超えた、共認原理に基づく婚姻体制って過去にあるの?9~父方交叉イトコ婚~
集団を超えた、共認原理に基づく婚姻体制って過去にあるの?シリーズ。
1、2、3、4、5に続いて、6はオーストラリアの限定交換、7はビルマのカチン族の全面交換、そして8全面交換と購買婚まで見てきました。
今日は、親族の基本構造の第3の型(これが最後です)、全面交換の父方交叉イトコ婚(父の姉妹の娘との婚姻)です。
父方交叉イトコ婚に入る前に、少し復習しておきます。
限定交換は、集団AとBが互酬的に交換する体系、つまり親族を二つの半族に分割する双分組織を土台にしているので、<私>から見て、父の兄弟の子供たちと母の姉妹の子供たち(平行イトコという)は同じ半族に属し、逆に父の姉妹の子供たちと母の兄弟の子供たち(交叉イトコという)はもう一方の半族に属します。
したがって<私>の婚姻の相手は、同じ半族に属す平行イトコではなく、もう一方の半族に属す交叉イトコとなりますが、その際父方と母方を区別しないので「双方」交叉イトコ婚と称されます。
(※半族の下位に4つのセクション、8つのセクションに区分するケースがありますが、上記の「平行」と「交叉」の二分法は生きており、このなかをさらに近い親等と遠い親等を区分することで対応します。)
(※内婚ならともかく、外婚を取る以上「平行イトコ婚」は存在しないことになります。)
応援よろしく
全面交換は、集団AとB、BとC、CとDというように一方向に連鎖する体系ですが、婚姻相手は「双方」ではなく、母方か父方かの交叉イトコを選好することになります。
ところが全面交換を取る社会では、母方交叉イトコ婚(母の兄弟の娘との婚姻、図の上Ⅰ型)が圧倒的に優勢であり、今回見る父方交叉イトコ婚(父の姉妹の娘との婚姻、図の下Ⅱ型)は忌避され少数です。
★ではなぜⅠ型(母方婚)が優勢で、Ⅱ型(父方婚)は少数なのか、図を見て紐解くことから本日のテーマに入っていきます。
その理由は、図にあるように、Ⅰ型(母方婚)では同型の構造同士を無理なくつないでいく、開かれた構造と呼んでよく、広範に連鎖していく構造を構築するのに対し、
逆にⅡ型(父方婚)は、上の世代で女が譲与され、下の世代で女が獲得されれば体系が不活発状態に戻る、閉じられた構造だからです。
いわばⅡ型の<私>の婚姻は、<私>の父が自分の姉妹を譲与した補償であり、一種の返還である<私>の婚姻をもって取引は終了する。これは、不連続交換原理から生じるのであり、無数の閉じた小さな体系の並置という形態に達するだけの力しかなく、全体を包括する体系を実現することができない。
よって、限定交換もⅠ型の全面交換も、第一に婚姻によって結びついた家族集団のあいだに最高の連帯を補償するだけでなく、第二にこの連帯がさらに社会集団全体に広がっていって一つの構造を完成させる。しかしⅡ型の全面交換は、いま言った第一の機能は果たしても、第二の機能を果たすことはけっしてないのである。
アッサムからインドネシア、ビルマから東シベリアにいたる全面交換エリアの全域で、Ⅰ型とⅡ型の対立をめぐる、同一論理の言い回しに出会ってきたが、これは原住民が上記のような本性に気づいていたことを示している。
・スマトラ島のバタクはⅡ型を公に禁止するが、それは「水は水源に戻ることはできない」ので。
・チベットと中国では、Ⅱ型は「骨肉の帰り」で、それが起これば「骨に穴があく」恐れがあるのでいけないこととされる。
・シベリアのゴリドも「血を運び去る」婚姻と「血を連れ戻す」婚姻を区別する。
・漢民族は「オバに倣う」婚姻と「家に帰る」婚姻を対置して、前者を「上り坂婚」、後者を「帰り婚」と呼ぶ。
こうしたすべての言い回しに伏在する対立は、明らかに前進運動と後退運動、自然な動きと不自然な動きの対立である。
しかし何事にも裏表がある。
Ⅰ型の婚姻は社会的にも論理的にもこのうえなく十全な定式をもたらす反面、冒険であり一か八かの賭けである。協力の足並みが乱れて集団による規則の遵守が破られればいつでも破産と背中合わせになる、先物投機なのである(長周期)。
それに比べてⅡ型の婚姻は、その野心のかぎられているがゆえにいちだんと確実性の高い売買操作、それどころかインセスト禁忌と両立しうる配偶者のうちで、いちばん確実な組合せである(短周期)。
全面交換は、はじめはあたかも限定交換に由来するように見えた、なにかわけの分らない要素を紛れ込ませて現れてきたが、これは全面交換体系それ自体の構造のもつ、(先ほど見た)性格に帰着する。
確かに理念的になら純粋な体系(Ⅰ型)を思い描くことはできるが、しかし人間社会はそこまでの抽象度に達したことはなく、つねに全面交換を父型定式(Ⅱ型)に対立させて、したがって同時にそれに結びつけて考えてきた。父型定式(Ⅱ型)が潜在的に働いていること、密かに伏在していることが人間社会に安全性をもたらしていたのであり、この安全性を除外する大胆さはもち合せていなかったのである。
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親族体系って本当に複雑ですが、文字ももたない原住民の構造的思考は凄いですね。
次回は、このような親族の基本構造を解明しようと取り組んだレヴィ・ストロースという人は、一体どのような時代状況の中で何を目的にしていたのかを紹介しようと思います。
最後まで読んでもらいありがとう~。次回をお楽しみに
- posted by okatti at : 2010年09月17日 | コメント (4件)| トラックバック (0)
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comments
階級社会や戦争の原因は、農業生産にあるように言わることがあります。
農耕の開始→余剰生産→富の蓄積遍在→戦争
しかし、因果関係はその逆だったのですね。
武力闘争が始まり、集団規模を拡大するため、効率的な生産や食糧の蓄積が必要になり農業が始まった。
農業の始まりの背景には、同類闘争圧力の上昇という外圧の変化、社会期待として捉え直せば「本源的な共同体を母体とした生存期待」から「自集団強化期待」への転換が、あったということですね。
こうして、外圧状況の変化や、それに伴う社会期待の変化という軸で考えると、生産様式転換という現象面だけなく、社会(人々の意識)の変化という現実を捉える事ができる。
外圧状況を把握することに加え、社会期待を捉える事で、「これから共同体の時代」の見通しも見えてきそうです。
> 階級社会や戦争の原因は、農業生産にあるように言わることがあります。
> 農耕の開始→余剰生産→富の蓄積遍在→戦争
>しかし、因果関係はその逆だったのですね。
>武力闘争が始まり、集団規模を拡大するため、効率的な生産や食糧の蓄積が必要になり農業が始まった。
さいこうさん。コメントありがとうございます。
富が蓄積されはじめたから、戦争が始まったと考えるより、
同類圧力が高まったから、蓄積をはじめたと考える方が、自然ですね。
現代人の感覚で歴史を見ると、見誤ってしまうという好例ですね。
どれだけ、当時の状況に同化できるか。やはり歴史は同化能力が問われるのですね。
hermes electric lebanon website 共同体社会と人類婚姻史 | 原始時代の社会期待(12)~同類圧力の上昇が生産様式の転換をもたらした~
共同体社会と人類婚姻史 | 原始時代の社会期待(12)~同類圧力の上昇が生産様式の転換をもたらした~
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