それでも同類圧力が最先端の課題であり、共認原理で結ばれている以上、相当のエネルギーが費やされたでしょうし、それなりの評価共認圧力が各集団間で働いていたと考えられます。だからこそ、生活必需品ではなく希少価値の高い物(道具の材料となる黒曜石や、装飾品の材料となるヒスイやコハクなど)が贈物として選ばれ、膨大なエネルギーを費やしてまでも遥か遠方まで贈物が運ばれたのでしょう。集団間の「評価」といっても、決して集団間の競争的な意識ではなかった思います。事実、贈物に対して決して見返りを求めることはなかったようです。あくまでも相手の期待に応えるという「応合意識」が根幹にあったのだと思います。採取時代の適応原理
前回は、その具体例のひとつとして、縄文時代の黒曜石・ヒスイの広域に渡る存在を紹介しました。今回は、引き続き、トロブリアント諸島で行われていた【クラ儀礼】を紹介したいと思います。
「クラ交易」にみる贈与 るいネットより
【クラ=装飾品の贈与】
クラは、ニューギニアのマッシムと呼ばれる地域の島々間で行われる贈与であり、ルイジアード島、ウッドラーク島、トロブリアンド諸島、ダントルカストー島等を含む。
写真と補足はこちらからお借りしました
《補足》メラネシアは太平洋南西部の世界第二の大きな島ニューギニア島を中心に、ニューアイルランド、ニューブリテン、ブーゲンビル、ソロモン諸島、ニューヘブリディーズ諸島、ニューカレドニア島、フィジー諸島などのとても多くの島々から成り立っています。メラネシア人は皮膚が暗褐色で髪は縮れ、パプア語とオーストロネシア語系のメラネシア語を話します。メラネシアの社会は小さく分散されており、人々はイモの栽培や漁業などによって生活を営んでいます。祖先や自然の精霊を信仰すると共に、豊富な想像力を持ち、芸術的な表現力に富んでいます。
年間を通じ温暖・湿潤な気候に恵まれ、魚介類が豊富という環境は、一見楽園のように思えます。
しかし、この自然外圧▼は、集団の共認統合力を著しく低下させてしまうという極めて重大な問題をはらんでいます。加えて、この島々は、農業に適した土地が少なく、人口△→集団規模の拡大は、島内の農地や磯場・漁場をめぐる争いを誘発する要因となります。
①外圧▼による集団の共認統合をどうするか?
②集団間の同類闘争をどう止揚するか?
この難課題を解決するために、彼らが着目したのが、「全ての共認は、評価共認に収束し統合される」という人類集団の集団原理だったのではないでしょうか。集団内・集団間を「評価共認」で統合するという形態が【クラ儀礼】だったのかもしれません。
それでは、その【クラ儀礼】の詳細を見ていきたいと思います。
贈与されるものは、二種類の装飾品であり、一つはムワリとよばれる貝の腕輪、もうひとつはソウラヴァ(あるいはバギ)とよばれる赤い貝の円盤形の首飾りである。ムワリは常に反時計回りに、ソウラヴァは時計回りに交易圏のなかを動く。
この装飾品にはまったく実用性がなく、他のいかなる品物とも交換することはできないので貨幣としての機能もない。ただ、それぞれの装飾品には、それをかつて所有した人々についての伝承が「物語」として付随している。これを長期間自分の手元にとどめておくことは許されず、次の交換相手へと手渡さねばならない。
クラ交易に参加できるのは男性だけで、参加資格を得るのは大きな名誉であり、「有名な」装飾品を手にしたものは、いっそう高い威信を手にする。クラに参加したものは装飾品のやりとりをする相手として「クラ仲間」を有しており、「堅い契りの義兄弟」関係として生涯にわたって持続する。
クラ交易そのものは経済的交易ではない。
だが、クラの機会に、島々の特産品の交換が行われ、情報やゴシップがやりとりされ、同盟関係の確認も行われ、クラが必要とする遠洋航海のために造船技術、操船技術、海洋や気象にかんする知識、さらには儀礼の作法、政治的交渉のためのストラテジーなどを参加者たちは習得することを義務づけられる。
内田樹の研究室より
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